夢を見ていた

 

 

 

青年は旅のひと

彼の道連れはふたつ

手を触れずとも歩き出す、古ぼけた人形

「力」を持つものに課せられた、はるか遠い約束

 

 

 

えいえんはあるよ

ここにあるよ

 

 


 

ONEVA

 

第5話   ちびーズ、襲来 Aパート

 


 

 

「KEY&Tactics系三部作かよっ!」

 

 がばっと起きるなり、俺は虚空に向かって突っ込んだ。

 む……なんだ、夢か。

 さる雪国で奇跡を起こしつつ、人形芸が全く鳴かず飛ばずに行き倒れて、永遠に旅立つという恐ろしい夢だった。

 ………しかも追ってくるヒロイン女が倍率ドン! で3倍だった。

 

「って、何だお前ら。その視線は」

 

 我に返り、辺りを見回すと教室中から冷たい視線が降り注ぐように送られていた。

 

「浩平さん………さすがに教師が寝るのはちょっと」

「浩平様………ダメダメ」

 

 呆れたようなうぐぅとレイの声。

 流石の俺も動揺して、誤魔化すように叫ぶ。

 

「全員自習!」

「「「「「テスト中ですってば!」」」」」

 

 間髪入れずに叫び返された。

 うぐぅ。

 

 

 

マルマルマルバツ、マルバツバツ

 俺は大量の答案用紙を前に、職員室にある自分の(前担任の)机に突っ伏した。

 

「あ〜、めんどくせぇ〜………なんで俺が生徒ガキ共の答案なんぞ丸付けしなくちゃいけないんだ」

 

 むぅ、よくよく考えたら別に真面目にやる必要はないな。

 全部○にしたり、×でも大丈夫だろう。

 

「大丈夫なわけないじゃないですか(汗)」

「む、少年か。相変わらず人の思考を勝手に読む奴だな」

「……相変わらず声に出してましたよ」

「そんな言い訳聞きたくない」

「どっちが言い訳ですかっ!」

「お前」

 

 一通りいつものトークを交わすと、少年ははぁっと溜息を付いた。

 

「まるで長森のような溜息だな」

「浩平さんに付き合ってれば誰でもこうなりますっ! ………あ」

 

 少年は急に何か思い付いた様な仕草を見せる。

 どうしたんだ?

 そうか、たい焼きの食い過ぎで腹でも下したんだな。

 

「違いますっ! ……いや、まあ、ワッフルはお腹が壊れるぐらい食べさせられましたけど

 

 何やらぶつぶつと口の中で呟く少年。

 どうやら、色々ストレスが溜まっているらしい。

 

「誰の所為で溜まっていると思ってるんですかっ!」

「何でもいいが、いい加減地の文俺の考えを読み取って反論するのは止めて欲しいぞ」

「今の今まで絶対完全無欠に一言一句逃さず口に出してましたっ!!」

 

 はっはっは、まったく少年は七瀬と変わらないぐらいからかい甲斐があるな。

 

「と言う訳で少年。もう俺は満足したから帰っていいぞ」

「え、あ、はい」

 

 俺も帰るとするか。

 答案は持ち帰って、ななぴー他二名にやらせればOKだろう。

 レイも自分の答案を直せるし、ノープロブレムだ。

 呆然とした顔の少年を残して、意気揚々と帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

「……はっ! 良く考えたら茜さん達の事相談しに来たんじゃないか僕は! 待って、浩平さ……」

ガンッ!(スネを机の足にぶつけた)

「う、うぐぅ……」

 

 

 

 

「折原先生〜〜〜!!」

 

 家に帰ろうと(※職員会議等は自主的に休み)廊下を歩いていると、渡り廊下の向こうから女子生徒が俺の名前を叫びながらパタパタ走ってきた。

 確か、うちのクラスの奴だったな。

 

「よぉ。告白ならいつでもどこでも受け付けるぜっ(きらりん)」

「い、いや、その〜……そういうんじゃないんで。っていうか先生、生徒口説いていいんですか?」

「大丈夫だ!(きっぱり)」

「うぅ、なんでこの担任は根拠無しな事を自信たっぷりに言い切れるかな……」

「俺だからだ!(きっぱり)」

 

 とまあ、軽い冗談はさておいて。

(※言うまでもなく、今のでOKされたら手を出したが。男として当然の如く)

 

「で、どうしたんだ? だよもん星雲のだよもん星からだよもん星人でも襲来したか?」

「そ、そうじゃなくて! 教室に折原先生を尋ねてきた二人組が……」

 

 ―――瞬間

 俺は風になった。

 

「って、先生ー!? どこに行くんですー!?」

「あでぃおーすっ! そいつらは煮ても焼いてもオールナッシングだからむしろ焼けっ!」

 

 捨て台詞と共に、俺はさっさと逃走に走るのだった。

 

 

 

「ちいぃっ! 二人組だと!? 一体誰だ!?」

 

 時速30kmのスピードを生身で持続しながら、俺は思考を巡らす。

 二人組と言えば茜&詩子か? 神出鬼没っぽい現れ方も納得行くし。

 いやいや、あいつら―――もとい、C子なら前情報なくいきなり俺の元へ現れる筈。あいつはそういう奴だ。

 だったらみさき先輩や澪、雪見先輩か?

 いやいやいや、目の見えない(というより限りなくボケが入っている)みさき先輩や、口が利けない(というより限りなくドジな)澪がそう簡単に俺の元へ辿り着けると思えない。

 例え雪っち先輩が着いていても、だ。

 

「そうなると―――くっ、消去法でだよもんにみゅーか! 冗談で言ったのにマジでだよもん星人襲来とは……」

 

 が、あの二人なら戦力的にかなり低い。

 こっちには汎用乙女型最終兵器ななぴーがついているので、合流さえすれば撃退は可能だ。

 七瀬もなんだかんだ言って、今の生活を楽しんでるので撃退してくれるだろう………決して『今は3人、やつらに捕まったら12人。さあ、どちらの方がいいかな?』なんてそそのかしたりしていない。

 ……捕まったらいくら俺でも絞り殺される気がしないでもないからな、うん。

 『何を絞りとられるの?』とか聞くな。『ナニを』と答えるしかないから(笑)

 とにもかくにも、追跡されないようにする為には証拠を残さない、つまり足跡を消して行く事が重要だ。

 学校がばれたのは痛手だが、住処がバレルのはもっと痛い。

 

 そんな事を考えつつ、足を三倍の速度で回転させていると下駄箱に佇む人影が一つ。

 それは俺を見ると手を振り、大きな声で―――

 

「あ、浩平さ〜ん!」

「モンゴリアンチョップッ!」

「うぐぅっ!?」

 

 モンゴリアンチョップ―――両の手で相手の首を挟むようにして放つ延髄チョップを受け、少年が蹲ってぷるぷると震える。

 あまりの痛みに、声すら出ないらしい。気の毒なことに。

 

「少年、今俺の名前を呼ぶと痛い目見るぞ?」

「………い、痛い目に合わせてから言わないでください(ぷるぷる)」

「でわ、さらばだ。また会おう」

「ち、ちょっと『トスッ』ま゛っ!?

 

 再び放たれた延髄チョップに、愉快な悲鳴を上げて床に崩れ落ちる少年。

 許せ、少年。足跡は全て消していかなければいけないのだ。

 少年の死は決して無駄にしないぞ。

 

「浩平〜!」

ビクッ

 

 しまった!? 発見されたかっ!?

 遠くから聞こえてくる聞きなれただよもん声に、俺は下駄箱の靴を引っつかむと昇降口を飛び出した。

 残念ながら、少年の死はあっさり無駄になった(早)。

 

「浩平〜!」

 

 姿は見えないが、声は確実に近くなってくる。

 俺は校門から逃走しようと一気にダッシュをかけ―――

 

ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んどかっ

ずべしゃああああああ

 

 肩に掛かった突然の重さに、顔面から地面へヘッドスライディングする。

 

「浩平!」

「ヒトチガイだよもん。折原浩平なんて知らないだよもん」

「『おりはらこうへい』って、フルネームまで言ってるよ?」

「違うだよもん。『せつげんひろたいら』っていっただよもん」

「無理あるよ、それ……」

 

 うむ、俺もそう思う。

 会話で活字ネタは無理があるしな。

 

「っていうか、ひゅ〜んって擬音はなんだ!? 人間は空飛べないからそんな擬音も出せないんだぞ? 猫好きが生じてついに人間止めて猫になったのか長森!?」

「うんと……猫さんは飛べないから、猫さんになっても意味ないと思うけど……その前に訂正しておくよ」

「何をだ? 長森」

「わたし、長森じゃないもん。『みずか』だよ」

「は……?」

 

 振り向くと肩に乗っていたのは長森だよもんではなく、ちびだよもんだった。

 イノセントアイがぷりちー。

 

「な、なんでお前がここにいるんだ!? ここはえいえんの世界じゃないぞ!?」

「えへへ……追っかけて来ちゃった」

「えへへて、おい……」

 

 照れ笑いしながら、ぎゅっと首にしがみ付いて来るちびだよもん。

 可愛いぞ、ちくしょう。

 しかし、この図は洒落にならない気がしないでもない。っていうか、まんまロリーだ。

 少なくとも、中学校という公共施設で堂々とするものではない。

 

「とりあえず、離れてくれると嬉しいぞ。俺の立場的に」

「あ……嫌だった?(うるうる)」

「別に嫌じゃないんだが……なんつーか、俺の名誉というか社会的信用というものがゴリゴリ削られる気が」

「浩平さんに失う信用なんて、最初から無いじゃない『ドスッ』でふっ!?

「うるさい少年。っていうか、お前復活早すぎだ」

「………(ぷるぷる)」

 

 再び蹲って、無言で震える少年。

 いい加減酷い目に合い慣れて、復活スピードが上がってきているらしい。

 ある意味、不憫といえば不憫だ(他人事のように)。

 まあ、そんな細かい事はいいとして、問題はこっちだな。

 

「みずか、お前ってこっちの世界現実に来れたのか?」

「来れなかったら、今ここにいないよ」

「いや、それはお約束っつーか、ご都合主義つーか……」

 

 少なくとも俺がここにいる時点でご都合っぽい。

 

「うんとね、わたしが来たのは浩平に会いたかったのももちろんなんだけど………一人、会わせたい人が居たからなんだよ」

「会わせたい……人?」

「うん」

「ふむ………つまり3ぴ「違うよっ!!」

 

 ぬぅ、何も速攻で否定しなくても。

 ちびだよもんは真っ赤な顔で『違うんだよっ』『違うもんっ』『わたし、そんなことしたくないもんっ』『するなら二人で……』等とパタパタと暴れ周り―――しばらくして落ち着いたのか、少々赤い顔のまま深呼吸する。

 それにしても会わせたい人? 一体、どこのどいつだ?

 ………まあ、長森達ではないだろう。直接な面識は無い筈だし。

 

「み、みずかちゃぁん……私を置いていかないでよぉ……」

 

 ―――え?

 

「一緒に飛び降りれば良かったんだよ」

「無茶だよ〜。だって、3階だよ? あんな高さから飛び降りたら死んじゃうよ」

 

 みずかと、話をする少女。

 おそらく同年代、そして小奇麗に切りそろえられたショートカット。

 ―――懐かしい栗色の柔らかな髪。

 

「あ……」

「……っ」

 

 どくんっ、どくんどくんどくんどくんっ

 少女がこちらを振り向く。

 ―――懐かしい、その、顔。

 ―――いつも、泣きそうだった、そしてその癖嬉しそうだった、その、表情。

 

「お、お兄ちゃん……?」

「……………みさ……お……」

 

 

 

続く


 珍しくシリアス(?)な引き。

 そして、うぐぅ化に引き続き、シンジ進藤化。

 みずいろ完全クリア記念ということで(待て

 あと、モンゴリアンチョップは本来両肩に当てる技だけど、今回は浩平アレンジ。

 っていうか、延髄は本気で危ないので良い子も悪い子も真似しないで下さいねー(笑)

 


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