今、一つの危機が迫ってくる。
だが、どうということはない。
それから逃げるためには、たった一つの決断があればいい。
「―――という訳で、愛のボロマンション脱出大作戦を決行しようと思う」
「なにが『という訳』なのよ?」
「話がいきなり過ぎますよぉ」
「………愛は関係ないと思うの」
俺の素敵な提案は全員にボロクソ言われた。
ぬぅ、だが、ツッコミ方は中々だ。
「察しの悪い奴らだ。つまり昼は蒸し暑く、夜は寒いこの欠陥住宅から出ようと言っているんだ」
「ああ、そう言う事。それなら反対しないわよ」
「私も賛成です」
「………どこでもいい」
と、全員から今度は良心的な答えが返ってくる。
うむ、さすがにこのコンクリート剥き出しのボロ部屋は嫌だったらしいな。
元の住人のレイは気にしてないようだが。
「だからチャッチャと荷物をまとめるが良い」
「何をえらそうに………」
「はーい♪ わかりました♪」
「………了解」
全員俺の合図と共に少ない荷物をまとめ始める。
七瀬もぶつくさ言っている割には一番手際よく精力的に動いている。
………やっぱり、昨日色々とストレス解消したからか?
俺から何かを吸い取って、肌の艶も良くなってるし。
「よーし! 何一つ痕跡を残すんじゃないぞ!」
「折原……夜逃げじゃあるまいし」
「うむ、昼間に逃げるから昼逃げだな」
どっちにしても逃げるんだが。
…と、七瀬が荷物を鞄に詰めていた手を止め、見上げてくる。
「……って、ちょっと待ちなさい。逃げるってどういうこと?」
「む、今のセリフは忘れてくれ。器用にそこの部分だけ」
「できるかっ!」
「なにっ!? 努力が足りないぞ、ななぴー!」
「努力の問題か! それに誰がななぴーよ!」
よし、話を上手い具合に逸らせたな。
それにしても切れ味抜群のツッコミだな。
ズガシュッッ!
七瀬の拳によってこの部屋にあった数少ない家具の一つ、机兼タンスがその短い一生を終える。
うあ、タンスの上に置いてあったビーカーとメガネがぐしゃぐしゃに(汗)
タンスに至っては真っ二つに割れてるぞ、おい。
「折原、正直に物を言いなさい。さもないと、このタンスと同じ運命を辿るわよ」
「イエス、サー!」
七瀬は拳まで切れ味抜群だった。
「実はこの近くに甘味スキーが来てるらしいのです。サー」
「茜が? ってどうしてずっとあたし達と一緒にいた折原がそんな事知ってるのよ」
「我が軍の情報収集能力を持ってすれば簡単な事です。サー」
いや、赤ジャンパーのおばさんに発信機兼盗聴器を着けてただけだが。
「我が軍の戦力は甘味スキーを圧倒的に上回っているのですが、接触すると他の援軍『だよもん』や『C子』等に発見される恐れがあった為、本部の移転を提案するのであります 」
「つまり、茜を煙に巻くのは簡単だけど、構ってる間に瑞佳や柚木さんが来るから逃げようって事ね」
「ぐあっ……七瀬、俺はそんな短絡的な言い方好きじゃないぞ」
「あんたの言い草が遠回し過ぎるだけでしょがっ!」
ツッコミ&解説ありがとう、ななぴー。
「特に『C子』は戦力的に見てかなり強力なので速やかに戦略的撤退を申請します。サー」
「その訳の分からないギャグはもういいわよ………確かに柚木さんはあんたの馬鹿に対抗できる唯一の人材だもんね」
力いっぱいほっとけ。
あいつは苦手だ。
まあ、いい。とっとと逃げる行くとするか。
「って、折原。あんたどこか引っ越す当てはあるの?」
「ああ、任せとけ。ちゃんと確保してある」
俺は風呂敷に包まれた荷物を持って立ち上がった。
「ぬぅ……まさか、強盗が出没するとは。なんて治安の悪い街だ」
「………職務質問かけてきた警官に見えたけど」
「いや、あれはどこからどう見ても警官に変装した強盗だ。俺達のどこに職質をかける要素があるというのだ?」
「風呂敷袋抱えて移動してる時点で十分職質の対象になると思うわよ、あたしは」
「―――で、ここが俺達の新しい愛の巣だ」
「人の話を聞けっ!」
今現在、俺達はとあるマンションの玄関前に来ている。
俺の後ろに着いて来ているマイラヴァー達も予想外に大きく綺麗なマンションに驚いているようだ。
なにせ、七瀬すら文句をいいつつも、興味深げに辺りを見回しているからな。
「ふっふっふ、どうだ七瀬。もう甲斐性無しの浮気者なんて言わせねえぞ」
「た、確かに折原の癖にだいぶ……ううん、すっごく立派な所だけど……」
なにやら悔しげに呟く七瀬。
はっはっは、非常に気持ち良いな。
「浩平さん。なんでドアの表札に『葛城』って「おお、ミサキは可愛いな〜(グリグリ)」
『いた、痛いです〜〜!』なんて声は俺の鼓膜に響いてない。
「素直に『聞こえない』って言いなさいよ」
「………無理。これが浩平様の生き方だから」
「ふっ、二人ともそんな所で達観してないで助けてくださいよ〜!」
「さっさと中に荷物運び込みましょ」
「………ええ、少し疲れた」
「ひ、酷いぃ〜〜」
プシュン
トテトテ
唐突に扉が開き、中から出てきたナプキン、エプロン、そしてハタキと言う伝統の掃除婦スタイルのそれを見て3人が固まる。
ふっ、修行が足りないな。
「おお、任務は完了したか?」
「クワッ」
「む、ご苦労。報酬の高級秋刀魚だ。受け取るが良い」
「クワワァ………」
「なにっ!? なぜ宝箱に入っているかだと!? これが普通だろう!?」
なぜかそれは報酬の秋刀魚が宝箱に入っているのが不満らしい。
おかしい、報酬とは宝箱で渡すものなのに。
ぱかっ
それが渋々といった様子で宝箱を開ける。
―――と、何故か怒り出した。
「クワワーーーー!」
「何っ!? 契約違反だと!?」
「クワッ!」
それにビシッと宝箱の中を指差され、中を覗くと―――ひのきの棒と50ゴールドが入っていた。
「ああ、すまん。クラスの連中をからかう為に用意した物と間違えた。本物はこっちだ」
「クワワー♪」
「はっはっは」
「はっはっはじゃないわよ、このスカタンッ!」
いきなり、七瀬が吼える。
あまりの迫力に隣にいたミサキが意識を飛ばして倒れた。
どうした? 闘いが最近なくて欲求不満か?
「人を戦闘狂みたいに言うなっ! それよりそれは何よっ!?」
「………俺が雇った清掃員だが?」
「なんでペンギンなのよっ!?」
「いきなりの差別発言か。感心しないぞ、七瀬。人類皆兄弟と言うではないか」
「思いっきり鳥類でしょうがっ!」
「む、それは盲点だった」
「最初から気付けーーー!!」
はっはっはと朗らかに笑うと、七瀬がブンブンと拳を振り回して暴れまわる。
むぅ、欲求不満か。
今度、ななぴー改と戦わせてやろう。
「では紹介しよう。この度、家の清掃を担当するペンの乗だ」
「クワッ」
「……あんたが付けたわね。そんな悪趣味な名前」
「いや違うぞ。首輪に書いてあった」
『PEN2』と。
もしかしたら、ペンツーかもしれないが。
まあ、どちらにしてもハイセンスな名前に変わりない。
「まあ、名前は百歩譲って良い事にするわ。それよりなんでペンギンが掃除できんのよ」
「三食昼寝付きと言ったら軽やかに掃除をし始めたぞ?」
「どんなペンギンよっ!!」
「生存本能とは偉大だな」
「説明になってないわよ!」
俺と七瀬が愛情を確かめ合っている間に、ただ荷物を持って佇んでいたレイがペンギンの傍に寄り話しかける。
「………あなたも浩平様に拾われたの?」
「クワッ」
「そう、あなたもなのね」
「クワワッ」
「浩平様にはもう食べられたの?」
「………クワ?」
「そう、まだなのね」
「ちょっと待てい!! 誰がペンギンファッカーだ!」
「浩平様」
「折原、鬼畜だもんねぇ?」
くそぅ、いくら俺でもペンギンとやる訳ないだろ。
某北の国の奇跡青年じゃあるまいし。
あっちは狐だが。
「………もういいわ! とっとと入るわよ!」
七瀬が未だに気絶しているミサキを引きずりながら、ズンズンと中へ入っていた。
それに続くようにレイとペンの乗がドアをくぐる。
まったくせっかちな奴らだ。
俺は入る前に懐から極太マジックを取り出し、
きゅっきゅっ
これで良しと。
見て納得すると、俺も家に入っていった。
『葛城折原・ザ・グレート』
「こ、浩平さ〜ん………って、いない!? つーか廃墟!?」
「ちょうどいいです。ここを拠点にしましょう」
「あの、拠点って………僕もここに住むんですか?」
「当たり前です。浩平の元に行くまでは付き合ってもらいます」
「マジですかーーーー!?」
「マジです」
「あ、茜こんな所にいたんだー」
「里村さん、浩平みたいにいきなりいなくなるからびっくりしたよ」
「だ、誰ですか、あなた達ーーーー!?」
………次なる危機は確実に迫っていた。
うぐぅの不幸と共に。
後書き
ども、皆さんお久しぶりのランバードです(汗)
えーと………半年振りですか(激汗)
『執筆停止したんですか?』『再開してください』などとメールをたくさん貰ってなんとか復帰しました(苦笑)
………いえ、復帰したもなにも、凍結したつもりも中止したつもりもなかったんですけどね。ネタ切れしてただけで(笑)
さて、ONEVA第4話が出た所でいくつか来た質問にお答えしましょう。
Q1『「ONEVA」とはなんて読むんですか?』
A1『「おねヴァ」です。読みにくいですが(笑)』
Q2『茜やみさき先輩、澪に繭はいつ出るんですか?』
A2『茜は今回出ましたが、後のメンバーについては神のみぞ知ります(笑) つーか、長森はいいんかい(笑)』
Q3『浩平は実の妹や実の叔母には手を出したんですか?』
A3『出したような気がしないでもない風味(おひ)』
というわけで次回襲来予定はチビ二人!(たぶんっ)
好ご期待!
………次は何ヶ月も開かない様にしないと(汗)
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