前だけを…

 

第9話   The girl of the strategy Self-Defense Forces


 

>ネルフ・司令室

「初号機とサードを松代へ………だと?」

「はい、そうです」

 今、司令室にいるのは司令、碇ゲンドウと赤木リツコだ。

 ゲンドウは突然のリツコの要望に眉をひそめて(サングラスで見えないが)聞き返した。

「何故だ?」

「サードは不確定要素が多すぎます。松代で集中的にデータを取らせてください」

「必要ない。データは本部で取ればいい」

 ゲンドウの間髪を入れない却下にも怯まず、リツコは言葉を続ける。

「それには………あの『如月ミユウ』『碇サキ』と名乗る少女二人に妨害される可能性があります」

「スパイ………だと言うのか?」

「はい。その可能性は濃厚です。特に『如月ミユウ』の方は、サードに与えた部屋に 仕掛けた『目』と『耳』を全て取り去っています」

 ゲンドウはポーズを崩さず、黙ったままでいる。

 リツコはそれを見てゲンドウに対する最大の『切り札』をすかさず使う。

「それに………初号機の中の『彼女』が目覚めている可能性があります」

「何っ!?」

ガタンッ

 ゲンドウは驚愕の表情で、椅子を蹴って立ち上がる。

(……………無様ね)

 今までまったく動揺のかけらも見せなかった男が『彼女』の事を話した途端この反応だ。

(……………いえ、無様なのはこんな男に縋っている私の方か)

「サードの異常なまでの戦闘能力。ATフィールドの応用。あまりに高すぎるシンクロ率。 全て、彼女が目覚めていればそれほど不思議ではないかもしれません」

「わかった。許可しよう」

「………ありがとうございます。では、失礼します」

 リツコは一礼をして司令室を出ていった。

 リツコが退出したのを見届けたゲンドウはドサッと椅子に座り込む。

「ユイ……………おまえが、シンジを助けていたのか……………?」

 ゲンドウの呟きは他に誰もいない司令室に溶けていった。

 

 

 

>リツコ

 あの人に言った事は全てではない。

 確かに私も『彼女』が目覚めている―――――と思っていた。

 しかし、第六使徒戦の記録を見てそれは揺らいだ。

 シンジ君とアスカが弐号機に乗ったときのシンクロ率はアスカが73,2%。シンジ君が15,4%。

 彼のシンクロ率が低いのは弐号機がアスカ専用の機体なのだから当然だ。

 だが、弐号機が水中を飛び出し、使徒を殲滅したときのシンクロ率は

 アスカ―――0%

 シンジ君―――120,8%

 ありえない。

 私はある考えに行き着いた。

 今まで初号機の、『彼女』の力だと思ってきたあの戦闘能力は―――――

 本当は全て彼の物だったのではないか?

 

 

 

>シンジ

(ミユウ達………大丈夫かな………)

 僕は窓から外を眺めながら、溜息をついた。

 ここは松代にあるネルフ第二実験場。

 初号機の最終テストの為にわざわざ第三から離れて来ていた。

(ご飯とかは5万近くお金を置いてきたから心配ないだろうけど………)

 初号機の準備が整うまで少し時間がかかるらしく、僕は待機室で既に一時間ほど待たされている。

 まあ、プラグスーツを着ての待機じゃなかっただけマシだけど。

(問題はミサトさんだよな。カレー作るとか言い出さなきゃいいけど………)

ピーッ、ピーッ

 急に待機室の端末が電子音を発する。

(ん、準備が整ったのかな?)

ピッ

 端末のスイッチを押すとリツコさんの声が聞こえてくる。

『シンジ君?待っててもらったのに悪いんだけど、実験は一時中止よ』

「え?どうかしたんですか?」

『初号機の方でバグが見つかって直すのに少し時間が掛かりそうなのよ』

「じゃあ、僕はどうしたらいいですか?」

『下手をすると今日中に終わらないかも知れないわ。だから、一旦部屋に戻ってていいわよ。』

プツン

 リツコさんは言いたいことだけ言うと、さっさと回線を切ってしまった。

(はあ………待ち損か………)

 僕は自分の部屋(この第二実験場にも宿泊施設はちゃんとある)に帰るために立ち上がった。

 

 

 

 青い空。

 晴れてどこまでも透き通っている。

 僕はそんな空を見ながら言い知れぬ寂しさを感じていた。

 いつもなら僕の隣にはミユウが、サキが、綾波がいる。

 でも今は、僕一人だ。

(これが一週間も続くのか……………)

 僕は実験場の近くにあった林の中で寝転んでいる。

 木々に包まれてこうしていると、叔父さんの家の裏山を思い出す。

 いつもそこが僕の逃げ場所だった。

 でも、いまでは一人でいるとどんな所でも不安に駆られる。

(そういえば……………裏山でミユウに会ったんだっけ………)

 少しだけ笑みがこぼれる。

ガサッ

「ん?」

(今、そこの茂みが揺れた様な………?)

 僕は立ち上がって茂みに近づいてみる。

(動物か………何かかな?)

 しかし、そこにいたのは動物ではなく―――

「う………あ………」

 ズタボロになっている人間が倒れていた。

「なっ………ひ、人!?」

 僕は慌てて駆け寄って抱き起こす。

「大丈夫ですか………っ!?」

 僕はその人の顔を見て喉を引きつらせた。

 倒れていたのは、僕と同じぐらいの茶髪の女の子だった。

 その女の子の顔に一瞬ミユウの顔がオーバーラップされる。

(違う………この子はミユウじゃない………)

 無理やりそう思ってもどうしてもミユウと重ねて考えてしまう。

 初めて会った時のミユウもこんな風にボロボロの格好だったから。

(とにかく、放ってはおけない!実験場に………)

「ん?これは………」

 その時僕はあることに気づいた。

 女の子が着ている服はズタボロにはなっているが見覚えのあるマークが付いていた。

「戦略………自衛隊………?」

(どういう事だ?………何でこんな女の子が戦略自衛隊の服を………)

「ケンスケの様なミリタリーマニア?」

 などと馬鹿な考えが一瞬浮かぶが振り払う。

「もしかして、少年兵………?」

 詳しくは知らないけれど、確か少年兵は法律で禁止されていたはずだ。

 ということは非合法の兵士………。

「う………」

 女の子が僕の腕の中で小さくうめき声を上げる。

(そうだ、今はそれよりこの子を何とかしないと………)

 だけど、非合法の兵士だとするとネルフに知られるのはまずいかも知れない。

(どうする………………)

 

 

 

>少女

 体中が痛い。

 わたしの意識が目覚めてまず思い浮かんだのがそれだ。

 次に気付いたのは誰かに抱かれているということだった。

(捕まった!?)

 わたしは反射的に私の事を抱いている人に向かって右手を振りぬいた。

パシィィィ

 どうやら、顔に入ったらしいが相手は怯まず、逆に体を押さえつけてきた。

「は、離してぇっ!!離せぇぇぇぇっ!!」

「お、落ち着いて!!」

(落ち着け?嫌だ………わたしは絶対に逃げてやる)

「あああああああっ!!」

ガッ

 今度は肘が思いっきり入る。

 が、相手はなおも押さえつけてくる。

「落ち着いて、大丈夫だから………」

 相手は暴れるわたしを優しく抱いた。

 そう、今まで感じたことがない位に優しい声で。

「え……………」

 急速に視界がはっきりしてくる。

 目の前にいたのはごつい男などではなく、自分と同じぐらいの男の子だった。

(綺麗……………)

 わたしはその男の子を見てそう思ってしまった。

 かっこいいではなく、綺麗。

 そう思ったのは、まず目に入った優しい目とさらさらの黒髪のせいかも知れない。

「誰………?」

 わたしは夢心地でその男の子に尋ねる。

「僕は通りすがりの者だよ。偶然、君が倒れてるのを見つけたんだ」

(倒れて?………あ!)

 今の自分が置かれている状況を思い出し、がばっとわたしは身を起こす。

「あうっ!」

 体を起こした瞬間左肩に激痛が走り、わたしは彼の腕の中に逆戻りした。

「怪我してるの?大丈夫?」

「う、うん、何とか………」

「近くにネルフの実験場があるから、そこで手当てしてもらおう」

「だ、駄目ぇ!」

 わたしは思わず大声を上げる。

 彼はそんなわたしを見て、何かを確信したような顔付きをする。

「君は……………戦自の人?」

「なっ、なんで………」

 わたしはどう見ても民間人の彼にあっさり正体がばれ、上擦った声を出してしまった。

「だって、服に戦自のロゴが入ってるし」

「こ、これは………わたし、ミリタリーマニアで」

「普通唯のミリタリーマニアがボロボロになってこんな所で倒れてないよ」

「うっ」

(て、手強い。なんて言ってごまかしたら………)

 わたしがごまかしプランBを発動する前に彼の方から言ってくる。

「おまけにさっきの暴れよう、それにネルフに行こうって言った時の嫌がり 様から見て……………脱走兵って所?」

「ううっ」

 そんな突飛な考えはドラマかスパイ小説の見過ぎ………と言いたい所だけど、 思い切りビンゴだったりする。

ガサガサッ

「おい、そっちにいたか………」

「いや………こっちの方に来たのは確かなんだが………」

(くっ、追っ手がもう来たっ!?)

 だけど左肩の痛みが激しく、逃げるどころか動くことすらままならない。

「ここまで………なの………?」

 わたしが絶望で目の前が真っ暗になった時、急に体が持ち上がった。

「え、え?」

「逃げるよ」

 違う。

 彼が、民間人のこの男の子が私を背負ったんだ。

 彼は音を立てないように早足で声のする方から離れていく。

「な、なにやってるのっ!?私をここにおいて早く逃げて!あなたは無関係なんだから!」

「確かに無関係だけど、放ってなんかおけないよ」

 わたしの忠告を無視して、彼はわたしを背負ったまま逃げ出した。

 

 

 

>シンジ

「はあ、はあ、はあ……………ふう、ここまで来ればひとまず安心かな」

 僕は実験場からかなり離れた川の横に彼女を下ろし、自分も腰を下ろした。

 彼女は黙ってじっと僕を見ている。

「あのさ………なんで、戦自なんかに追われてるの?」

「……………」

 僕がそう聞くと彼女は黙って顔を横に向ける。

「……………」

「……………」

「……………ふう」

 僕は根負けして溜息を付く。

「言いたくないなら、別にいいけどね………」

「……………言ってもしょうがないじゃない」

「え?」

「あなたになんか言ってもしょうがないじゃない!!」

 彼女は突然、大声を上げて掴みかかってくる。

 その目には涙がたまっていた。

「あなたなんかに!!………幸せそうにぼーっとして生きてる一般人のあなたなんかに何がわかるって言うのよ!!」

 彼女はそこまで言って我に帰ったらしく、気まずそうに視線を逸らす。

「……………ごめん、あなたはわたしを助けてくれたのにね」

「僕に………手伝える事、ないかな?」

「ううん、ここまで連れて来てくれたので充分」

「でも……………」

「いたぞ!!」

「「!?」」

 いきなり聞こえた大声に僕たちは思わず体を硬直させる。

 声のした方を見ると3人ほど黒服の男達が拳銃を片手に、こちらに向かって走ってくるのが見える。

「ここまで………みたい………」

 彼女は消えそうな声で呟くと僕の方を振り向いた。

「巻き込んでごめんね………早く逃げて………」

「そ、そんな!?君はどうするんだよ!!」

「元から無理だったの………わたしが普通の生活、送りたいなんてね………」

 彼女のその言葉と、絶望で光を失った瞳を見て―――――――――

「……………だめだ」

 僕は――――――

「誰にだって………」

 決心した。

「幸せになる権利はあるよっ!!」

 彼女を守ると。

 

 

 

>少女

「幸せになる権利はあるよっ!!」

 彼は真っ直ぐにわたしを見て、叫んだ。

ぐいっ

「な、何を……」

 彼はわたしを抱きかかえて走った。

 かなりの速さで流れる川に向かって。

「あっ!」

ドボォォォォン

 わたしの思考が現状を理解するより前に彼は、わたしを抱えて川へと飛び込んだ。

ぎゅっ

 意識が暗転する中で彼の体温だけが記憶に残った……………。

 

 

 

>シンジ

「げほっ、はあ、はあ……………」

 彼女を引きずって岸に上がりながら、少し飲み込んでしまった水を吐き出す。

 計算外だった事が二つに、致命的なミスが一つ。

 予想以上に川の流れが速かった事。

 抱えていた彼女が気絶してしまった事。

 そして―――――

 自分が泳げない事をすっかり忘れていた事。

「はあ、はあ、はあ………人間、死ぬ気になれば何とかなるもんだな………」

 と言っても、泳げないくせに人を抱えながら岸につけたのは奇跡に近い。

「つ、次からはもう少し考えてから行動しよう………」

 固く誓っておく。

「ごほっ!げほっ!」

「あ、大丈夫!?」

「え?…………あ、うん」

 彼女も少し水を飲んでしまったようだが、どうやら大丈夫そうだ。

「い、いきなり川に飛び込むなんて………」

 じとーっと彼女が睨んでくる。彼女の言っている事はもっともだ。せめて一声かけたら、気絶はしなかったかもしれないし。

「は、はは………ごめん………」

(僕が泳げない事は黙っておこう……………)

 もっとヤバイ事実は心の底に箱詰め(鍵付き)にして沈めておく。

「でも………ありがと。……んっ!」

「ちょっ、ちょっと!まだ、立ったら危ないよ!」

 彼女はぽそっと礼を言うと、どう見ても無理をしながら立ち上がる。

「大丈夫………もう、これ以上迷惑かけられないし………わたし、もう行くよ」

「行くって………行く当てあるの?」

「……………」

 彼女は僕の質問になんとも言い切れない表情で見返してくる。

 ……………

 ……………

ぐいっ

「ひ〜ろった!」

「え!?な、何!?」

 諦め、絶望―――――彼女の瞳からそんな感情を読み取った僕は明るい声でそんな事いいながら、彼女を無理矢理背負った。

 彼女は顔を真っ赤にしてうろたえている。

「ひ、拾ったってどういう意味!?ねえ!?」

「行く所無いみたいだしね………僕が君を拾ったの。だからうちに持って帰る事にするよ」

「ちょ、ちょっと何言ってるの!?………わたしは捨て猫じゃないわよ!」

「大丈夫。うちには同年代の女の子三人もいるし、きっと気に入るよ」

「そんな事聞いてな〜〜〜い!!」

 

 僕は話を無理矢理押し進めていく。

 彼女に遠慮なんてさせる隙間を作らない様に。

 

「それにあたしがいると奴らがまた………!」

「それも大丈夫。うちにいれば、戦自なんか手を出せないから」

 

スタスタ………

 

 そう言いながら僕は歩き出す。

 

「どういう事!?ね、ねえってばぁ!」

「大丈夫大丈夫、何にも心配しなくても良いよ〜♪」

 

 背中の上で暴れる彼女に、機嫌よく答えてあげる。

 そう、本当に心配するのが馬鹿らしくなるくらい明るく。

 

「離して、降ろしてぇ!」

「もう、僕が人さらいに見えるじゃないか。あんまり鳴いちゃダメだよ」

「って、もう完全に猫扱いだし〜〜〜!!」

 

スタスタ………

 

「ねえ、そういえば君名前は?あ、僕は碇シンジだよ」

「わたしの意見は無視なの………?」

「だって、僕が拾ったしね」

「だから答えになってないってば〜〜!!(泣)」

「で、名前は?」

「………マナ。霧島マナ」

「よろしく、霧島さん」

 

 

 

>マナ

 ……………

 ……………

 なんだか良くわかんないうちに、拾われちゃった。

「で、名前は?」

「………マナ。霧島マナ」

「よろしく、霧島さん」

 ………悔しい。

 何か知らないけどすっごい悔しい。

「ち・が・うでしょ」

「は?」

 だから、ちょっと仕返しする事にする。

「あなた、碇シンジ君はわたしを拾った。つまり………ご主人様なんだから、呼び捨てにしなくちゃ」

「ええっ!?ご主人様って………」

 彼は真っ赤な顔して絶句してる。

 ここですかさず、たたみ掛ける。

「『マナ』よ。シ・ン・ジ♪」

「な、な、なっ!?」

「ほら、言って!」

「マ、マナ………」

「うん!」

「(なんかミユウそっくりだよ………)」

「何、どうかした?」

「な、何でもないよ!」

 

 どうやら今日、わたしにはご主人様が出来てしまったらしい。

 

 

 

>シンジ

「はあはあはあ……ぜえぜえぜえ……」

 

 今日は結局、マナを背負って約20kmを踏破し、電車に4時間も揺られ、 もうすっかり夜中になってから第三に着いた。

 マナは僕の背中の上で既に眠っている。

 肉体的にも精神的にも疲れているだろうから、仕方ないけど。

 

「やっと、着いた………」

 

 さらに駅から5kmほど歩き、ようやく着いた我が愛しのまいほーむ。

 ………疲れて思考がまとまらない。

 いいかげん、僕も疲れたよ………。

 

「ぜえぜえぜえ………」

 

 肩で息をしながら階段を上る(すでに頭が動いておらず、エレベーターを使う事を思いつけない)

 5……6……7階。

 よし………あともうちょっとだ………。

 ………あれ?

 うちの前に誰かいる………?

 

「…………え……おにいちゃ……」

「………じゃない………戻って………」

 

 ミユウとサキだ………。

 二人で何してるんだろう………?

ズリズリ………

 僕は重い足を引きずる様にしながら近づいていく。

 

「そうだよね………シンジ君」

「………えっと、ミユウ。何が?」

 

 ……………いきなり、ミユウが話し掛けてきた。

 一体、何がしたいんだろう………。

 

「………ねえ、サキちゃん。私、今シンジ君の声が聞こえたんだけど」

「………ボクも聞こえたよ」

「あの………二人ともどうしたの?」

 

 お腹が空いたのかな………けど僕は今帰ってきたばかりだから、 ご飯ができるのはもう少し後だよ………。

 って、お腹が空いてるのは僕のほうか………。

 だめだ………正常な判断すら出来なくなってきた。

 

「いくらなんでも………タイミング良すぎるよね………」

「でも、ボクはそういうの………嫌いじゃない………」

「同感………」

 

 二人が振り向く。

 二人は今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「た、ただいま………」

「……………シ、シンジ君!!」

「おにいちゃ〜〜〜〜〜んっ!!」

 

 ミユウとサキが泣きながら抱きついてくる。

 そっか……………。

 二人とも心配してくれてたんだ………。

 

「シンジ君のばかぁぁぁ!!何処に行ってたのよぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁん!!おにいちゃんだっ!おにいちゃんだよ〜〜〜〜!!」

「いてて………ご、ごめん、心配させちゃって………」

 

 思い切り抱きしめてきたもんだから、体中にあちこち出来ている打ち身や擦り傷が痛み、 顔をしかめながらも僕は謝った。

 こうして二人の体温を感じていると、心配をかけた済まなさと心配をしてくれる人が いるという喜びが心の奥底から湧きあがって来る。

 ミユウとサキの頭を撫でようとして―――――背中に背負ったマナの存在を思い出す。

 

「あのさ、ミユウ、サキ………」

「何、シンジく………」

 ミユウは僕の呼び声に胸から顔を上げ―――――ギシッと固まった。

「……………シンジ君、それ、何?」

「……………おにいちゃん?」

 ミユウとサキから背筋も凍るほど冷たい声が発せられる。

 

(な、なんだ!?僕が一体何をしたって言うんだ!?

 ………僕は今帰ってきたばっかりだし。

 それってマナのことか? もしかして、マナのことで怒ってる?

 いや、でも初対面のマナのことで二人が怒るはずないよな………)

 

 自問自答するが答えは全然でない。

 僕が悩んでいる間にも二人から発せられる気は冷気から怒気へ、怒気から殺気へと次々変化していく。

「いや………その………い、色々あって………」

 とりあえず言い訳をしようとするが、際限なく膨れ上がっていく殺気に

『はっはっは〜♪もう手遅れさ〜♪』

 と、もう一人の冷静な僕が(少しも冷静ではない。現実逃避してるだけ)頭の中で歌ってくれた。

 とりあえず、巻き添えにならないようにマナを地面に座らせる。

「シンジ君の……………」

「おにいちゃんの……………」

(今回はサキもやるのか………死ぬかな?)

 僕は最後に天を仰いだ―――――が、残念ながらアパートの天井しか見えなかった。

「「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

どばきぃぃぃぃぃぃ

 ミユウとサキのツープラトン攻撃の前に、僕の意識は一瞬で刈り取られた。

 

 

 


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