前だけを…

 

第九話   瞬間、心、重ねて  前編


 

>アスカ

 アタシは負けられないのよ。

 一番じゃないといけないの。

 そうじゃないと誰もアタシの事を見てくれない。

 誰もアタシに構ってくれない。

 だからアタシは一番になる。

 アタシは誰にも負けられない。

 そう――――

 サードだろうがファーストだろうが。

 絶対に………。

 

 

 

>第壱中学・校舎裏

「これとこれとこれ………それにこれ」

「毎度あり〜。全部で260円になります」

 男子生徒は金を払うと、写真を大事そうにポケットにしまって去っていった。

「全くアスカ様々だね」

 ケンスケは重くなった財布の感触にホクホク顔でそう呟いた。

 ケンスケは趣味と実益を兼ねた写真販売を中学入学直後から行なっていた。 ケンスケのこの商売は男子生徒には大変な好評を、女子生徒の大半には軽蔑と侮蔑を受けていた。

「ほぉーっ。あの惣流とかいうおなご、そないに売れとるのか」

 隣でぼーっと写真が売れていくのを眺めていたのは彼の親友、トウジだ。

「ああ!凄い売れ行きだよっ!綾波や如月さん、それに碇さんにも迫る勢いだね!」

「で、結局誰が一番売れとるんか?」

「やっぱ、その三人が首位争いをしてるね。惣流は来たばっかりだし。 ………だけど、写真の売れ行きに一番貢献したのはシンジだな」

「はぁっ?」

 ケンスケの答えにトウジは間抜けな声を上げる。

「どうゆうことや?」

「写真の購買層が主に男子だけっていうのは知ってるよな?」

「ああ」

「写真を買った事のある女子は12人………だった。シンジが来るまではな」

 ケンスケの言葉に、頭が悪くついでに鈍いトウジには怪訝そうな表情を返すことしか出来なかった。

「………シンジの転校後、女子の客は101人になった。うちの中学の女子生徒数は 186人―――つまり、女子の50%以上がシンジの写真を買った事になる」

「な、なんやとぉ!?」

 驚愕の事実にトウジは目と口を限界まで開く。

「くうっ!!何故だ!?シンジは如月さんと碇さん………いや、綾波と惣流にまで 手を出して四股かけてるっていう噂まであるのにぃ!!」

 ケンスケも天まで届けとばかりに、空に向かって魂の叫びを放っている。

「トウジィ!!」

「ケンスケェ!!」

「「この世に神はいないのかぁぁぁっ!?」」

「うるさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」

ドガァッ

 物凄い大声と共に、何故か真上から飛んできたロッカー(掃除用具入り)が二人に直撃した。

 二人は声もあげる暇もなく、完全に沈黙した。

 

 

 

>ミユウ

「サ、サキさん………いくらうるさかったからって、ロッカーをぶつける事は ないんじゃない?」

 さっきから校舎の外から聞こえてくる奇声を発していた二人(多分、鈴原君と相田君)に、 サキちゃんが廊下の窓からロッカーをぶん投げて静かにしたのを見ていたヒカリさんはタラリと冷や汗を垂らしながらそう意見した。

「ヒカリ、なんか文句ある?」

 サキちゃんに殺気の篭った視線を向けられて、ヒカリさんは即座にぶんぶんと首を横に振った。

「い、いえ、なんでもないの」

 ヒカリさんが震える声でそう言うとサキちゃんはドスンと不機嫌そうに自分の席に座った。

「ミ、ミユウさん、サキさん一体どう………」

 サキちゃんと仲の良い私に事情を聞こうと思ったのか、私に話しかけようとしたけれど途中で言葉を詰まらせた。

「何か用?ヒカリさん」

「い、いえ、なんでもないの」

 ヒカリさんはさっきサキちゃんに言った科白をもう一度言うと、突然委員長 としての責務でも思い出したのか早足に去っていった。

 実を言うとサキちゃんだけではなく、私とレイもピリピリとした一触即発の空気を発していた。

 私達が不機嫌な理由は、本当なら私たちの隣にいる筈の人物―――――シンジ君がいないせいだ。

 シンジ君は昨日の日曜の朝から、松代の実験場に行っている。

 一通り修理し終わった初号機の最終テストをするそうだ。

「本部でやればいいのに……………」

 いきなりの出張を知らされた昨日からずっと出ている愚痴を私はまた呟いた。

 

 

 

 退屈な学校が終わり、私たちはレイのシンクロテストに付き合うためネルフに向かっていた。

「おにいちゃんいないと学校……………あんまり面白くないね」

 いつもの元気がまったく感じられないサキちゃんがそう呟いた。

「………………」

 私はその答えを返す気力がなく、黙っている。

「早く帰って来てほしい………」

 レイがポツリと呟く。

 私も早く会いたい。

 でも、初号機のテストが終わるまでは帰ってこないそうだ。

 そして、テストは念入りにやるため早くても約一週間はかかるらしい。

「「「はあ………」」」

 私達は同じ考えに行き着いたのか、三人そろって溜息を付いた。

「サードの関係者!」

 そんな私達の空気を無視するかのように(というか気づいてないだけかも)聞き覚えのある声が後ろから掛けられる。

「「「………」」」

 私達は反応しないで歩き続ける。

 ―――しかし、回り込まれてしまった。

「ちょっとアンタたち!このあたしが呼びかけてるんだから何とか言いなさいよ!!」

 目の前に立ち腰に両手を当て、初めて会ってから何度も見ることになった 仁王立ちポーズで惣流さんは私たちを睨み付けてくる。

「「「何とか」」」

 完璧なユニゾンだ。

「むきぃぃぃっ!!」

「冗談。それより何か用?」

 地団駄を踏む惣流さんをさすがに見かねて私は助け舟を出した。

「そっちのがファースト?」

 慇懃無礼。

 レイを指差し、いきなりな科白にそんな言葉が頭をかすめる。

「「「……………」」」

 私達はアイコンタクトを交わすと、再び歩き出した。

「ちょっと待ちなさいよ!何で無視するのよ!!」

「「「何?」」」

 また完璧なユニゾン。

 機嫌が悪いせいで私達は言葉数が少ない。

「だから、そっちのがファーストかって聞いてるのよ!」

 額に青筋を浮かばせながら惣流さんが大声を張り上げる。

「………ええ」

「ふ〜ん……………まあ、いいわ。これから同僚になるんだし、仲良くしましょ」

 惣流さんはレイの顔をまじまじと見ながらのたまう。

「……………あなた、誰?」

ごすっ

 レイの天然な回答に惣流さんは電柱に頭を思い切りぶつける。

「あたしはセカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレーよ!!」

「そう、良かったわね」

「むきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 また地団駄を踏む惣流さん。

「………まったくサードは間違えるし、ファーストは覚えてないし。なんでこんなバカ達がパイロットなのよ!」

「あなたの印象が薄いだけ………」

「なんですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 この二人はまるで水と油のようだった。

 

 

 

>ネルフ・赤木博士の研究室

カタカタカタカタ

 研究室にキーボードを打つ音が響いている。

 その音を発している人物はこの部屋の主―――ではなく、その助手の伊吹マヤだ。

 この部屋の主は初号機とそのパイロットと共に松代に出張中だった。

(ふう………先輩、早く帰ってこないかな………)

 考えている事がミユウ達と同じだったりする。

 ―――――相手が女性だというのは非常に怖いが。

「きゃっ!?」

 マヤは突然後ろから首に腕を回されて悲鳴を上げる。

「伊吹………マヤちゃんだよね」

「な、な、何するんですかぁ!?」

 マヤは慣れない男に触れられて振りほどこうにも力が入らず、声を出すことしかできない。

「俺は加持リョウジ。君のことはリッちゃんから良く聞いてるよ」

「リ、リッちゃん………?」

「君の先輩の赤木博士さ」

「え?先輩の知り合いですか?」

 リツコの名前が出た途端、男に触れられている事も忘れて人懐っこい声を出すマヤ。

「ああ。大学の時からの付き合い………」

 いきなり言葉を区切ると、加持はマヤから離れサイドステップで飛ぶ。

ぶんっ

 一瞬前まで加持が居た位置にかなりの勢いで振り下ろされたファイルが通過した。

「おいおい、葛城。いきなりは酷いじゃないか」

 加持は肩をすくめながらファイルを振り下ろした張本人、ミサトに言葉をかける。

「あんたは〜〜〜〜!!なんでいっつもそうなのよ!!」

「俺はリッちゃんの可愛い後輩と友好を深めようとしてただけ………」

ぶんっ

 加持は体を横に動かして、ファイル攻撃二発目もあっさり避ける。

「まったく、葛城も全然変わってないな」

「何がよっ!!」

「そういう嫉妬深い所がな」

「なっ!?こ、この………!」

フィーーー、フィーーー

 ミサトがファイル攻撃3発目を放つ前に警報が鳴り響く。

「敵襲!?」

 

 

 

>レイ

『先の戦闘によって第三新東京の迎撃システムが受けたダメージは現在までに 復旧率26%。実戦における稼働率はゼロと言っていいわ。したがって今回の 迎撃は上陸直前の目標を水際で迎え撃ち、一気に叩く!』

『ファースト、アンタねぇ!陰気くさすぎなのよ!もうちょっとハキハキ喋れないのぉ!?』

「必要ないもの」

 会ってからずっと、セカンドは私に絡んでくる。

 うるさい。

『アンタそんな態度じゃ友達できないわよ!』

「……………あなたの方こそ、その性格では友達できないわ」

『なんですってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

『あんたたち、いいかげんにしなさ〜〜〜〜〜い!!』

 葛城一尉の大声が通信機から響いてくる。

『今は作戦中よ!!アスカ、レイ!!』

「ふん」

「……………」

 セカンドは面白くなさそうに顔を背ける。

『弐号機、零号機で交互に目標に対し波状攻撃。接近戦で行くわよ』

『あ〜あ、せっかくの日本デビュー戦だって言うのに、なんでこんな奴と組まなきゃいけないのよ。 アタシ一人でやらせてくれたら使徒なんてぱぱーっとやっつけちゃうのに』

『アスカ、人類にはそんな余裕はないのよ。一戦一戦全戦力を投入しなくちゃね』

 セカンドをたしなめる葛城一尉の言葉に私は1つ不自然な事に気付いた。

「葛城一尉」

『何、レイ?』

「何故、碇君は………初号機は来ないのですか?」

『え………あ、ああ!初号機は修理がまだ完全じゃないから今回は欠場よ』

 妙に焦っている葛城一尉の口調………まさか、碇君に何かあったのだろうか?

「葛城一『それじゃあ、私が先にいくわ!!ファーストちゃんと援護しなさいよ!!』

 追求しようとした私の言葉を遮って、セカンドの弐号機が使徒へ向かって突進して行く。

『アスカ!まだ、作戦開始の合図を……ちっ、レイ!パレットライフルで援護を!』

「っ……了解」

 碇君の事は気になるけれど、今は使徒殲滅を優先………。

ガガガガガガガッ

 ヒトデの様な形をした使徒はATフィールドで完全にパレットライフルの弾丸を受け止めている。

 ……………?

 目標の使徒にコアが二つある?

 報告しておいた方がいいだろう。

「かつら『いくわよ!!でぇぇぇぇぇぇい!!』

 ………………むか。

 弐号機はビルを踏み台にして大きく飛び跳ねる。

ズバァァッ

 弐号機はソニックグレイブを振り下ろし、使徒を真っ二つにした。

『ナイスよ!アスカ!!』

『ふっふ〜ん、どうよファースト!このアスカ様と弐号機の実力は!』

 ………………むかむか。

 セカンドの声を無視して(何故だか、無視するのに膨大な精神力を消費した)使徒に注意を払う。

 これまで使徒はすべてコアを砕かれて、沈黙した(コアが戦闘中に発見出来なかった第五使徒も体の中心から出て来た)。

 なのに今回は二つの内どちらも破壊されてはいない。

 弐号機が背を向けた瞬間それは起こった。

ビクンッ

「!」

ガガガガガガガッ

 使徒の体が脈打った瞬間、私は即座に攻撃を開始した。

 しかし、やはりATフィールドに阻まれる。

ビュルン

『『な、なんて、いんちきぃ!!』』

 葛城一尉とセカンドの声がはもる。

 納得はいかないが、今回は私も同意見だ。

 使徒は蘇った。

 2体に増えて。

 

 

 

『本日午後3時58分15秒第七使徒甲と乙の攻撃により、エヴァ零号機弐号機共に活動停止』

 モニターには山に頭から突っ込んでいる弐号機と、海にうつぶせの状態で停止している零号機が映し出されている。

 先ほどから隣の席でセカンドが睨んできているが無視する。

『午前11時03分をもってネルフは作戦遂行を断念。国連第二方面軍に指揮権を譲渡。 同05分、N2爆雷により目標を攻撃』

 モニターの場面が変わり、N2爆雷によって完全にクレーター化した地形の映像を映し出す。

『目標の構成物質28%の焼却に成功』

「死んでるの、これ?」

「まだよ、足止めに過ぎないわ」

 セカンドが漏らした疑問に葛城一尉がそう返す。

「再度進行は時間の問題ね………マヤちゃん」

「はい、MAGIは六日後に目標の自己修復を完了させると予測しています。」

「………パイロット両名」

ビクッ

 ずっと沈黙を守っていた碇司令が発言する。

 久しぶりに聞く、そして変わらぬ冷たい声に私は思わず、体を震わせる。

「君たちの仕事はなんだ?」

「えっ………エヴァの操縦です」

 セカンドが緊張した表情で答える。

「……………」

 だけど、私は………なにも答えたくはなかった。

 まるで答えたら、再びあの冷たい世界に引き摺り戻されるような気がしたから。

「違う、使徒に勝つ事だ。………こんな醜態を晒す為に我々ネルフは存在しているのではない」

 冷たい声で言い放つと、碇司令は立ち上がり退出していった。

 

 

 

>ミユウ

 私とサキちゃんがレイと合流してマンションに帰宅すると、ばったり惣流さんと遭遇した。

 惣流さんが私達を―――というより、レイを―――見ると、にやにや笑いながら話し掛けてくる。

「ファースト、残念だけどあんたお払い箱よ!」

「は?」

 惣流さんのいきなりのセリフに、私は理解できず間抜けな声を出してしまう。

「……………何を言ってるの?」

 レイが怪訝そうな顔をして、いつもより若干機嫌悪く言う。

「はんっ!あいっかわらず頭悪いわね!このアタシがミサトと同居するから、あんたはお払い箱っていってんのよ!!」

「………惣流さん、何か勘違いしてない?」

「何がよ?」

「私た………もとい、レイが住んでるのはこっち。ミサトさんが住んでるのはそっち」

 私達の部屋の702号室とその隣の701号室を順々に指してやる。

「………え?」

「だ〜か〜らっ、レイとミサトさんは別に同居してるわけじゃないんだけどっ!」

「………人には間違いの一つや二つあるのよっ!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る惣流さん。

「………まあ、どうでもいいけど」

 私は曖昧な表情でそう呟き、ふと、重大な事に気付く。

「ねえ、惣流さん。ミサトさんと同居するの?」

「なによ、何か文句あるわけ?」

「べ、別にないけど………そうなの、ご愁傷様」

「何よそれ、どういう意味?」

「別に。私達には関係ないし。じゃあね〜」

 私はこれから予想される惣流さんの癇癪に巻き込まれないうちに、サキちゃんとレイの手を取って私達の部屋に入る。

「ミユ、ご愁傷様ってどういう事?」

「………あのミサトさんの部屋に住む事になるんだよ、惣流さんは」

『な、何よこれぇぇぇぇ!!』

 その言葉を肯定するかの様に、惣流さんの絶叫が隣の部屋から聞こえて来る。

「………ほら、ね」

 

 

 

「「「ユニゾン攻撃!?」」」

「そ〜よん。MAGIの予測によると、使徒の二体は互いを補完し合っているそうよ。 よって、分離中のコアに対する2点同時の荷重攻撃が一番効果的………いいえ、唯一の方法ね。 つまり、エヴァ二体によるタイミングを完璧に合わせた同時攻撃しかないのよ」

 現在、私達の部屋でミサトさんが作戦内容を説明していたりする。

 ミサトさんの家ではなく、私達の家でやっている理由は……………まあ、言うまでも無いだろう。

「アスカ、レイ。あなた達にはこれから6日間、ここで一緒に生活してもらいます」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

「……………」

 声の限り絶叫する惣流さんと嫌そうに眉をひそめるレイ。

「なんでこのアタシが、こんな根暗ファーストと一緒に住まなきゃいけないのよ!!」

「………拒否します」

 二人は同時に不平や拒否の意を示す。

「ノンノン、ダメよ。二人には一刻も早くユニゾンを完成してもらわなきゃいけないの。 そのためには一緒に暮らして体内時計も合わせなきゃね〜。もっちろん、命令だから拒否権は無いわよん♪」

 その言葉にがっくり肩を落とす惣流さんとレイ。

 すでに行動がユニゾンしているのは気のせいだろうか?

「くっ………仕方ないわね!ファースト、あんた足手まといになんないでよっ!」

「……………」

 あ〜あ、レイったらあんな露骨にそっぽ向いて無視しちゃって………。

「はあ〜、こりゃ前途多難ね………」

 ミサトさんはその二人の様子を見て、溜息をつきながらそう漏らした。

 

 

 

 ……………………

 ミサトさんの危惧はすぐ現実となって現れた。

 ユニゾンの為にミサトさんが提案したダンスによる訓練をすることになったんだけど……………

「あはっあははははは!おかしいよ変だよぉ〜〜〜〜!あっはは苦しいぃ〜〜!」

 私の隣ではさっきからサキちゃんが二人のダンスを見て床を転げ回りながら大爆笑している。

 見事なほど、二人はお互いを無視して踊っている。

ひゅっ

ぱこんっ

 あ、今レイの手が惣流さんの後ろ頭をひっぱたいた。

「何すんのよっ!ファースト!!」

「………手がすべったわ」

「ぐっ………足が滑った!!」

ひゅっ

すかっ

 即座にわざとらしく間違えた振りをして惣流さんがレイに蹴りを入れようとしたけど、レイは予測していたらしくあっさりかわす。

 両者ともに睨み合って踊りながら隙を窺ってるし………

「はあ………何やってるんだか………」

ギロッ

 あ、まず。聞こえたかな?

「ちょっと、ミサト!そういえば、さっきからなんでこんな民間人がここにいるのよっ!!気が散って集中できないじゃない!!」

「だって、ここはミユウちゃん達の家でもあるのよ」

 惣流さんは額に青筋を浮かべて、ミサトさんに食ってかかるけどあっさりあしらわれる。

「そ、そんなの知らないわよっ!!」

「あ〜もぉ〜、仕方ないわねぇ。ミユウちゃん、サキちゃん。ちょっとの間外で時間潰しててくれる?」

 ミサトさんは肩をすくめながら私達にすまなそうな顔をする。

「はい、別にいいですけど。それじゃ、サキちゃん。どっかで美味しい物でも食べてこようよ」

「うん♪そうしよ♪」

「それじゃあ、レイ。がんばってね」

「がんばってね〜♪」

 私達は立ち上がって玄関に向かう。

 すると、ミサトさんも立ち上がり私達に続く。

「あたしも一旦、席をはずすから二人でがんばるのよん♪」

「ってミサト!!あんたまで何か食べに行くんじゃないでしょうね!!」

「そんなわけないでしょ。作戦部長のあたしには他にもまだまだ仕事があるのよ。」

 ホントかな?すっごく疑わしい。

 私達(ここにいる全員)が白い目で見ているのにも関わらず、ミサトさんはまったく気にしてない。

「ほら、ミユウちゃん達もとっとと出る。」

 ミサトさんが私達の背中を強引に家の外まで押し出した。

「………じゃ、喫茶店にでもいこっか?」

「ボクはチョコレートパフェがいいなっ♪」

「ミユウちゃん、サキちゃん。ちょっと話があるの」

 歩き出した私とサキちゃんをミサトさんの真剣な声が呼び止めた。

「「え?」」

「ここじゃ、ちょっと話せないわ。あたしの部屋に行きましょう」

 

 

 

「う、うそ………そんな……………」

「お、おにいちゃんが………………」

 ミサトさんの話を聞いた私達はそろって声を失った。

 その話の内容とは………。

「本当よ。今朝、シンジ君をロスト―――――松代の第2実験場から見失ったわ。」

 ぐらりと風景が歪む。

「な、なんでそんな大事な事黙ってたんですかっ!!」

 私がヒステリックに叫ぶとミサトさんはかぶりを振って、

「………使徒戦を控えてる今、アスカはともかくレイに余計な不安を抱えさせたくなかったから………」

「おにいちゃん…………おにいちゃん………」

 サキちゃんは両手で自分を抱きながら、俯き震えている。

「今、全力で保安部が捜索しているけど………」

「シンジ君……………誘拐……されたんですか………?」

「それも、わかってないわ………ただ、監視カメラに自分で実験場を出て行くシンジ君の姿が映ってたそうよ」

「………………シンジ君」

 シンジ君に何があったんだろう………。

「あたしはもうアスカ達の所に戻るけどあなたたちはどうするの? 今、話すのがつらいならしばらくここにいても………」

「………いえ、私も戻ります。………じっとしてるのはつらいし………」

「ボクも……………」

「そう……………、ミユウちゃん、サキちゃん。シンジ君の事信じて待ってるのよ。 あの子ならきっと、無事に戻ってくるから………」

「「はい………」」

 私達は黙って立ち上がり玄関のドアを開けて外に出ると、もうすでに真っ暗になっていた。

 私は手すりに手をかけて、その真っ暗な空を見上げた。

 星や月は曇って見えなかった。

「ミサトさん………先に戻っててくれますか?」

「え、ええ」

 私がそう呟くと、ミサトさんは心配そうにしながら隣の部屋へ消えていった。

「………ねえ、ミユ。おにいちゃん………大丈夫だよね?」

 サキちゃんは泣きそうになるのを堪えているようだった。

「当たり前じゃない………シンジ君は……すぐに………帰ってくる……絶対………」

 消え入りそうな声で私は自分に言い聞かせるように呟く。

「そうだよね………シンジ君」

「………えっと、ミユウ。何が?」

 ……………

 ……………

 ……………

「………ねえ、サキちゃん。私、今シンジ君の声が聞こえたんだけど」

「………ボクも聞こえたよ」

「あの………二人ともどうしたの?」

 ……………

 ……………

 ……………

「いくらなんでも………タイミング良すぎるよね………」

 私は今にも泣き出しそうになるのを堪えながら言葉を続ける。

「でも、ボクはそういうの………嫌いじゃない………」

「同感………」

 そして、私達はゆっくり振り返る。

「た、ただいま………」

「……………シ、シンジ君!!」

「おにいちゃ〜〜〜〜〜んっ!!」

 その視線の先にいた一番会いたかった人―――――シンジ君に私達は泣きながら抱きついた。

「シンジ君のばかぁぁぁ!!何処に行ってたのよぉぉぉ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁん!!おにいちゃんだっ!おにいちゃんだよ〜〜〜〜!!」

「いてて………ご、ごめん、心配させちゃって………」

 シンジ君はすまなそうにしながら謝る。

「あのさ、ミユウ、サキ………」

 シンジ君が何かを言いたそうな声調で私達の名前を呼んだ。

「何、シンジく………」

 そこまで言って気付いた。

「……………シンジ君、それ、何?」

「……………おにいちゃん?」

 どうやら、サキちゃんも気付いたようだ。

 私達の視線の先には、シンジ君と――――――シンジ君に背負われた茶髪のショートカットの女の子がいた。

「いや………その………い、色々あって………」

ぷるぷる

 自分の握った拳が震えてるのがわかる。隣のサキちゃんもまったく同じのようだ。

「シンジ君の……………」

「おにいちゃんの……………」

「「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

どばきぃぃぃぃぃぃ

 

 

 

 ミユウちゃんの一口メモ

 シンジ君はよく飛んだ。

 

 

 


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