ころころ

 

 微かな音がした。

 僕があげたキャラメルのおまけを嬉しそうに手の上で転がす。

 

ころころ

 

 カメレオンがみさおの小さな手の上で、回る、周る、廻る。

 僕にはそれが、みさお自身のように見えた。

 

ころころ

 

 キャラメルのおまけなんて、いらなかったんだ。

 いつか、絶対に、みさおを外に連れ出してやる。

 無理矢理にでも引っ張り出して、困らせて……笑わせてやるんだ。

 

 

 

 それが、俺のえいえんの誓い。

 

 

 


 

ONEVA

 

第5話   ちびーズ、襲来 Bパート

 


 

 

「………みさお? みさお、なのか?」

「そう、だよ。お兄ちゃん………私だよ」

「みさ………お……っ!」

「お兄ちゃんっ!」

 

 ダッと、二人同時に駆け出す。

 たった数メートルの距離がもどかしく、もつれそうになる足を、前へ前へと進めていく。

 俺は屈み込みながら両手を広げ、みさおは走りこんだ勢いそのままに俺の屈んだ膝に脚を掛け、飛び上がるように俺の顔目掛けて足を振り上げ―――あれ?

 

「お兄ちゃんのアホッ!」

「シャ、シャイニングウィザード!?」

ごすんっっっ

 

 

 

「くすんくすん、お兄ちゃんが感動の再会なのに無視するぅ……」

 

 無視じゃなくて、余りの痛みに体が拒絶反応を起こしているだけだ。

 

「………み、みさお、今のはないんじゃ?」

「お兄ちゃんが悪いのっ」

「判らないでもないけど……ほら、激痛で身体がえびぞりになってるよ?」

「お兄ちゃんは強いから、これぐらい大丈夫」

「そ、そーかな……?」

 

 いや、みさおさん。

 結構きついッス。

 

「る〜るるる〜、妹に殺された〜……」

「わっ、殺してなんてないよ。お兄ちゃんの意地悪!」

「っていうか、浩平余裕っぽいね……」

 

 そんな事決して無いんだが。

 まあ、いつまで転がっても仕方ない気がしたので、ポンポンと服を叩きながら立ち上がる。

 

「うむ、的確に急所を突いてきたな。ナイスな攻撃だったぞ、みさお」

「褒められちゃった♪」

「平然としてるし、喜んでるし……」

 

 何故かみずかが非常にやるせない表情になる。

 子供の頃から細かい事を気にしてると禿げるぞ。

 

「で、妹よ。どうしていきなり兄にシャイニングウィザードを放った? 理由を100文字以内で簡潔に述べよ」

蹴りたかったから

簡潔すぎっ!?

 

 にこやかに会話を交わす俺たちに、何故かがびーんっとショックを受けるみずか。

 長森だよもんと同じく、やはり苦労性のようだ。

 

「ああ、みさおにSMの趣味……げふんげふん、じゃなくてだな、みさおに蹴られるほど嫌われていたなんて、兄はショックだぞ」

「嫌いじゃないよぉ……ただ」

「ただ?」

「お兄ちゃん、わたしの事お嫁さんにしてくるって言ったのに……」

「言ったの!?」

「言ったな、確かに」

 

 しかし、みさおが3歳ごろの話なのに何故覚えている?

 それになんで睨む、みずか。

 

「言ったのに……お兄ちゃん、浮気。しかも、11人も」

 

ぎゃふんっ!?

 

「そ、それはだな……兄も色々あって」

「嫌い(ぷんっ)」

「ぐはっ!」

「あ、浩平。わたしは好きだよ♪」

「あー! みずかちゃんずるいー!」

「何よー、みさおは嫌いなんでしょー」

「そっ……あー! とにかく抜け駆け禁止だよぉ」

 

 じゃれる子供二人、平和だなぁ。

 はっはっは(現実逃避)

 

 

 

 

 

「……それでは、第三十二回折原浩平捕獲会議を開始します」

「議長、しつもーん」

「……まだ何も始まっていませんが、それでも質問があるならどうぞ」

 

 大きな三つ編みを二つ揺らして静かに開始の合図を言い放つ議長に、横からぽっきり話を折るように手を上げる暴虐無人な人影。

 三つ編みの議長は一瞬眉を顰めたものの、快く―――の割には口調が棘々しかったが―――発言を許した。

 

「茜が議長なら、わたしは何かなー?」

「質問を却下します。現在の状況を纏めますが、現在こちらの戦力はたったの3人。……いえ、とある親切な少年・・・・・・・・がいますから4人ですね。ですが、それでもやはり戦力不足は否めません」

「あの……里村さん」

「はい、長森さん。何ですか?」

「ぶーぶー。茜、わたしの時と対応が違うよー」

 

 今度は栗色の髪の長い少女がスッと手を上げる。

 快く―――今度は本当に―――発言許可を出した所で再び暴虐無人な人影が文句を言ったが、あっさり黙殺された。

 ナガモリと呼ばれた少女がそんな様子に少々引きながらも、おずおずと切り出した。

 

「えっと、今浩平の所に何人いるのかな? 私、なんかすっごく嫌な予感がするよ」

「とある親切な少年が集めた噂によりますと、推定3人です」

「さっ……浩平また増やしたの〜!?」

「一人はツインテールの女性―――という噂らしいですから、多分それは七瀬さんでしょう。彼女は私達の中でも最大の戦闘能力を誇りますが、同時に一番浩平に騙されやすいという欠点も持ち合わせています」

「つまり、暴力バカって事?」

「七瀬さんもあなたにバカとは言われたくないでしょうが、その通りです」

「茜ー、なんか最近冷たいー」

 

 悲鳴を上げるナガモリさん(仮)と文句を言う暴虐無人な人影を無視して、議長が冷静にピンと指を立てて説明を続ける。

 

「ですが、浩平が勤めているという中学校では他に噂になっている人物が二人います。片方はそこの生徒、もう一人は……小学生という話です」

 

 二本、三本と立てる指を増やしながら議長が淡々と喋る。

 他の二人はその内容に些か腹を立てながらも、議長の冷静な瞳の奥で轟々と燃え盛る冷たい炎に、本能的な恐怖を感じて身を震わせた。

 つまり、わっふるこわい(意味不明)

 

「つまりこの三人を出し抜き、私達は浩平を奪取・確保しなければなりません………何か、ここまでで質問はありますか?」

「あのさー、折原君の勤めてる中学校の場所判ってるなら、そこに行けばいいんじゃないの?」

 

 暴虐無人な人影(でも今はちょっと押され気味)はとんとんと自分の肩を叩きながら、そう言った。

 (※さすがの暴虐無人な人影(でも今はちょっと押され気味)でも、何度となく嫌味を言われれば肩の一つも凝るのだっ)

 

「浩平の中学校へ……ですか?」

「そーそー。そこで取り押さえちゃえば、こんなとこで漫才やってなくても……」

「馬鹿ですか、あなたは」

 

ズバッ

 議長の『言葉の暴力』攻撃。

 暴虐無人な人影は精神的ショックを受けた。

 

「あ、茜……?」

「いいですか? 相手はあの浩平です。下手に追いかけても、今の面子と人数ではあの自慢の足で振り切られるのが目に見えています」

「え、あ、そ、そうだよね。浩平足速いから」

「その通りです。浩平を捕まえる為には、なんとしても住処を突き止める必要があります。………詩子、それぐらい判ってください。ハッキリ言って邪魔です」

 

 愉快な表情で固まる暴(以下略)人影に、冷たく言い放つ議長。

 慌ててナガモリさん(仮)がフォローに入るが、議長の『言葉の暴力』攻撃は留まる事を知らなかった。

 

「さ、里村さん……? 言い過ぎじゃ……」

「いえ。親友の彼氏を横から掻っ攫おうと企む奸知(※)がある筈ですから、少しぐらいそれを有効利用してもバチは当たらないでしょう? いえ、何も罪を償ってダンプカーに飛び込めとかそんな事を言っているわけではないのですから、これくらいやって当然、やらなければそれこそ轢かれてしまえ―――などと思っていませんよ。ねえ、詩子?」

(※ 奸知―――狡賢い知恵、悪知恵)

 

 議長はあくまでただ事実を言ったつもりだったのだが、他の二人はあいにく受け取り方が違ったようだ。

 部屋の隅で二人で寄り添ってガクガクプルプル震えるしか出来なかった。

 その様子を見た議長は小さく溜息を付くと、ほっそりとした瞼を閉じる。

 

「……どちらにしても、シンジの報告待ちですね」

 

 その少年が、既に浩平ターゲット自身の手によって気絶させられている事を、三人は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

「それで、お前達も着いて来るのか?」

「当たり前だよっ。浩平にはわたしが着いてなくちゃ駄目なんだから」

「うん、私もお兄ちゃんに着いていくよ」

 

 喧嘩が一通り済んだ所で上記の様に尋ねると、爽やかな答えが返ってきた。

 うむうむ、お前達が来るのは俺も大歓迎だ。

 着いてっていうか、むしろ憑いて来いって感じ?

 ただ、ななぴーだけが心配の種だが、それはベットの上で説得すればなんとかなるだろう(笑)

 

「んじゃ、帰るか。ぼちぼち昼飯の時間だしな」

「うん♪ ………お兄ちゃんと一緒に帰るの、久しぶりだね」

 

 ピョンとみさおが俺の肘に捕まって、照れくさそうに笑う。

 そうだな……俺が小学生の頃だから、もう何年も前の話だ―――

 

 

 

『お兄ちゃ〜ん、帰ろ〜よ〜』

『待て、俺はセミの抜け殻を見つけるまでここを動けないんだ』

『なんで? 明日来ればいいじゃん。ね、もう帰ろうよ』

『謎の改造手術を受けて、セミの抜け殻がないと歩けないんだ』

『さっきまで歩いてたよっ』

『なに!? そんな筈は無い! きっとみさおの目も改造手術を受けて幻覚が見えたんだっ!』

『無茶苦茶だよ。……お兄ちゃん、お腹空いたよ、帰ろうよ〜』

『嫌だッ! 死んでも帰るかっ!』

 

 ………結局、みさおが転んで泣き出した所で俺が折れて、おんぶして家まで帰る事になった。

 父さんは早死にし、母さんは仕事で家を空ける事が多かったけど―――寂しくなんてなかった。

 みさおが、いたから。

 

 でも、みさおが病気で倒れて、一緒に帰る………そんな平凡なことさえ、出来なくなってしまったんだ。

 

 

 

「でもまあ、『えいえんの世界』のおかげでみさおもこうして成仏し損なって戻ってきた訳だし。ご都合主義万歳!」

「……浩平、良い話だったのにその一言で全部オシャカだよ」

「うぅ、成仏し損なったって……人の事幽霊みたいに……」

「何でモノローグを読み取ってるんだ、お前らは」

「「思いっきり喋ってたよ」」

 

 ついには妹とえいえんの幼馴染までエスパーになってしまった。

 この街は、人という人を皆エスパーにしてしまうらしい。

 

「はぁ………お兄ちゃん、ぜんっっぜん変わってない……」

「っていうか、浩平微妙な方向にパワーアップしてってるよね、絶対」

 

 何故かチビどもはしみじみと頷き合っていた。

 妙に馬鹿にされてるような気がするのは、気のせいだろうか?

 

「気のせい気のせい、さ、浩平帰ろっ」

「そうそう、お兄ちゃん♪」

「ぬ、ぬぅ……」

 

 釈然としないまま、お子様二人に両手を引かれて学校を後にする俺だった。

 

 

 

 

 

「け、結局僕はこういう役回りなんですね……」

 

 体全体に無数の足跡を付けた一人の少年が呻いたが、その声は虚しく地面に吸い込まれていくのみだった。

 

 

 

 

続く


後書き

 ども、ランバードです。

 前回の後書きで、チビ二人と書いた事で今回登場は繭か澪だと予想した人、残念でした(笑)

 なんか良く判らないエセシリアス風味でみずか&みさおコンビの襲来です。

 

 今回はONEの方向に傾きすぎて、エヴァの要素ゼロ。猛省。

 次はそこはかとなくエヴァにしたいと思います、使徒を出せばとりあえずエヴァでしょう(おひ

 毎回行き当たりばたーりで、次誰を出そうか迷います。

 っていうか、今回実質長森(デカだよもん)とC子さんも登場でしたし。

 とりあえず、スポットが全く当たってない連中出しますかね(予定は未定)

 

 更新クソ遅いですが、どうか見捨てないで下さい(笑)

 感想、質問、要望、誤字脱字、その他色々メール待ッテマス。

 


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