前だけを…

 

第八話   アスカ、来日


 

>NERV実験ホール

 リツコの機嫌は最悪だった。

 横で黙々と仕事(レイのシンクロテスト準備中)をしている部下のマヤも刺激しないように話し掛けたりはしない。

 別に今日に限った事ではない。ここ最近は常にイライラしていた。

 原因は幾つか有る。

 第5使徒戦から1ヶ月―――初号機の修理は今だに終わらず、技術部は徹夜が続いている事。

 初号機は現時点で最大の戦力。一刻も早く直さなければならない。

 だが、一番の原因は初号機とシンジの事が何一つわかっていないと言うことだ。

 リツコはまるで自分があの14歳の少年に踊らされているような錯覚に陥っていた。

 

 この前の第5使徒戦の後、

『シンクロ率の上昇、ATフィールドの攻撃への転用………一体、どう言う事かしら?』

 と、シンジを問い詰めたのだが、

『どういうことって………シンクロ率の方は知りませんけど、ATフィールドは 防御で使うとあんなに強力なんだから攻撃にも使えると思って咄嗟に………』

 などとごまかされてしまった。

 もちろんリツコはもっと突っ込むつもりだったのだがシンジは、ゲンドウとの 契約の一つである『質問、尋問等に対する拒否権』を発動し、とっとと帰ってしまった。

 

「(『質問、尋問等に対する拒否権』ね………、最初から彼はこういう自体を想定していたって事?)」

「あの先輩………レイちゃんのシンクロテスト開始しました」

 マヤが恐る恐る報告する。

「ああ、ごめんなさい。考え事をしていたから。……………それにしてもレイの シンクロ率、この前の戦闘から上昇してるわね」

 リツコの言う通り、現在レイのシンクロ率は53%まで上がっていた。

 ついこの間までは20〜30%の間を行き来していたのだから、20%以上上がっていた。

「ええ、そうですね。ただ、シンジ君と比べるとどうしても見劣りしてしまいますけど」

「確かにそうね。でも、レイのこの成績は十分に優秀よ。………シンジ君が異常すぎるだけね」

「シンジ君、凄いですよね。エヴァに乗ってまだ2ヶ月とちょっとしか立っていないのに。 まさにエヴァに乗るために生まれてきたような子ですよね」

 リツコは苦笑した。どうやら、マヤは『異常』と言ったリツコの皮肉に気付かなかったようだ。

「(本当の意味でエヴァに乗るために生まれてきたレイより凄いなんて皮肉ね)」

「けど今日のレイちゃん、シンクロ率安定しませんね」

 シンクロ率は53±4%と揺れが激しい。

「やっぱり、シンジ君達がいないからでしょうか?」

「……………そうね。(あのレイが寂しいと感じているのかしらね………)」

 

 

 

>シンジ

「わ〜〜〜〜っ♪ねね、おにいちゃん!大きいよっ?青いよっ?」

「海だからね」

 サキはさっきからずっと窓の外に広がる海を見て騒いでいる。

(まあ、初めて見るんだから無理もないか………)

「シンジ君……………この帽子似合ってるかな?」

 ミユウが恥ずかしそうに頭にかぶっている麦藁帽子の端を触りながら聞いてくる。

「………うん、似合ってるよ」

 

 実はこのやりとり、家を出てからもう既に10回以上繰り返している。

 今日ミユウは水色のワンピースを着て、麦藁帽子をかぶっていた。

(何で何度も聞くんだろう?………似合ってないと思ってるのかな? でもそんなに気になるんだったら、かぶってこなければ良かったのに)

 

「おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんっ!!!!ボクの髪も似合ってるっ?」

「………似合ってるよ」

「わ〜い♪」

 

 家を出てからミユウが『帽子似合ってるかな?』と聞くたびにサキも対抗して何度もこの質問をしてきていた。

 サキはミユウとは違うデザインの白のワンピースを着て、髪をポニーテールにしている。

 

「ミサトさん、何時になったら着くんですか?」

 ややぐったりしながら、前に座っているミサトさんに訪ねる。 (ちなみに右隣にミユウ、左隣にサキがぴったりくっついて座っている)

「ん〜、もうすぐよん♪シンちゃ〜ん、な〜にお疲れ〜?」

 ミサトさんは分かっているくせに白々しく質問してくる。

「……………初めてヘリに乗ったから少し酔っただけです!」

「そお〜?」

 にやにやと本当に楽しそうに笑っている。

「これでレイもいればもっと楽しくなったのにね〜♪」

「……………」

 僕は何も言い返さず黙っていることにした。

 今日僕達がヘリコプターに乗って太平洋の上空を突き進んでいるのは理由があった………。

 

 

 

>シンジ・回想

『エヴァ弐号機の受け取り………ですか?』

『そうよ。正確には弐号機とそのパイロットの受け取りだけどね』

 昨日の夕飯時、ミサトさんがいきなりそんな事を僕達に言った。

『明日は豪華にクルージングよん♪ミユウちゃん、サキちゃん。明日はシンちゃんとデートね〜♪』

『な、何言ってるんですかっ!?』

『わ〜〜〜いっ♪明日おにいちゃんとで〜と〜♪』

『仕事なのに、私行っちゃまずいんじゃないんですか?』

 ミユウがミサトさんに確認を取る。一応、遠慮しているつもりなんだろうけど、凄く嬉しそうに言うんでは説得力がない。

『大丈夫よ、安心しなさい。』

『くる〜じんぐだ〜〜〜♪明日楽しみだねっ、レイ♪』

『そうね』

『あ、ゴミン。レイはお留守番よ』

がちゃんっ

 綾波が手に持っていた茶碗を落とす。(ああ、これで壊れた茶碗は9個目だ)

『………何故ですか?』

 綾波が凍えるような瞳でミサトさんを見つめる。

『だ、だって、仕方ないでしょ。レイまで行ったら第三新東京市が無防備に なっちゃうじゃない。その隙に使徒が来たらどうするのよ』

 綾波の瞳の重圧にどもりながらも、なんとか言いきるミサトさん。

『………………………』

 無言のプレッシャー。

『あ、そういう訳だから。明日は早いからあたしもう帰るわ。じゃね』

 ミサトさんは重圧に耐えられなかったのか、そそくさと帰って行った (しかし、いつのまにかご飯はしっかり全部食べていったのはさすがだ)

『綾波………僕、行くのやめようか?』

『……………いい。碇君達は行って』

がたん

トコトコ

がちゃっ

 いきなり綾波は立ち上がって冷蔵庫の扉を開けた。

『あ、綾波?』

『……………悪いのは葛城一尉』

 小さくそう呟くと冷蔵庫から缶ビール(ミサトさんの)を取り出しゴミ箱に捨て始めた。

『あ、綾波…………(汗)』

 

 

 

>シンジ

 余計な事も思い出したような気もするが、とにかく僕達は弐号機を受け取るために太平洋上にいた。

「おにいちゃんっ!ふねがいっぱいあるよ〜〜っ♪」

 窓から外を見ると、10近くの空母や戦艦が見える。

「ミサトさん、あれですか?」

「ええ。オーバー・ザ・レインボー、あそこに弐号機があるはずよ」

 僕達を乗せた輸送ヘリは艦隊の中でも一際大きい空母に降りて行った。

 

 

 

ビュゥゥゥッ

「きゃっ!?」

「おっと」

 風が吹き、危うく飛ばされそうになったミユウの麦藁帽子を掴む。

「ありがと、シンジ君。」

「うん。風が結構強いから気を付けて」

 サキは僕の隣できょろきょろと辺りを見廻している。

「おにいちゃん、この船おっきいね♪」

「そうだね」

 ミユウとサキの相手をしながら(片方だけに構ってると、もう片方が不機嫌になる)、 僕は海を見渡した。

 

(海か………。僕も来た事なかったけど結構綺麗だな………)

 海の何処までも透き通る青さに僕は目を奪われていた。

(なんだ………僕もサキと一緒じゃないか………)

 思わずそんな事を思い、苦笑する。

 

「ヘロォ、ミサト!!」

 活発な女の子の声が甲板に響き渡る。

 声のした方を見るとレモン色のワンピースを着た女の子が、赤みがかかった金髪をなびかせて仁王立ちしている。

「元気してた?」

「ま〜ね〜♪あなたも結構背が伸びたんじゃない?」

「そっ!他の所も女らしくなってるわよ!」

 ミサトさんと女の子は、親しげに話している。ミサトさんは女の子の横に立ち、こちらを振り向く。

「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機パイロット、セカンドチルドレンの 惣流・アスカ・ラングレーよ」

ビュゥゥゥッ

 先ほどより強い突風が吹き、風でその女の子のスカートが捲れ上がる―――――が、スカートの中身が見える前に僕は後ろを向いた。

「あ」

「「え?」」

 ……………後ろを振り向くとちょうど、ミユウとサキのスカートも捲れ上がった所だった。

 服に合わせたのか水色と白だった。

パンッ!!

 かなりのスピードで僕はミユウに張り倒された。

 

 

 

>ミユウ

「この変態パンツ覗き魔男がサードなわけね?」

「へ、変態って………そんな言い方ないだろっ!」

「そうよ。サードチルドレンの碇シンジ君」

「ミ、ミサトさん酷いよ………」

 シンジ君がミサトさんと惣流さんにいじめられているが、かばう気にはなれない。

「で、ファーストはどっちなの?」

 惣流さんが私とサキちゃんを見比べながらミサトさんに聞く。

「レイはお留守番よ。この二人は付き添い、ポニーテールの方がシンちゃんの 従妹の碇サキちゃん。帽子かぶってる方がシンちゃんの友達の如月ミユウちゃんよ」

「ふ〜ん………」

 そんな事を話している内にブリッチへ着いた。

 

 

 

「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが……それはこちらの勘違いだったようだな」

「ご理解頂けて幸いですわ艦長」

 この船の艦長さんの嫌味をさらっと切り返すミサトさん。

「いやいや、私の方こそ久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」

「この度はエヴァ弐号機の輸送援助ありがとうございます」

 ミサトさんは無視して笑顔を浮かべて言葉を続けるが額には青筋が走っている。

「オモチャ一つ運ぶのに大層な護衛だよ……………太平洋艦隊が勢ぞろいだからな」

「エヴァの重要度を考えると足りないくらいですが」

 ちなみにこの会話、英語で交わされている。だからシンジくんとサキちゃんは全く分からないので ピリピリした空気を不思議そうな顔で見ている。

 惣流さんは分かっているのだろうけど、そっぽを向いて知らん振りを決めこんでいる。

「では、この書類にサインを」

「まだだ!EVA弐号機及び同操縦者はドイツの第三支部より本艦隊が預かっている!君等の勝手は許さん!」

「では………いつ引き渡しを?」

「新横須賀に陸揚げしてからだ!海の上は我々の管轄だ!黙って従って貰おう!」

「わかりました………但し、有事の際は我々ネルフの指揮権が最優先である事をお忘れなく」

(………ミサトさん、なんとか耐えきったね。ホントご苦労様)

 私は心の中で労いの言葉を掛ける。

「よっ、相変わらず凛々しいな」

 長い髪を後ろに結わえ不精髭を生やして、よれよれのシャツを着た男の人が入ってくる。

「あっ、加持さ〜ん♪」

「か、か、か、か、か、か、加持ぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 その男の人を見た途端、ミサトさんが凄い大声を張り上げた。

(ミサトさんの知り合い?…………………でも、あんまり好きなタイプじゃないな〜)

「か、加持君!君をブリッチへ招待した覚えはないぞ!」

「それは失礼。じゃ、葛城行こうか?」

 

 

 

>シンジ

「君が碇シンジ君だね」

「どうして、僕の名前を知っているんですか?」

 僕達は空母の食堂に来て、テーブルについていた。

 食堂に着くと、加持さんという人が話しかけてきた。

「そりゃあ知っているさ。エヴァを実戦で動かし、既に2体の使徒を一人で倒したサードチルドレン。 この世界じゃ君は有名だからね」

「………まぐれですよ」

「運も実力の内さ………。君の才能なんだよ」

「才能………ですか?」

「ああ」

 

 才能………。

 ………肉親を無くしてまで獲たい才能じゃないよ。

 でも、僕は………今、その才能を使って、戦っている………。

 なんか、やりきれないな………。

 

「さて、俺は外の空気でも吸ってくるかな」

「あ、加持さん!」

 加持さんと弐号機のパイロットの女の子は食堂の外へ出ていった。

 

 

 

>アスカ

 加持さんはタバコを咥え、海を眺めている。

「どうだい、アスカ。碇シンジ君は?」

「つまんない奴!あんなのがサードチルドレンだなんて幻滅よっ!」

「これは手厳しいな。でも、彼のシンクロ率はいきなりの実戦で60を軽く越えたらしいぞ。 そして今では80%を越したとか………」

「う、うそっ!!な、なによ、それ………」

 

 このアタシでさえ、75%ぐらいだって言うのに………。

 あんな奴が80%以上っ!?

 嘘よ!!まぐれだわっ!!

 

「計器の故障なんかじゃ………!?」

「NERV本部にはMAGIオリジナルがある。計器の故障は考えられないだろうな」

 

 

 

>シンジ

「ミサトさん、あの加持って人と知り合いなんですか?」

「………………大学時代の知り合いよ」

 ミサトさんは凄く嫌そうな顔をしながら答える。

「あ、もしかして、昔の彼氏とか?」

「違うわよっ!」

 ミユウの言葉に激烈に言い返してくるミサトさん。

「ふ〜ん、ミサトさんむきになっちゃって怪しいな〜♪」

 ミユウがニヤニヤ笑う。

 ………まあ、普段ミサトさんにからかわれてるお返しだろうけど。

「サード!!ちょっと付き合いなさい!!」

「へっ?」

 後ろから高飛車そうな声が響く。

「セカンドチルドレンの………え〜と、昇竜さんだっけ?何か用?」

「なっ………なんですってぇっ!?アタシは惣流・アスカ・ラングレーよっ!! アンタ、同じパイロットの名前ぐらい覚えときなさいよねっ!!」

 昇竜………じゃなくて、惣流さんが額に青筋を浮かべて、思いきり大声を上げる。

「ご、ごめん。」

(あはは………さっきは違う事に気を取られてたからな)

「とにかくちょっと着いて来なさいっ!!」

「いいけど………何所に行くの?」

「良い所よっ!!」

 

 

 

「これが世界初の制式タイプ、『本物』のエヴァンゲリオン。アタシの弐号機よっ!! アンタの試験タイプの初号機とはわけが違うんだからっ!!第一、 アンタみたいのにシンクロする自体ダメだけどねっ!!」

(はあ………わざわざ、違う船で搬送されているエヴァ弐号機のところまで連れてきたと思ったら、 いきなりこれ?)

 少し呆れながら、弐号機を見上げる。

「………赤いね」

 僕はかなり投げやり気味に感想を漏らした。

「うん、赤いね」

 僕の隣で呆れたような(呆れているのだろうけど)声で、同意するミユウ。

「あか〜〜〜〜い♪」

ぺちぺち

 嬉しそうに弐号機に触れているサキ。

「ちょ、ちょっとアンタ!アタシの弐号機に触らないでよっ!!」

 惣流さんがそれを見て叫ぶけど、サキはどこ吹く風でぺちぺちと触りつづける。

「あっかいなっ♪あっかいなっ♪かっこい〜〜〜♪」

ぺちぺち

べコッ

「あ、へこんじゃった。」

しーん

 なんともやりきれない沈黙が場を支配する。

「ア、アンタ、一体何を「サキ!!」

 僕の怒鳴り声にサキはビクッと体を震わせる。

「………約束したよね?他人の物を触る時は、細心の注意をはらって触るって」

「お、おにいちゃん、ごめんなさい」

 サキは僕に叱られて、涙目だ。

「サキ、謝るのは僕じゃないだろ?」

「う、うん………」

 惣流さんの前にサキは歩いていく。

「そーりゅさん。ごめんなさい」

 謝りながら、サキは頭を下げる。

 惣流さんはかなり混乱している。

「え、ええ……………じゃなくて!!エヴァの装甲をどうやって………?」

ドガァァァァァァン

「!?」

 爆発音と共に、船体を揺らすほどの衝撃波が来る。

 いち早く、ミユウが爆発音のした方を振り向く。

「シンジ君、あれ!」

 ミユウの指差す方向をみると、

ドゴォォォォォォン

 かなりこの船から離れていた所にあった船が爆発し、真っ二つになって沈んでいく。

 よく見ると水中を物凄い勢いで何かが動いているのがわかる。

「………使徒!?」

「使徒………あれが?」

 僕はその時、初めて見ることになった。

「チャーンス!」

 ミサトさんのニヤニヤ笑いと同じぐらい嫌な戦慄が走る、アスカのニヤリ笑いを。

 

 

 

 ……………。

「シンジ君、似合ってるね〜♪」

「うん、おにいちゃん、と〜〜〜っても似合ってるよ♪」

(な、何故、僕はこんな格好をしてるんだ?)

 心の中で涙しつつ、改めて自分の格好を見下ろす。

 真っ赤なプラグスーツ………かなり派手だけど、まだこれはいい。

 胸の所にふくらみ、腰はきつくお尻はぶかぶか。

 つまり、女性用。

「い、嫌だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「何言ってるの。着ちゃったくせに」

 ミユウが冷静にツッコミを入れてくる。

「サードッ!!遊んでないでとっとと行くわよ!!」

 惣流さんが同じく真っ赤なプラグスーツを着て、エントリープラグの入り口で僕を呼ぶ。

「な、なんで、僕が君の予備のプラグスーツを着て君とタンデムしなくちゃいけないんだよっ!!」

ツカツカツカツカ

ガツッ

 惣流さんは目の前まできて、僕の首根っこを掴む。

「だ〜か〜らっ!!このアタシの華麗な操縦テクニックを一番近くで見せてあげようって言うのよっ!! 感謝しなさい!!」

ズリズリ

 惣流さんは言いたい事だけいうと僕を引き摺りながら弐号機へ向かう。

「わ、わかったから離してよっ!ミ、ミユウとサキはミサトさんの所に行ってて!!」

「うん、シンジ君気をつけてね!」

 

 

 

>オーバー・ザ・レインボー・ブリッチ

「オデローより入電!エヴァ弐号機、起動します!」

「な、なんだと!馬鹿な!!おい、パイロット!中止だ!すぐに戻せ!!」

「ナイス、アスカ!!かまわないわ、やっちゃって!!」

 

 

 

>シンジ

「ねえ、なんか、いろいろ言ってるけど………?」

「はんっ!関係無いわ!今は使徒殲滅の方が先よ!」

(………確かにそうだな。それに、ミサトさんも良いって言ってるし)

 エントリープラグの中で僕は操縦席の横に座っている。

 惣流さんは、操縦桿を一気に前へ倒す。

「アスカ、行くわよっ!!」

「わ、わわっ!?」

ダンッダンッダンッ

 弐号機は護衛艦を踏み台にして軽やかにジャンプを繰り返し、空母に近づいていく。

「エヴァ弐号機、着艦しまーーーすっ!!」

 オーバー・ザ・レインボーに着地しようとするが―――

「惣流さん、後ろ!!」

がばぁ

 後ろから真っ白い魚の形をした使徒が海面からジャンプし、弐号機に体当たりしようとする。

「くっ、こんのぉぉぉぉぉぉ!!」

バキィ

バシャーン

 惣流さんはとっさに空中で体勢を変え、使徒を蹴りつけ海へ叩き落す。

ダァァン

 弐号機は空母の甲板に膝をつきながらも、なんとか空母へ着地する。

「す、凄い………」

 僕は感嘆の声を漏らした。

 少なくとも僕に今の動きは、到底真似出来ない。

「ふっふ〜ん。どお!真のエヴァエースパイロットの実力は!」

「う、うん。凄いね」

(この性格さえなければ、パーフェクトだと思うんだけど………)

 若干………いや、かなり引きながら僕はそう思った。

バコッ

「「あっ!?」」

バシャーーーーン

 突如弐号機はバランスを崩し、海に転落する。

「な、なに!?」

「……………昇降エレベーターを踏み抜いたみたいだね」

「サ、サード!気付いてたんならなんで言わないのよっ!」

「僕も落ちてから気付いたんだよっ!」

 僕達が不毛な言い合いをしている間にも、弐号機はどんどん沈んで行く。

「惣流さん!とにかく何とかしないと………」

「分かってるわよ!アタシに命令しないで!!」

 僕に八つ当たりしながら、惣流さんは操縦桿を動かす、が―――

「えっ!?な、何で動かないのよっ!!」

「………もしかしてこの弐号機、水中戦用装備になってないんじゃ?」

「………あーもうっ!!あんたのせいよ!サード!!」

「なんでだよっ!?」

「アンタがさっき、エレベーターにさっさと気付いてれば落ちなくてすんだのに!!」

「惣流さんだって気付かなかったじゃないか!!」

「アンタはただぼーっと乗ってるだけなんだからそれぐらいやりなさいよねっ!!」

「なんだよ、それっ!大体君が無理矢理………って来たぁっ!?」

「えっ!?きゃぁぁぁぁっ!?」

ガコォォォン

 僕達がケンカをしている内に使徒が弐号機に体当たりを仕掛けてくる。

「くうぅぅぅ!ちょっとアンタサードチルドレンでしょ!何とかしなさいよ!!」

「そんな事言ったって………あれ?」

 使徒が何故か弐号機に追撃をせずに海上のほうへ浮上して行く。

「なによ、あれ?なんでこっちに攻撃してこないのよ?」

「………まさか!?船の方を先に!?」

 

 

 

>ミユウ

 私達が入った時、ブリッチは混乱していた。

 無数の怒声や悲鳴、命令などが飛び交っている。

 そして無線からは何故か、シンジ君と惣流さんの言い合いが聞えてくる。

「ミサトさんっ!!状況は?」

「あ、ミユウちゃんにサキちゃん。それが弐号機海に落ちちゃって」

「ええっ!?」

(あ、あんのヘボパイロット〜〜〜〜!!シンジ君を巻き込んで〜〜〜!!)

 海の方を見るが何も変化は―――

「レ、レーダーに巨大な反応!!こっちに向かってきます!!」

 見ると、海中から海面を割って何かが出てくる。

「「「えっ!?」」」

 

 

 

>シンジ

「まずいっ!あのままじゃ、ミサト達がやられる!?」

(や、やられる?あそこにはミユウやサキが………)

「動けっ!動け動け動け動けっ!!」

 惣流さんの必死な叫び声がエントリープラグに響くが弐号機は反応しない。

(やられる………ミユウ達が、死ぬ・・・・・・・・・?)

「くぅっ!!サード!!アンタも何か手を考え………」

 

 

 

>アスカ

「くぅっ!!サード!!アンタも何か手を考え………」

 あたしはそこまで言って絶句した。

 サードの瞳が異常なまでの意思の光を発していた。

 今まで情けなかったサードとはまるで別人のように。

「殺させない………殺させやしない。絶対にミユウ達は殺させやしないっ!!」

「っ!?な、何!?」

 サードの言葉と共に、あたしの体からシンクロ時に感じられる一体感が無くなっていく。

(まさか、コイツがあたしからシンクロの主導権を奪ってる!?)

「うわああぁぁっ!!」

 弐号機の腕に赤い光が灯る。

(ATフィールドを弐号機の腕に収束してる!?そんな………そんなことが可能なの!?)

 そして弐号機が海底の底を蹴った。

 

 

 

>ミユウ

「目標との距離、8000………5000………2000、衝突します!!」

「全員対ショック防御ぉっ!!」

(あんなでっかいのにぶつかったらこんな船なんかひとたまりもないっ!!)

 私は隣にいるサキちゃんの体をぎゅっと抱きしめ、体を強張らせる。

ザバァァァァン

 使徒がその白い巨体を水中から空中へ躍らせる。

 落下地点は――――――この船!

(シンジ君っ!!)

ザバァァァァ

 飛んでいる白い巨体の下から、赤い機体が水中から一直線に使徒へ向かって飛び出していく。

「弐号機っ!?」

ドシュッ、ブチブチィィッ

 弐号機は、使徒の下っ腹にその右腕を突き刺し、体の中から赤い玉を引きずり出す。

ドバシャァァァァァァン

 コアを体内から引きずり出された使徒は水中へ没していった。

ズダァァァァン

 弐号機は空母の上に背中から落下した。

「シンジ君っ!!」

「おにいちゃんっ!!」

 私達は慌ててシンジ君の所へ駆け出した。

 

 

 

>アスカ

「ミユウ!サキ!」

 弐号機から降りるなり、サードは連れの二人の元に駆け寄った。

「二人とも怪我はない?」

「うん、私達は大丈夫。それより、シンジ君の方こそ大丈夫?」

(一体………コイツなんなのよ………?)

 アタシは呆然とサード達を見ていた。

 アタシ用に調整された、しかも陸戦用装備の弐号機で使徒を一瞬で倒したサード。

 そして何より、あの時アタシはサードが見せた『意思』に呑まれていた。

「アスカ!」

 ミサトがアタシに駆け寄ってくる。

「アスカ、さすがにやるじゃない!今回はほんと、助かったわ〜〜〜♪」

「………違う、あたしじゃない。サードが………やったのよ」

「え?…………シンちゃんが?」

 アタシとミサトはサードに視線をうつす。

 サードは連れの二人とじゃれあっている。

 サードの情けなさそうな顔を見るとさっきのは幻じゃないかとさえ思えてくる。

 しかし、アタシの理性がそれを否定する。

(こいつが……………サード!!)

 

 

 

>シンジ

「シンジ君、昨日は大変だったね〜」

「確かに、あんな所で使徒が出て来るとは思わなかったし」

 机に肘をついて、しみじみと言うミユウに僕は少しだるげに答える。

 もちろん、昨日の使徒戦の疲れからだ。

「そうじゃなくて〜、あの弐号機パイロットがずいぶんワガママな事言ってたでしょ〜」

「あはは………もしかして、昨日の戦闘の時のケンカ聞えてた?」

「うん、と〜っても良く聞えてたよ。おにいちゃんとそーりゅさんのケンカ。 ミサト、頭抱えてたもん」

 サキがミユウの代わりに答える。

「サキ、ミサト『さん』!呼び捨てにしちゃダメだろ」

「は〜い♪」

(ふう、まったく返事だけは良いんだからな〜)

「先生、来たわ」

 サキの向こう側に座っている、綾波が不機嫌そうに僕達に言ってくる。

 綾波の機嫌が悪いのは、昨日行けなかったせいで僕達の会話に着いてこれないからだ。

「え〜、今日はホームルームの前に転校生を紹介します」

 担任教師の開口一番のこのセリフにクラス中がざわめく。

「また、転校生かっ!?」

「このクラス四人目だぜ?」

「あーっ、また可愛い美少女だといいよな〜!!」

「………ああ、今度こそフリーのな」

 ギラッと僕に向けて男子からの殺気を感じる。

(ご、誤解なのに………)

「では、入ってきてください。」

ガラッ

「「「「「おお〜〜〜〜っ!!」」」」」

「「ああっ!?」」

 クラスの男子の歓声にまぎれて、僕とミユウは驚きの声を漏らす。

 教室に入ってきた女の子は、黒板の前に立つ。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくっ!」

「あ、そーりゅさんだ〜♪」

「「「「「えっ!?」」」」」

 サキの言葉に、クラス中が僕達に疑惑の視線を向ける。

 惣流さんはこちらを見て、少し驚いた表情をしている。

 ………どうやら、気付かれたようだ。

 惣流さんはこちらに近づいてきて、僕の目の前で止まる。

「へえ〜、碇君、同じクラスだったんだ〜。よ・ろ・し・く!」

 外面上こそいいが、目の奥にはきっちり僕に対する敵愾心が轟々と渦巻いている。

ゾワッ

 背中に嫌な悪寒が激しく走る。

 周りを見まわすと、クラスの男子の視線が疑惑からまた殺意に変わっていた。

 それもさっきより確実に強力になって。

(ご、誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

 僕の心の叫びは何処にも届かなかった。

 

 

 


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