前だけを…

 

第六話   決戦、第三新東京市


 

>シンジ

「っ!?」

 光。

 考える前に体が動いた。固定具を引き千切り左へと体をずらす。

バシュゥッ

「うわああああああああああっ!!!!」

 しかし避けきれず光はATフィールドも貫き、初号機の右腕を持っていった。

「ぐううぅぅ………!」

 自分の右腕に激痛が走る。右腕を吹っ飛ばされた痛みはもろにフィードバックされている。

『シンジ君!後退して!』

「は、はい………」

カッ

 使徒が光を発する。

(またかっ!?)

 慌ててハッチに飛び込むが………

バシュウッ

「ぐぎゃあっ!」

 光はハッチに飛び込んだ初号機の頭に直撃した。

 薄れて行く意識の中で自分がジオフロントに落ちていくのだけが分かった……………。

 

 

 

>ミユウ

ドゴォォォォン

「シンジ君っ!!」

「おにいちゃんっ!!」

 シンジ君を乗せた初号機は地上からジオフロントまで一気に落下した。

「目標沈黙!」

「シンちゃんは!?」

「脳波異常、心音微弱!!」

「初号機は第7ケイジに落下!!」

 次々に嫌な報告が飛んでくる。

「リツコ!ケイジに行くわ!救護班へ緊急処置の用意を急がせて!」

 ミサトさんはそう叫ぶなり発令所を飛び出して行く。

「わかったわ」

「私達も行こうっ!サキちゃん、レイ!」

「うん!」

「ええ」

 私達も慌ててミサトさんを追いかけた。

 

 

 

>ネルフ本部発令所

「パイロット脳波乱れています!心音微弱!いえっ、停止しました!!」

「生命維持システムを最大にして、心臓マッサージを!!」

「はい!」

 バシュッ!

「もう一度!!」

 バシュッ!

「パルス確認!」

「プラグの強制排除急いで!」

「LCL緊急排水!」

「はい!」

 

 

 

>ミユウ

「シ、シンジ君……………」

 私達がケイジに着くとシンジ君は担架に乗せられて運ばれていくところだった。

 私達はただ立ち尽くすしかできなかった。

 

 

 

>ネルフ本部作戦室

「状況は?」

「これまで採取したデータによりますと、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推測されます」

「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち。ATフィールド中和可能な エヴァによる近接戦闘は無理と言うわけね………」

 ミサトが部下、日向マコトの報告を聞き、苦々しくそう言う。

「敵のATフィールドは?」

「健在です。相転移空間を肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています」

「攻守ともに完璧。まさに難攻不落の空中要塞なわけね。それで、問題のボーリング・マシンは?」

「現在、直径17,5Mの巨大ドリル・ブレードがネルフ本部に向かい穿孔中。第2装甲板まで到達しています」

ガリッ

 持っているボールペンをかじるミサト。その思考は今フル回転している。

「本部への到達予想時刻は?」

「明日午前0時6分54秒です。その時刻には22層全ての装甲防壁を貫通してネルフ本部へ到達すると思われます」

「後十時間足らずか………」

ピッ

 ミサトは初号機のケイジに通信を繋げる。

「赤木博士、初号機の状況は?」

『駄目ね。右腕は完全に融解。それに頭をやられたせいで神経接続もおかしくなっているはずよ。 あと、落下の衝撃で全体的にガタがきてるわ。はっきり言って一日二日で直る物じゃないわ』

「戦闘は無理なの?」

『無理よ。動く事は出来ても戦闘にはとても使えないわね』

「零号機は?」

『再起動には問題無いわ。ただ、フィードバックにまだ誤差が残ってるから………』

「分かったわ。初号機は少しでもマシな状態にしておいて」

『ええ、なんとかやってみるわ』

プツン

「シンちゃん……………初号機パイロットの容態は?」

「体には異常はありません。ただ………」

「ただ?」

「神経パルスがかなり不安定な状態です。今はまだ薬で眠っていますが、起きた時に戦える状態かどうかは………」

「………………はあ〜。状況は最悪ね」

「白旗でも揚げますか?」

「ナイス、アイディア。でもその前に………」

 ミサトはマコトにニヤリと笑って見せる。

「やれることはやっておかなくちゃね。………後悔はあの世でしても仕方ないわ」

 

 

 

>ミユウ

 シンジ君。

 私は何もできないの?

 シンジ君にこんな危険な事を頼んだのは私なのに。

 私は守られてるだけで……………。

「ねえ、ミユってば!」

「え、あ、何?サキちゃん」

 サキちゃんの呼ぶ声にやっと我に帰る。

 ここはネルフのシンジ君の病室。約2時間の間、私とサキちゃんはずっとシンジ君のそばにいた。 (レイは途中で呼び出しがあり、いなくなった)

「ミユ、大丈夫?」

「え、何が?今、大変なのはシンジ君で………」

「さっきからミユ、顔色悪いよ。少し寝たら?………おにいちゃんが 起きた時元気なほうが喜んでくれるよ、きっと」

 サキちゃんは心配してくれている。しかし、そう言うサキちゃんこそ顔が青ざめている。

「大丈夫だから………」

プシュッ

「「レイッ!」」

 突然ドアが開き、レイがワゴンを押しながら入ってくる。

「レイ、それ何?」

「………碇君の食事と着替え」

 ワゴンには病院食と青いプラグスーツがのっている。

「………ちょっと、着替えって何なの?」

「……………60分後、碇・綾波の両名は本日17時30分ケイジに集合」

「な、何考えてるのっ!?シンジ君はまだ戦える状態じゃないんだよっ!?」

「……………」

 レイは黙っている。私は今までに積もっていた不安による苛立ちをレイに吐き出した。

「レイはシンジ君が心配じゃないのっ!?そんな無理をさせてまでエヴァに乗せたいのっ!?」

「ミ、ミユ。言い過ぎだよ〜」

 サキちゃんがおろおろと私とレイを見比べている。

「何で黙ってるのっ!?答えてよっ!!」

「…………………私は」

「ミユウ、良いんだよ」

「えっ?」

 振り向くとシンジ君が体を起こしていた。

「綾波、60分後にケイジに集合だね」

「………ええ」

 シンジ君は今起きたばかりとは思えないほど冷静な口調で、レイに確認を取る。

「シンジ君、もういいよ。私達の為にこれ以上無理しないで。………お願い」

 私が声を震わせながらシンジ君にそう言うが、シンジ君は首を横に振る。

「ごめん………」

「何でっ!?何でこんなにシンジ君だけが無理しなくちゃいけないの………それも私なんかの為に………」

「ミユウ、違うよ。僕は僕の為に戦うんだ」

「え?」

 私はシンジ君の顔を見つめた。シンジ君の瞳には確かな強い意思の光があった。

「僕は自分の居たい場所を……………守るために戦うんだ。自分の大好きな人達と笑って暮らすためにね。 人類なんて関係ない。僕は僕の為に戦うんだ。だから、僕は頑張れる」

「シンジ君……………」

「だから帰ってきた時は笑って僕を迎えてよ。それが僕にとって一番の報酬なんだから」

「分かった……………だけど、絶対帰ってきてね。待ってるから………」

「約束……………するよ」

「うん」

「おにいちゃ〜ん、ボクは〜?」

 サキちゃんが私達の間に割って入り抗議の声を上げる。

「そうだね、サキも」

「『も』は酷いよ〜!」

「さっきはゴメンね、レイ」

 私は青い髪をした家族の一人に頭を下げた。

「………いい」

「ありがと、レイ………。それじゃ、体力つけなくちゃね。シンジ君、ご飯しっかり食べてね♪せっかく レイが運んできてくれたんだから」

「そうだね」

 

 

 

>ネルフ本部発令所

「ポジトロンライフルの準備はどう?」

 発令所にミサトの声が飛ぶ。

『技術開発部の意地にかけてもあと3時間で形にしてみせますよ!任せてもらいましょうか!」

「エネルギー・システムの見通しは?」

「現在予定より3,2%遅れていますが、本日23時10分にはなんとかできます」

「頭の固い戦自研がよく陽電子砲の徴発に応じた物だ………。エヴァによる超長距離からの直接射撃……。 日本国内総電力の徴発!ずいぶんと大胆な作戦を立てたものだな、葛城一尉」

 ゲンドウの隣に立っている冬月がミサトにプレッシャーをかける。

「残された時間の内でできる、もっとも確実な方法です。目標のATフィールド を中和せず打破するには高エネルギー集中帯による一点突破。それしか道はありません」

「反対する理由は何も無い。存分にやりたまえ」

 ゲンドウは顔の前に手を組むポーズを崩さず賛同した。

「本作戦をヤシマ作戦と呼称します!」

 

 

 

>第三新東京市第壱中学屋上

「おい、ケンスケ。ほんまにこの時間なんやろうな。もう避難せなあかん時間やで」

 トウジはカメラをいじっているケンスケに何度目かの確認をした。

「パパのデータをこっそり見たんだ、間違い無いよ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「山が動いてる、エヴァか!?」

 山から初号機が出てくる。

「お、シンジのロボット………や……な……?」

 言葉の途中で絶句する。

 なぜなら初号機は右腕は無いわ、見るからに動きがぎこちないわ、どう見ても正常な状態ではない。

「……………シェルターにとっとと行こか」

「……………ああ」

 二人はさすがに不安になってすごすごとシェルターへ向かって行った。

 

 

 

>シンジ

「これがポジトロン・ライフルよ。戦自研で開発途中だった物をネルフが徴発し組み立てた物……… 間に合わせだけどね。計算上ではこの超長距離からでも敵のATフィールドを貫くに足りるわ………。 もとが精密機械のうえ急造仕様だから野戦向きじゃないのが難点だけど………」

「………大丈夫なんですか?」

「そこでこの盾。こちらも急造仕様だけどもとはSSTOの底部で、超電磁コーティング されている機種だし、敵の砲撃にも17秒耐えられるわ」

 酷く不恰好な銃と盾が並んでいる。急造仕様というのは伊達じゃないようだ。

「レイは零号機で砲手を担当。シンちゃんは初号機で防御を担当して」

「「はい」」

「ホントの所、シンクロ率の高いシンちゃんに砲手を任せたいんだけど………、 まあ初号機があの通りじゃねえ」

 ミサトさんはそう言って初号機を見上げる。

 初号機は右腕が無い上、使徒の攻撃とジオフロントへの落下の衝撃でボロボロになってしまっている。

 時間が足りず、あくまで応急処置だとリツコさんは言っていた。

「レイ、陽電子は地球の自転・磁場・重力の影響を受け直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね」

「……………了解」

「ミサトさん、もし1発目が外れたら?」

「2発目を撃つには冷却や再充電等に20秒はかかるわ。その間予想される敵の反撃をかわせなければ………アウトね。 最終的にはシンちゃん、あなたの盾に守ってもらうしかないわね。

 ……………時間よ。二人とも準備して」

「「はい」」

 

 

 

「……………綾波は何故、エヴァに乗るの?」

「……………絆だったから」

「だった?」

「今は……………碇君と同じ。……………守りたいから、乗るの」

「そっか……………」

 僕は月を見上げた。

「月………綺麗だね………」

「ええ………」

「勝とうね………そして絶対ミユウ達のところへ帰ろう」

「ええ」

 

 

 

『時刻0000分。時間です』

『レイ、日本中のエネルギー、あなたに預けるわ』

『はい………』

 オレンジ色をした機体、零号機は二子山山中にポジトロンライフルを持って伏せている。

『第一接続開始。第1から第803区まで送電開始』

『ヤシマ作戦、スタート!!』

 

 

 

>レイ

『電圧上昇中加圧域へ』

『全冷却システム出力最大へ』

『陽電子流入順調!』

 緊張と不安と恐怖。

 私は生まれて初めてその感情を味わっていた。

『第2次接続!!』

『全加速機運転開始!強制収束機作動!!』

 外せば、碇君が苦しむ事になる。

 いや、それどころか………

『全電力二子山増設変電所へ!』

『最終安全装置解除!』

『撃鉄起こせ!』

ガシャン

 ポジトロンライフルの撃鉄を引く。

『地球自転誤差修正プラス0,0009』

『第7次最終接続』

『全エネルギーポジトロンライフルへ!』

 当てなければならない。

 外すわけにはいかない。

『発射まであと10秒…9、8、7、6……』

ヴヴヴヴヴヴヴ

『目標に高エネルギー反応!!』

『気付かれたっ!?』

ピピーッ

 照準マークが揃う。

『撃て!』

「!」

カチッ

ズバァッ

カッ

ドグワァァァァァァン

 同時に放たれた2つの光は干渉しあって曲がり、お互いの後方で爆発を起こす。

(………外した!?)

ビーッビーッ

『敵、ボーリングマシンジオフロント内へ進入!』

『第2射急いで!』

ガコンッ

 慌ててポジトロンライフルの弾を交換する。

『ヒューズ交換っ!』

『再充電開始!』

『銃身冷却開始!』

『レイ、移動して!時間を稼ぐのよ!』

「了解」

 私は山の斜面を滑り降り、200M程下った所で止まる。

『目標再び高エネルギー反応!』

『まずいっ!早すぎるっ!!』

カッ

 ポジトロンライフルを構えなおした所で光が迫ってくる。

「っ!?」

 嫌………。

 無に帰りたくない………。

 私は………碇君達と…………。

バッ

 目の前に紫色の機体が割りこんでくる。

「碇君っ!?」

バシュルルルル

 初号機は盾で加粒子砲を受けとめているがどんどん溶けていく。

『盾が持たないっ!』

ピピピピピピッ、ピーー

 照準がやっと揃う。

『今よ、撃っ『綾波、まだだっ!』

「碇君!?」

 葛城一尉の声を遮り、碇君の言葉が響いた。

 

 

 

>シンジ

「綾波、まだだっ!」

(今撃ったんじゃ向こうの加粒子砲が邪魔してまた外すだけだ。 ……………だったら、道を作る!)

 持っている盾が完全に溶け落ちようとしている。

「フィールド全開!」

 

 

 

>指揮車両

「しょ、初号機、ATフィールドを張りました!出力、およそ敵の三倍! 加粒子砲をかろうじてですが、受けとめています!」

「シンクロ率上昇!120…150…180…202,0%で安定!」

「な、何ですってっ!?」

 次々と信じられない報告を聞き、リツコは驚愕の声を上げる。

「(一体何をしようとしてるの!?シンちゃん……!)」

 

 

 

>シンジ

(ATフィールドはこうして防御に使える………ということはっ!)

 初号機の左腕を振り上げる。

(攻撃にだって使えるはずだっ!!)

「はあああああああああっ!!」

 思いっきり腕を振り下ろすとイメージした通り一直線に赤い光の筋が走り、 使徒が出す青い光をまっぷたつに裂いて突き進んで行く。

ガギィィィィン

 使徒のATフィールドも引き裂き、青いボディに傷をつける。

「今だっ!綾波っ!!」

ズバァッ

ドゴォォォォン

 使徒はATフィールドを張りなおす暇もなく、ポジトロンライフルの一撃で沈んでいった。

『も、目標、完全に沈黙しました』

「ふう…………あ、あれ?」

(な、なんか、傾いて行くような……?)

 

 

 

>指揮車両

「も、目標、完全に沈黙しました。敵ブレ−ド、本部の直上にて停止」

 静まり返った指揮車両にマコトの報告だけが響く。

「…………………リツコ、初号機にあんな武器いつ付けたのよ?」

 かなり長い沈黙を破り、ミサトはポツリと隣にいるリツコに呟いた。

「付けてないわ。あれは………………多分、ATフィールドよ」

「ATフィールド!?」

「最高の物質で出来ている最強の盾は、最強の剣にも成りうるってことね………」

 そういいながら、リツコ自身も納得していなかった。

「(測ったようなタイミングでの急激なシンクロ率の上昇、ATフィールドの攻撃への転用…………… 偶然で済ませられる事じゃないわね。まさか………『彼女』がもう目覚めているの?)」

 リツコは自分の知識の中から一番ありえる………いや、唯一ありえる理由を想像した。

 それが全くの間違いであるという事に気付かずに………

 

 

 

>レイ

「……………勝ったの?」

ズドォォン

 呆然としていると初号機がいきなり崩れ落ちる。

「い、碇君っ!?」

 慌てて呼びかけるが、返事が返ってこない。

バカッ、ガコンッ

 エントリープラグを無理矢理イジェクトさせ慎重に地面に置く。そして私は零号機から降りた。

(碇君!碇君!碇君!)

ガコン

 私がたどり着く前にハッチは先に開いた。

「はあ、空気が美味しい」

「碇君!」

がばっ

 私は碇君の元へ走り、そのままの勢いで抱きついた。

「あ、綾波っ!?」

「……………良かった。無事、だったのね………」

「うん。けど、参ったよ。ちょっと初号機に無理させすぎちゃったみたいで、 いきなりピクリとも動かなくなっちゃった」

「………そうだったの」

 碇君は私の顔を改めてみてにっこり笑う。

「これで………帰れるね」

「………ええ」

 私が返事すると碇君は何かに驚いた表情になった。

「どうしたの?」

「な、何でも無いよ!」

「そう………?」

 嬉しかった。

 碇君が無事だった事が。

 そして………

 私に帰れる場所がある事が。

 

 

 

>シンジ

(あ、綾波の笑顔………初めて見たけど………スゴイ綺麗だったな………。

 あ〜、なんか使徒と戦ってる時より焦ったよ………)

 

 

 

「ただいま!」

「…………ただいま」

 綾波と一緒に発令所の入り口をくぐる。

「おかえり、二人とも」

「おかえりなさ〜い♪」

 ミユウとサキは約束通り、笑顔で僕達を迎えた。 ただし、二人とも今にも泣き出しそうな笑顔だったけど。

 

 

 


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