降り続ける雨。

 僕の身体に叩きつけられるそれは、とても冷たくて。

 身体を、心を、芯まで冷やしていく。

 それが僕には辛くて、寂しくて―――

 

スッ

 

「え―――」

 

 僕が顔を上げると、そこには差し出された一本のピンク色の傘。

 

「あの、いいんですか?」

「―――雨の中、一人で傘も差さずに立っているのは寒いですから」

 

 『彼女』の言葉は慈愛に満ちていて―――同時にほんの少しの憂いを帯びていた。

 

「ありがとうございます。けど、遠慮しておきますよ。………僕が傘を使ったら、あなたが濡れてしまいますから」

「だったら、雨が止むまで付き合います」

「でも、迷惑じゃ………」

「迷惑です。でも、放っておいて倒れられたら、後味が悪いですから」

 

 はっきりと遠慮無しに言う『彼女』の言葉に苦笑する。

 まるで―――あの人と喋ってるみたいだ。

 外見も性格も口調も印象も、性別ですら違うのに、そんな事を思った。

 理不尽で自分勝手でその場のノリですぐ暴走して………。

 

 でも―――肝心な時には泣きたいほど優しくて。

 

「………どうかしたのですか?」

「い、いえ、なんでもないです」

 

 目の前の『彼女』と『あの人』はまったく結びつかないのに、僕は『彼女』から『あの人』と同じ物を感じていた。

 でも、まあいいか―――この時間、この空気はこんなにも居心地が良いのだから―――

 

「ひとつだけ、聞きたいことがあるのですが………いいですか?」

「はい、別に良いですよ」

 

 僕は快く頷く。

 

 後で良く考えると、僕は自分の『うぐぅ』としての不幸さを自覚していなかったのが馬鹿だったのかもしれない。

 

「この街で………馬鹿で、アホで、その場のノリだけで生きていて、前髪が長くて鬱陶しい物凄い女タラシ―――そんな生物、見たことありませんか?」

「………え゛?」

 

 やっぱり、僕はどこまで行っても『うぐぅ』だった。

 

 


 

ONEVA

 

第4話   甘味スキー、襲来 Aパート

 


 

 

『なんですって!? シンジ君が家出!?』

「そうなのよ………今朝置き手紙があって………」

『ミサト、なんでもっと早くに連絡しなかったの?』

「そ、それが………ちょっちさっきまで寝てて」

『………えびちゅね、ミサト』

「な、なはは………で、MAGIでちょちょいとシンジ君の居場所を探してくれると嬉しいんだけど」

『探してどうする気?』

「もっちろん会うに決まってるじゃない」

『………彼にあんな事をしたのにどの面下げて会う気なの?』

「あ、あんなことって………ちょっと命令違反してくれたから3日間営倉しただけじゃない!」

『ええ、『彼』のアドバイスを受けたシンジ君を逆恨みして営倉送りにした挙句、その3日間食事を一切与えなかっただけよね?』

「ぐっ………わ、悪かったと思ってるわよ! だからちゃんと出てきたシンジ君に愛情たっぷりのカレーを作って食べさせてあげたのよ!」

『それね、トドメは………気の毒に』

 

 

 

「ほうほう、家出か、少年は」

「………浩平様、それ何?」

 

 家でのんべんだらりとベットで寝転んでいた俺に、同じくベットに寝ていたレイが声を掛けてくる。

 何故か二人とも布きれ一枚も身に着けていないが、理由は秘密だ。

 

「なに、ちょっとした情報収集だ」

「………イヤホンとその先に付いているラジオのような機械で?」

「うむ、情報は常に新鮮なのがベストだからな」

 

 む、ラジオとは惜しいな。

 電波を受信するという点では確かに同じだ。

 ただ、特定の電波を受信する代物だが。

 

「ちなみにおばさんの家には楽に進入できたぞ。まったくガードの甘い家だった」

「浩平さん、どこ見て喋ってるんですか?」

 

 カメラ目線で読者に説明する独り言を言う俺にこれまたベットに寝転んでいるミサキが聞いてくる。

 やはり服を着ていないが、理由は大人の事情に付き秘密である。

 悔しかったら大人になってみろ。

 ………レイは中学生、ミサキは小学生だが諸般の事情により、既に大人である。あっはっは。

 

「………浩平様、学校には行かなくていいの?」

「む、そういえば、もうすぐ昼だな」

「………忘れてた?」

「そんなことはないぞ。今日は土曜だし俺の担当授業ないからな」

 

 職員会議はあった気がするが。

 

「レイこそいかなくていいのか?」

「………浩平様が今の今まで離してくれなかったの」

「浩平さんったらケダモノみたいでしたもんねー」

 

 レイとミサキが顔を見合わせて、うんうんと頷く。

 

「そ、そんなことより、ミサキの方は学校行かなくていいのか?」

「ちょっと話の逸らし方が苦しいです」

「黙れ、ちんちくりん」

「ち、ちんちくりん………(涙)」

 

 む、思わず本音が。

 ミサキの瞳はじわぁっと涙腺が崩壊寸前だ。

 これはまずい、子供特有の爆発寸前の兆候が出ている。

 

 なでりなでり

 

「わ、悪かった………なんか奢ってやるから許してくれ」

「わーい♪ 私、チョコパフェがいいです♪」

 

 泣いたカラスがもう笑った………っていうより、最初から泣いてなかったなこいつ。

 ぬう、この俺が騙されるとは……不覚!

 

「………私はニンニクラーメンチャーシュー抜き」

「お前は駄目だ。金が持たん」

「………食べたいのに」

「七瀬にでも奢ってもらえ。そのままの姿で七瀬に頼めば何でもいうこと聞いてくれるぞ」

 

 だからな、七瀬は。

 きっと萌えにも通じているだろう。

 

「………ほんとう?」

「ああ、本当だ」

 

 ただしラーメンを食べる前に、七瀬に食べられる危険性があるが。

 

「人聞きの悪い事言うなーーーーっ!!」

 

ゲシッ

 

「お、おうっ………な、七瀬何故ここに………」

「あたしもずっっっと昨日から一緒にいたでしょがっ!!」

 

 七瀬は身体にシーツを巻きつけて睨みつけてくる。

 今まで寝ていたようだが、俺達の会話で起きたらしい。

 

「ああ、そうか。そういや昨晩は4Pを……」

「言うなっ、アホッ!」

 

ガスッ

 

 みなまで言う前に顔を真っ赤にした七瀬に殴り倒される。

 痛いが、もう慣れたものだ。

 照れ隠しの七瀬のパンチは岩をも砕く………が、浮気制裁の拳(山をも砕く)よりは万倍もマシだからな。

 

「やはっ、おはよう七瀬」

「なんで平然と何もなかったように挨拶してるのよ………」

「はっはっは、そんなことはどうでもいいから飯作ってくれ。腹減った」

 

 半眼でぶつぶつと文句を愚痴たれながらも、台所に歩いていく七瀬だった。

 愛い奴だ。

 俺と七瀬のやりとりをずっと見ていたミサキはぽつりと呟く。

 

「仲いいですね、浩平さんと七瀬お姉さん」

「そんなことはないぞ。こう見えて会うたびに生傷が絶えない間柄なんだ」

 

 冗談じゃないところが自分でも怖い。

 

「でも………ちょっと羨ましいです」

「俺と殴り合いたいのか?」

「そ、そういうわけじゃないですけど」

 

 苦笑しながらミサキはベットから立ち上がる。

 

「じゃ、私も七瀬お姉さんのお手伝いしてきますね」

「おう」

「………私も」

「レイは座っとけ。というか座れ、動くな」

 

 続いて台所に向かおうとするレイを素早く制止する。

 

「………どうしてそういう事言うの?」

「お前が行くと野菜サラダだけになるだろ?」

「………そんなことない。肉抜き野菜炒めも」

「一緒だ!」

 

 レイは肉嫌いらしく、一切合財肉を口にしない。

 それだけならいいのだが、調理していると他の人の分の肉まで処分するのだ。

 草食動物じゃあるまいし、さすがにそれは勘弁だ。

 

「ったく、茜を思い出すな………」

 

 茜は人の食事まで甘くしたからな。

 砂糖漬けとか練乳漬けとかサッカリン漬けとか。

 

「………茜って誰?」

「甘味スキーだ」

「………もう少し詳しく」

「瞬間『嫌です』製造機だ」

「………そう、良く分からない」

「奇遇だな、俺もあいつの舌だけは理解できない」

 

 あいつの練乳ワッフルとサッカリン丸呑みだけは理解できない。

 ………というか、普通人が同じ事したら即死するな。

 

「折原ー! レイー! 出来たからさっさと来なさいーー!」

 

 と、台所から七瀬の叫び声が聞こえてくる。

 む、中々に早かったな。3点やろう。

 

「……3点、高いのか低いのか良く分からない」

「俺の考えを感じ取ってないで行くぞ、レイ」

「………声に出てたの」

「言い訳はいいから行くぞ」

 

 釈然としない様子のレイを引き連れて、寝室(寝室と風呂と台所しかないが)を後にする。

 それにしても茜か。

 珍しい奴を思い出したもんだ………今頃、何してるんだか。

 

「折原ーーーー!」

 

 おぅ、包丁を持ち出されないうちにさっさと行かないとな。

 

 

 

 

 

「へえ、浩平さんって昔からああだったんですか」

「はい、そうです。……初めて会った時からああでした」

 

 嬉しそうに微笑みながら頷く女性は里村茜さん。

 なんでもあの浩平さんの彼女なのだそうだ。

 それで急にいなくなってしまった浩平さんを訪ねて、わざわざこの街に来たらしい。

 傘に入れて貰った恩があった僕はそれを聞き、快く浩平さんの所に案内することにした。

(※ちなみに浩平さんの家の住所は、学校に電話を掛けて聞いたらすぐに教えてもらえた)

 そして、こうして浩平さんのことで話も合い、意気投合していたりする訳だ。

 

「急にいなくなった訳は………まあ、浩平さんですしね」

 

 きっと『急に旅に出たくなった』とか、『男なら北を目指せ』とか訳の分からない理由だろう。

 僕が一人で納得して頷いていると、茜さんは首を横に振る。

 

「………逃げたんです」

「え?」

「浩平は………私を捨てて、逃げたんです」

 

 ズーンと空気が重くなった気がする。

 

「え、え〜と………なんでですか? 浩平さんなら大抵の事だったら笑って切り抜けるか………」

 

 『見切りを付けてとっとと逃げ出すか』という台詞は慌てて飲み込む。

 

「浮気がばれて逃げ出しました」

「うわ………最低………」

 

 こ、浩平さん………そりゃマズ過ぎますよ(汗)

 

「で、でも、きっと浩平さんも反省して頭冷やす為に住んでた所を離れたんですよっ!」

「反省? 浩平がですか?」

「う゛」

 

 反省という文字があれほど似合わない人も珍しいだろう。

 

「瑞佳さんや七瀬さんだけならまだしも………まさか十股されてるとは思いませんでした」

「じゅ、十股ーーーー!?」

 

 二股三股と言うのは聞いたことあるけど、十股って………。

 それに『瑞佳さんや七瀬さんだけならまだしも』って、浮気は半分確定事項だったんですか?

 

「そ、それは酷いですね………(汗)」

「ええ、本当に………詩子にまで手を出していると知った時は刺そうかと思いました」

 

 クスクスと邪悪な笑みを零す茜さんに、下半身がガクガク震える。

 もしかして僕は今、男女関係のもつれによる殺人のお手伝いしてますか? オーバー?(恐怖に付き意味不明)

 

「大丈夫ですよ」

「へ?」

「今はそんなこと思ってませんから………ただ、会いたいだけです」

「あ、茜さん………」

 

 そっと目を瞑り、穏やかな表情でそう呟く茜さん。

 なんて良い人なんだ………。

 

ザザッ

 

「へ?」

 

 道を相合傘で歩いていると、あっという間に黒服の男達に囲まれる。

 こ、これは……NERV!?

 周りの黒服の男達を見て、茜さんは眉をひそめる。

 

「………キャッチセールスはお断りです」

「この人たちのどこがキャッチセールスに見えますかっ!?」

「事務所に引っ張り込んで商品を無理矢理買わせる極悪キャッチセールスに見えます」

「あ、なるほど」

「………我々はNERV保安部の者だ。サードチルドレン、来てもらおう」

 

 僕と茜さんのやり取りをまったく気にせず、黒服の人が話し掛けてくる。

 くっっ、この人たち僕を……あのカレーミサトさんの元に帰すつもりだな!?

 嫌だ、死にたくないっっ!

 僕が逃走する為に一歩二歩と後退していると、茜さんが庇うように前についと出る。

 

「サードチルドレンと言うのは………シンジの事ですか?」

「そうだ。サードを引き渡して貰おうか」

「嫌です」

 

 きっぱりと間髪置かずに言い放つ茜さん。

 ああ、本当になんて良い人なんだ………到底浩平さんの彼女とは思えない。

 いや、あの浩平さんの彼女になるには、こんな良い人じゃないと無理なのかも。

 

「こんな怪しげな連中に知り合いを引き渡すほど、私は非人間的ではありません」

 

 あ、茜さん………庇ってくれるのは嬉しいんですが、そんな真正面からけんか売らなくても。

 

「ですが………これを食べて頂けるのなら信用しましょう」

 

 そう言って茜さんが懐からおもむろに取り出したのは………ワッフル?

 このタイミングでワッフル………もしかして、それってですか?

 同じ事を思ったのか黒服の男も眉間に皺を寄せてワッフルを見ている。

 それを読み取ったのかどうかは知らないけれど、茜さんはワッフルをぱくっと口にして、

 

「………美味しいです」

 

 穏やかな表情でそうのたまった。

 そしてもう一つワッフルを取り出して―――って、今ワッフルどこから出した?

 まったく見えなかったぞ?

 ……と、とにかく、茜さんは新しいワッフルをずいっと黒服の男に突きつける。

 黒服の男は眉をしかめて躊躇っていたが、やがて渋々受け取る。

 

「これを食べたらサードチルドレンを引き渡すんだな?」

「はい」

 

 即答ですか!?

 そして、黒服の男はワッフルに齧り付き―――

 

 

 

 

 

「だあああ〜〜〜〜〜っ!」

 

 周囲をまったく気にせずワッフルをパクつく茜さんの手を引いて、僕は走った。走りまくった。

 後方からは黒服の男達数十人と、連絡を受けたのか駆けつけてきた僕の保護者(酔っ払って銃を乱射しながら、被保護者を追い掛け回すのが保護者と呼べるのだとしたら)が投降を呼びかけてきている。

 

「サードチルドレン! あと10数えている内に投降しろ! さもなくば強硬手段を取る!」

「シンジーーーー! さっさと投降しないと鉛玉喰らわせるぞコラァーーーー!」

「か、葛城一尉! 威嚇するのはやめて下さいっ」

「なんだとオラァァァ!」

 

 ………降伏勧告ではなく、殺人予告かもしれないが。

 

「………シンジ、疲れました。なんとかして下さい」

「何を他人事のように言ってるんですか、あんたはぁぁぁぁぁぁ!!」

「あの人達はシンジを捕まえに来ているんですよ」

 

 『だから私には無関係です』とでも言わんばかりの口調だ。

 

「茜さんが事態をややこしくしたんでしょうがっ! 第一、訓練受けた大の大人を一瞬で失神させるなんて、一体全体どんなワッフルですか!? さっきワッフルを食べた人、泡吹いてましたよ! 泡!」

「ごく普通のワッフルです。正式名称は練乳蜂蜜ワッフルですが」

 

 うぷっ………練乳蜂蜜って………。

 かなりの甘党でもそのタッグはキツイのでは………。

 

「あの………それって名前だけですよね?」

「はい」

 

 そ、そうだよな。

 いくらなんでもそんな聞いただけ口の中が甘くなりそうな代物を使うわけないよな。

 

「もちろん、練乳蜂蜜だけではありません。砂糖はもちろんのことメイプルシロップや極秘裏に輸入して貰ったサッカリンなども混ぜています」

「ほんとに食い物ですかーーーー!?」

「………失礼です」

 

 もう、叫びつかれたよ………(涙)

 浩平さん、もしかして逃げたした真の理由はコレですか?

 

 そうこう言っている内に市街を出て、何もない野原に出てしまう。

 ま、まずい! 遮蔽物がないここだとミサトさんの銃弾の良い的だ!

 

バキューン、チッ

 

 予想通り容赦なく、頭のすぐ横をかすめていく銃弾。

 死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくない………(エンドレス)

 

 ―――と、走っていると、原っぱのド真ん中にテントを発見。

 ついでにその前でキャンプをしているメガネ君とジャージ君発見。

 ………生きてたのか。

 

「茜さん! あそこにっ!」

「あそこで休むのですか?」

「違いますっ!」

「嫌です」

「こ、これを切り抜けたらワッフルでもクレープでも奢りますから〜!」

「早く行きましょう。何をグズグズしてるんですか」

「………」

 

どんがらがっしゃーんっ!

 

「な、なんやっ!? ………って、おんどれは転校生〜! この前はよくもっ!」

「ト、トウジ落ち着け! この前はお前が一方的に悪かったんだぞ!」

 

 暴れるジャージ君に、それを羽交い絞めして止めるメガネ君。

 

「この前の事は謝るよ。ごめん、悪かった、すみません」

「お、おうっ。ワイも男や。スパッと許したろやないか」

「………それでいいのか、トウジ」

 

 謝罪の言葉を適当に羅列すると単純な純粋なジャージ君は許してくれた。

 メガネ君は呆れているけど。

 

「シンジ、来ました」

「くっ、もう来たのか」

「「へっ? 何が(や)?」」

 

 ジャージ君達の疑問に答えるように何もなかった筈の野原が黒服の海に囲まれる。

 明らかに先ほどより人数が増えている。

 この無茶な増員はミサトさんだな。

 

「サードチルドレンに告ぐ。10秒以内に投降しろ。さもないと―――」

「くぉら! クソシンジと女〜! あんた達のも後10秒よ! せいぜい残りの余生を楽しみなさいっ!」

「か、葛城一尉!」

 

 ―――相手は殺る気満々だ。

 

「てててててて転校生! あれは何やっ!?」

「そそそそそそそうだぞ! 何であんな連中に命を狙われてるんだ!?」

「それは………」

 

 ………浩平さん、を借ります。

 その技の名は―――

 

「実はあいつら、エヴァンゲリオンのパイロットである僕の命を狙う組織の連中なんだ」

「なんやとっ!?」

「ごめんね。あいつらに捕まったら、もうこの街を守る事ができないよ。使徒が来たらさっさと逃げる事をお勧めするよ」

「「なぁっ!?」」

 

 秘技、舌先三寸口八丁嘘八百

 効果はてきめん。あっという間に二人は青ざめていく。

 後ろで『悪党ですね』と呟く茜さんの声が聞こえた気がした。

 

「大丈夫、君達には迷惑掛けないから」

「な、なに諦めてんねんっ!」

「い、碇! 諦めるのはまだ早いぞ!」

「そうや! ワイらも協力する・・・・・・・・からなんとか―――」

 

 ニヤリ

 ―――言ったね?

 

「………ほんとに協力してくれる?」

「もちろん(や、だ)!」

 

 言質は取った…。

 後は―――

 

『いいかっ! 少年! この奥義に必要なのは尊い犠牲とそれを乗り越える精神力だっ!』

 

 頭の中で浩平さんが熱く叫ぶ。

 ……受信してる?

 

「……8、9、10! 確保しろ!」

「死ねっ!」

 

 一斉に銃口が僕らに向けられる。

 

「君の事は忘れないっ!」

「―――へ?」

「奥義っ! ジャージバリアーーーッ!

 

ドムドムドムドムッ

 

「「「「「……………」」」」」

 

 その場にいた全員が気圧されたように後ずさる。

 もっとも僕と、こういうことに慣れているだろう・・・・・・・・茜さんは涼しい顔をしているが。

 

「い、碇―――! お前何を―――!」

「大丈夫、大丈夫。暴徒鎮圧用のゴム弾だったし」

 

 ―――さりげにミサトさんは実弾だった気がするけど。

 

「さあ、茜さん。今の内に脱出を」

「そうですね。幸いバリアはもう一枚あるようですし、私はこちらを使いましょう」

「って、なんでオレの襟首を掴む見知らぬ女の人!? ああーーっ! こんな時でも女の人に触れられて喜んでる自分がにくいーーーっ!」

 

 バリア二号(メガネバリア)も納得した所で行きますか。

 ―――ヒトトシテ、ナニカダイジナモノヲウシナッタキガシタ。

 

 

 


Bパート続く

………またもや、一つだった話を二つに分けたのは秘密である(笑)

 


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