前だけを…

 

第参話   鳴らない電話


 

>NERV実験ホール

『目標をセンターに入れてスイッチ』

ガガガガガガガガガガッ

 シンジの呟きと共に、シュミレーションの中の初号機が仮想使徒を パレットガンで撃っていく。

「どう、シンジ君の調子?」

 ミサトの言葉にリツコは表情を曇らせる。

「悪くは無いけど………良くも無いわね」

「ふ〜ん。ま、けど、報告書には運動神経はあんまし良くないって書いてたから、 こんぐらい出来れば御の字じゃないの?」

「まあ、ね。それより問題はシンクロ率」

「シンクロ率?シンちゃん、良いじゃない?」

「確かにね、今もすでに72,5%。ドイツにいるアスカを抜くのも時間の問題でしょうね」

「…………じゃあ、何が問題なのよ?」

 ミサトが怪訝そうに聞く。

「前回の戦闘の時に出した100%以上のシンクロ率のことが全然解らないのよ。 不用意なシンクロ率の上昇は暴走にも繋がりかねないわ」

「シンちゃんに聞いてみれば?この前の戦闘の時の事」

「もちろん、聞いたわよ。けど、夢中だったので何も覚えて無いそうよ」

「無理もないか。いきなり、あの状況だったもんね〜」

ガガガガガガガガッ

 二人が話している間も初号機は出てくる使徒をなんとか倒していく。

「そういえば、この間回収した使徒のこと、なんか解った?」

「さっぱりよ、完全にお手上げだわ。劣化が激しすぎてサンプルにならないわ」

「劣化が激しいって………どう言う事?」

「シンジ君が倒して約十分後、使徒の体組織に変化。物凄い勢いで劣化していったわ。 何故こんなにも早く体組織が劣化していったのかまったくの不明なのよ」

「そういうもんなんじゃないの?使徒って」

「ミサト、あなたね………」

『ミサトさん、リツコさん。いつまでやってればいいんですか!?』

 二人のケンカに発展しそうな会話を止めたのはシンジの疲れた声だった。

『かれこれ、一時間はやってると思うんですけど………』

「え、ええ。もう、上がって良いわ」

『はい』

 

 

 

>シンジ

 ミユウと綾波、そしてサキと同居を始めてから二週間が経過した。

 その生活はおおむね良好だ。

 現在PM7:00

 ちょうど、夕食時。

「ペンペン、ご飯だよ〜♪」

「クワ〜♪」

 サキが残り物のサンマをミサトさんのペット、温泉ペンギンのペンペンにあげている。

 一度ミサトさんが家に遊びに来た時連れてきたのだけど、 僕達の家が気に入ったらしく寝る時以外ウチに居るようになった。

 ……………本当の所はまともな餌が出てこないので逃げてきたらしい。

 まあ、サキが喜んでいるので何も問題ない。

 問題があるとすれば…………、

「シンちゃ〜ん、おかわり〜♪」

 飼い主まで、もれなく付いてくるという事だろう。

「はい、ミサトさん」

 お茶碗にご飯を山盛りにして渡す。

「ありがと♪」

 ミサトさんは受け取るとビールと交互に食べ(飲み)始めた。

「げ…………」

 隣で思わず声を出してしまったミユウの反応は普通だろう。

「……………葛城一尉、何故毎日来るの?」

 綾波がわずかに不機嫌な声で質問する。 (綾波の感情を読み取れるのは僕とミユウとサキ、あとペンペンくらいだ。)

「いいじゃな〜い♪食事は大勢の方が楽しいでしょ」

 本当は食事を作るのが面倒だからだ。

「………………この家は葛城一尉がいなくても十分大勢いるわ」

 綾波が普段より冷たい声で言う。

「うっ………レイ、シンちゃん達と住むようになってから言うようになったわね………」

「あ、綾波、そう言う事言っちゃダメだよ………」

「そう」

(なんか綾波、ミサトさんに冷たいんだよな。何でだろう?)

「そうそう、シンちゃん達。明日から学校ね」

「……………はい」

(そうだ、明日から学校に行かなきゃいけないんだ………。 学校にはあまり良い思い出ないからな………)

「それにしてもサキちゃんがシンちゃん達と同い年とはねぇ」

「あはははは…………」

 僕は苦笑いをした。

 実はサキも学校へ行く事になっている。

 事の始まりはサキの戸籍を作るときに起きた。

 人間として生きるなら戸籍があった方が良いだろうと思い、 父さんと交渉して(交渉と言うより脅迫)作ってもらう事にした。

 そして、その交渉をするため電話をかけようとした時ミユウが、

『サキちゃん、学校に行った方が良いよね』

 と急に言い出した。

 学校の話をサキにすると当然行きたがり、僕も

(確かに人間の事をもっと知った方がいいだろうし、 なにより僕達が学校に行っている間留守番じゃ可哀相だ)

 と思った事から実行へ移った。

 小6か、中一ぐらいの学年にするつもりだったのだが僕達と同じ所で勉強をしたいと言い出し、 結局サキは僕の同い年の従兄妹という事で落ち着いた。

(『おにいちゃん、ボクのこと嫌いなの?』って目に涙溜めて言うんだもんな〜。 ダメだ何て言えるわけないじゃないか………)

「シンちゃん、どうしたの?」

「い、いえ、何でもないです」

「そお?まあ、いいわ。それより………じゃ〜ん♪」

 ミサトさんは声と共にあるものを取り出した。

「あ、制服!」

「そうよ〜ん。はい、これがミユウちゃんの。こっちがサキちゃんの分。 で、はい、シンちゃんの分」

「わ〜い♪せ〜ふくだ〜♪」

 サキは制服を持ってはしゃいでいる。

(サキ、制服の意味わかってるのかな?なんか、制服って言う発音がおかしいけど)

「これ、レイと同じ服だよね♪」

(………やっぱり、分かってなかったか)

「結構可愛い♪」

 はしゃいでいるのはサキでだけではなく、ミユウもだった。

 

 

 

「シンちゃん、ごちそうさま〜」

「クワー」

ばたん

 ミサトさんとペンペンは夕食を食べ終わり、暫くウチに居た後帰っていった。

「じゃ、遅いし、もう寝ようか」

「そうだね。おやすみ、シンジ君」

「おやすみー!おにいちゃーん!」

「………碇君、おやすみ」

「うん、おやすみ」

 僕達はそういうとそれぞれの部屋に入った。

 ちなみにミユウとサキは同室だ。

 サキは最初は僕の部屋が良いと聞かなかったのだけど、 ミユウが猛反対し、こうなった。

(結構、仲良いんだよな……、あの三人)

 この前、デパートに買い物に行って以来三人は下の名前で呼び合っている。

 僕は自分のベットに転がる。

(明日は学校か………。うまく、やれるかな……?)

 そんないろいろな事を考えながら僕は眠りについていった。

 

 

 

>第三中学2−A教室

「おい、トウジ。今日、転校生が来るらしいぞ」

 眼鏡の少年が隣の席に座っているジャージを着た少年に話しかける。

「ほんまか、ケンスケ!?で、女やろうな?」

 トウジと呼ばれたジャージを着た少年が身を乗り出して眼鏡の少年、 ケンスケに聞いた。

「それが何でも三人も来るらしい」

「は?三人?」

「で…………そのうち、女子は二人だそうだ」

「おお〜!………それでその二人、お前の評価ではどうなんや?」

「学校のほうにも写真来てないみたいでさ、顔が全然わからないんだよ」

「そうか………」

「鈴原っ!何バカな話してるの!!」

 顔にそばかすがあるおさげの少女がトウジの耳を引っ張る。

「いててててっ!いたいがな、いいんちょ」

「バカな話ばっかりしてるからでしょ!」

がらっ

 教室の前のドアが開き、担任の老教師が入ってくる。

「ほら、先生も来たし、委員長座りなよ」

 ケンスケがトウジに助け舟を出し、少女はしぶしぶ席に戻った。

「あ〜、ホームルームを始めましょう。………と、その前に転校生を紹介します。 入ってきなさい」

がらっ

 老教師がそう言うとドアが開いた。

 

 

 

>ミユウ

がらっ

「「「「「「「おおおお〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」」」」」」」

 私達が教室に入ると同時に男子から歓声が上がる。

「おおっ、すげえ!」

「当たりだ!くーっ、どっちも綾波に負けてないぞ!」

「売れるっ!売れるぞぉ〜!!」

 一斉にがやがやとしゃべり出す。まあ、誉められて悪い気はしない。

 ただ、後ろの方でカメラで写真まで取っている人がいるのは気になるけど………。

「はい、静かに。じゃあ、まず君から自己紹介して」

 結構年のいっている先生がシンジ君を指名した。

「は、はい。えと、第二東京市から来ました、碇シンジです。よろしくお願いします」

 一通り言うとシンジ君はぺこりとお辞儀をする。

「ねえねえ、あの男の子、結構良くない?」

「うん、緊張しちゃって可愛いよね」

 クラスの女子もひそひそと話し出す。

(………………むう。シンジ君、顔良いからなあ)

「次は………」

「はいは〜い!ボクがしまーす!」

 先生の言葉を遮ってサキちゃんがしゃべり始める。

「ボク、碇サキっていいます。よろしく〜〜!!」

「質問〜!そっちにいる碇君と同じ名字ですけど、どういう関係なんですか?」

 一番前の列の席の男子、手を上げてそう質問した。

「うん、ボクとおにいちゃんはおや、うぐっ」

 サキちゃんが『親子』と言おうとしたぎりぎりの所で シンジ君が手で口を塞いだ。

「い、従兄妹です」

 シンジ君は顔を引きつらせている。

「同じく第ニ東京市から来ました、如月ミユウです。仲良くしてください」

 私も話を逸らそうとさっさと自己紹介をしてしまう。

「では、三人とも一番後ろの席の空いている所に座ってください」

 確かに一番後ろの列はほとんど空いている………っと、窓際の席にレイがいた。

「あ、レイだ。やっほ〜♪」

 サキちゃんも見つけたらしくレイに向かって手を振る。

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

しーん

 サキちゃんとレイが面識あったのに驚いてクラスが一瞬で静かになった。

「綾波さんと知り合いですか。では、碇さんは綾波さんの隣が良いでしょう」

「は〜い♪」

 サキちゃんはトコトコと歩いて行くとレイの隣にチョコンと座った。

 私がシンジ君に一瞬目線を合わせると、シンジ君は肩をすくませて最後列の サキちゃんのレイとは逆隣に座る。私も慌ててシンジ君の隣に座った。

「レイ、一緒のクラスになれて良かったね♪」

「ええ」

 静かになったクラスで響くサキちゃんとレイの会話。

「では、授業を始めましょうか」

 静かになった所で、すかさず担任の先生はそう言った。

 

 

 

>シンジ

 授業が始まってから僕の端末には質問のメールが次々に送られてきた。

 隣の席のミユウやサキも同じのようだ。

 メールの内容は、

『趣味は?』だの、『彼女いる?』だの他愛も無い物から、

『碇サキさんともしかして一緒に暮らしているの?』とか、

『如月さんも第ニ東京市から来たって言ったけど知り合い?』

 等の少々返答に困る物まで送られてきた。

「「「ええ〜っ!!」」」

 僕が返答に詰まっていると、一部のクラスメイトが声を上げた。

(何だ?)

 答えはメールで来た。

『サキさんと同棲してるって本当?』

(なっ!?)

 慌てて隣のサキの端末を覗き込むと、

『ボクとおにいちゃんは一緒に住んでるよ』

 と言うメールを送信していた。

「サキ、内緒だって言っただろ」

「あ、ゴメン、おにいちゃん。忘れてた」

 小声で注意すると、あっさり言い返してきた。

「はあ………」

 自分の端末に視線を戻すとこんな質問が届いていた。

『ねえ碇君って、あのロボットのパイロットなんじゃないの?Y/N』

(確か、守秘義務っていうのがあったような…………)

 少し考えた後、返答……………できなかった。

「あ〜、これってエヴァのことだよね、おにいちゃん!」

 いきなり、僕の横でサキが叫んだから。

「「「「「「「ええ〜っ!?」」」」」」」

 授業中なのにあっという間に僕達はクラスメイトに囲まれた。

「碇さん、あのロボットのパイロットなの?」

 僕が何とか言い訳しようとして口をパクパクさせていると(言い訳が浮かんでこない)、

「ううん、ボクじゃなくておにいちゃんがそうだよ」

 サキがきっちりトドメを刺してくれた。

「ねえ、どうやって選ばれたの?」

「テストとかあった?」

「エバっていうの?あのロボット」

「必殺技とかあるのか?」

「あう………」

 この後、一時間目は完全な質問タイムになってしまった。

 

 

 

「転校生!ちょっとええか?」

 一時間目が終わって、休み時間にやっと質問責めから介抱された 僕にジャージを着た男子が話しかけてきた。

「う、うん、いいけど……」

(何故ジャージ?制服は?)

「パイロットちゅうことはこの前の紫色のロボットに乗ってたのは転校生やな?」

「そうだけど………」

 すると彼は頭をいきなり下げた。

「へっ!?あの………?」

「転校生!礼を言わせてくれ!」

「あの………なにが?」

「実はこの前あのごっついのが来た時、もうちょっとでワイの妹が踏み潰されそうになってたんや。 そこをおまえがあのロボットで一発でのしてくれたおかげで妹は助かったんや。」

「いや別にお礼なんて………」

(そうか、逃げ遅れた人がいたんだ………)

「いやっ!転校生が手際よう倒してくれへんかったら、妹は怪我どころか 死んでたかもしれへん!ほんま、おおきにっ!なんかあったら言ってくれや、 何でもしたる」

「そんな………あ、じゃあさ、友達になってくれるかな。 こっちに来たばかりで知り合いも少ないし………」

「そうかっ!ワイは鈴原トウジや。トウジでええ」

「じゃあ、僕もシンジでいいよ」

(あはははは………、なんかすっごく疲れそうな人だな。 良い人みたいだから、いいけど)

「それにしてもあん気色悪いバケモン一体なんなんや?」

「さ、さあ、使徒って呼ばれてるみたいだけど……」

「まあ、あんなバケモン、ぱぱーっとみんな退治してくれや。 おちおち眠ってもいられへん………」

ガタンッ

 今までずっと黙って話を聞いていたサキが急に立ち上がり、 教室の外へ飛び出して行った。

「サ、サキッ!」

(……しまった!)

 僕は慌てて、サキを追いかけ、教室を出た。

 

 

 

>2−A教室

「な、なんや、一体………?」

 シンジとサキが飛び出していったのを呆然とみているトウジ。

ビクッ

 強烈な視線をトウジは背後に感じ、そちらを向くとミユウとレイが 物凄い目で睨んでいる。

「な、なんや、二人とも。ワイが一体何をしたって………」

 さらに強力になる視線にトウジは口を閉じた。

 

 

 

>シンジ

「はあ、はあ、はあ」

ガチャッ

 僕は屋上に通じるドアを開けた。

 そこにはサキがぽつんと立っていた。

 風で長い黒髪がなびいている。

「………おにいちゃん」

「サキ、気にしなくて良いよ。トウジは何も知らないから………」

「でも………ボク………」

 サキの目から涙が落ちる。

「あの人の妹を殺しそうに………」

「サキ!」

「………ボク、バケモノ?」

「違うっ!そんな事無いっ!!」

 僕はサキの小さな体を抱きしめた。

「お、おにいちゃん………?」

「サキは………化け物なんかじゃない」

「ボク………」

「サキ、今ここに居るサキは人間のサキだよね」

「……………うん」

「使徒だった時のサキエルとはもう別人なんだよ………」

「…………」

「サキは僕やミユウ、綾波のことが嫌い?」

「ううん、好きだよ………」

「だったら、もう、使徒だった時のことは忘れて、 僕の娘の碇サキになってよ………ね」

「う、うう、うええ〜〜んっ!おとうさ〜ん!」

 僕はしがみ付いて泣くサキの頭をそっと撫でた。

 

 

 

「サキ、落ち着いた?」

「うん、ありがとう、おとうさん」

 僕達は屋上で並んで座っている。

 結局、僕達は2時間目をサボってしまった。

「………『おとうさん』はやめてって言ったよね」

「ごめんなさい、おにいちゃん♪」

「ミユウ達が心配してるだろうから次の授業には戻ろうね」

「うん」

プルルルルルルッ

 僕のポケットから電子音が聞こえてくる。 ポケットには携帯電話が入っている。

「まさか、使徒!?」

ピッ

「ミサトさん?」

『そうよ、シンちゃん。使徒が来たわ。すぐにネルフに来て!』

「はい、分かりました」

ピッ

「使徒が来たみたいだ。ネルフへ行こう」

「……………うん」

 サキは顔を俯むかせている。

「サキ…………僕は使徒を倒すためにエヴァに乗っているんじゃない。 大切な人を…………守りたいから乗ってるんだ」

「それって…………ミユのこと?」

 サキはためらう様に聞いてくる。

「初めて、エヴァに乗った時はそうだった………。 でも、今はサキや綾波もそうだよ」

「ボクとレイも?」

「うん。大切な家族だから………、僕は絶対に守る」

(そう…………たとえ、僕の命と引き換えにしても………、絶対に!)

ガチャ

「綾波………」

 綾波がドアを開け、屋上に来た。後ろにはミユウもいる。

「碇君、非常召集。ネルフに行きましょう」

「うん、分かってる。行こう、サキ」

 僕はサキに手を差し出す。

「うん!」

 サキは笑顔を浮かべて僕の手を握った。

 

 

 

>NERV本部発令所

「碇司令の居ない間に第4の使徒襲来。………以外と早かったわね」

「前は15年のブランク。今回はたった2週間ですからね」

「こっちの都合はお構いなしか。女性に嫌われるタイプね」

 ミサトとその部下の日向は他人事のようにぼやいた。

「せめて、零号機が動けるようになってから来てもらいたかったものね」

 リツコがそう呟いて、肩をすくませる。

「まったくね……………。ねえ、リツコ」

「何、ミサト?」

「何故、あの子達が発令所にいるの?」

 ミサトの視線の先にはレイ、ミユウ、サキの三人が並んで立っている。

「あら、ミサト知らなかったの? シンジ君のパイロットになる時に出した条件」

「………何それ?」

「あの二人を発令所にいさせる事よ。 (本当はそれだけじゃないんだけどね………)」

 その言葉を聞くとミサトは納得したようだ。

「なるほど。第三新東京市内ではこの発令所が一番安全だものね」

「…………本当にそれだけかしらね」

「どういう意味よ?」

「初号機、発進準備できました!」

 ミサトの疑問の声を遮るようにオペレーターの報告が発令所に響く。

「分かったわ!シンジ君、準備はいい?」

 

 

 

>シンジ

『シンジ君、準備はいい?』

「はい」

 覚悟はもう出来ている。

『いい、シンジ君。上に上がると同時に使徒のATフィールドを中和して パレットガンで一斉射撃するのよ。練習の通り、落ち着いてやってね』

「わかりました」

「初号機、発進!」

 ミサトさんの掛け声と共に僕は撃ち出された。

 

 

 

>第三新東京市・山のふもと

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」

タッタッタッタッタッタッ

 二人の少年が山の階段を駆け登っていた。

「ケ、ケンスケ、ちょい、待ってくれや」

 片方のジャージを着た少年、トウジがもう片方の眼鏡の少年、 ケンスケに文句を言う。

「おお〜っ!凄いっ!凄すぎるよ、これはっ!!」

 ケンスケが悠然と第三新東京市内を進むイカのような使徒にカメラを向ける。

 二人はシェルターを抜け出して戦闘を観戦しに来ていた。

ブーーー、ブーーー!!

 街中に警報が鳴り響き、地面の射出口が開いた。 そして紫色のロボットが現れる。

「シンジのロボットや!シンジッ!そないなイカ、 この間みたいに一発でのしたれぇ!」

 

 

 

ガコンッ

「フィールド展開っ!」

 僕は地上に上がり、ATフィールドを展開する。

「目標をセンターに入れてスイッチ!」

ガガガガガガガガガガガッ

 そしてパレットガンを使徒に向け、フルオート連射した。 弾はATフィールドを中和した使徒に全弾命中した。 しかし………相手に傷一つ負わせられない。

(しまった!煙で見えない!?)

 しかも着弾した時の爆煙で使徒は完全に隠れてしまう。

シュピッ!

 いきなり、煙の中から光の触手が伸びてくる。

「くっ!」

バキィ!

 とっさにパレットガンを盾にして防ぎ、後方へ飛ぶ。 盾にしたパレットガンはまっぷたつになってしまった。

(壊れた!だけど、この銃はどっちにしても効いていない………!)

「シンジ君!新しいパレットガンを55番の装甲ビルに出すわ!受け取って!」

「ミサトさん!でも効いてませんよ!?」

「少なくとも、時間稼ぎにはなるわ!」

「じ、時間稼ぎって………、分かりました」

 近くの装甲ビルから出てきたパレットガンを取り、距離をとりながら撃つ。

ガガガガガッ

 今度は煙で見えなくならない様に短く撃った。 が、やはり、効いている様子は無い。

(ん………?)

「ミサトさん。こいつ、使徒ですよね?」

「シンジ君、何を言っているの!?」

「いえ、何でも無いです」

 僕はある事に気付いていた。

(サキエルにあった『威圧感』が無い!?)

 この使徒には前の使徒、つまりサキエルにあった 強い『意思』のようなものがまったく感じられなかった。

(どういう事だ………?)

「………うわっ!?」

 僕が少し悩んでいて動きが鈍ったスキに触手が初号機の足をつかんだ。

「し、しまっ、うわあああああああああっ!!」

 初号機は大きく投げ飛ばされた。

 

 

 

>山のふもと

 使徒に投げられた初号機の背中がどんどん大きくなる。

「お、おい、こっちに向かって………。わああああああっ!!」

「ぎゃああああああ!!」

 

 

 

>シンジ

ズドーーーンッ!!

 初号機は山の中腹に叩きつけられた。

「いてててて………」

『初号機の被害状況は!?』

『損害軽微!いけます!』

(くっ、勝手なこと言ってるよな………)

ブーーー、ブーーー!

 僕が思わず心の中で毒づいているとアラームが鳴る。

(一体なんだ?)

 僕が周りを見まわすと、初号機の指の間に 二人の少年が頭を抱えてうずくまっていた。

「ト、トウジ!?」

 

 

 

>NERV本部発令所

「シンジ君のクラスメイト!?なんでこんな所に……!」

 ミサトが苦い顔で叫ぶ。

「仕方ない………!シンジ君!二人をエントリープラグに乗せて!」

「許可の無い人間をエントリープラグに乗せるなんて………」

「私が許可します」

 リツコの反論にきっぱりと言うミサト。

「越権行為よ、葛城一尉!」

 なおも食い下がるリツコを無視するミサト。

 そんな光景を見ながらミユウは、

(シンジ君がピンチなのにケンカなんてしてないでよっ!! それにしても、あの鈴原って奴〜! サキちゃんを泣かせたばかりか、こんな時まで邪魔して〜〜!!(怒))

 静かに憤慨していた。

 隣にいるレイもミサトとリツコを見る目がいつも以上に冷たい。

「おにいちゃん………」

 サキは心配そうに呟いた。

 

 

 

>シンジ

『シンジ君!二人をエントリープラグに乗せて!』

 ミサトさんの指示が聞こえてくる。

 トウジたちは今にも泣きそうな顔をして初号機を見上げている。

 トウジの顔を見た瞬間、サキの泣き顔を思い出す。

(…………見捨てようかな)

 一瞬そんな事を思ったが、さすがにそれはまずい。

ガコン、バシュ!

 エントリープラグをだして外部スピーカーのスイッチを入れる。

「二人とも、早く乗って!!」

 二人はなんとかよじ登ってくる。

ヒュンッ、バシッ、ジュウウウウ

「ぐううっ!!」

 使徒が振ってきた触手を手でなんとか掴む。が、初号機の手のひらが 溶けていく。それにともない、痛みがフィードバックされる。

ジャボン、ジャボン

「ぐっ!?」

 二人が入ってきたと同時にとてつもない異物感を感じた。

『神経系統に異常発生!シンクロ率42,6%に低下!』

『異物を二つもプラグに入れたからだわ!』

ガッ

 吐き気を堪え、使徒の腹(?)に蹴りをいれて何とか立ち上がる。

『シンジ君!後退して!!』

 しかし、シンクロ率が低くなり動きの鈍った今、逃げられそうにも無い。

ジャキンッ

『しょ、初号機、プログレッシブナイフを装備しました』

『後退しなさいっ!!』

「お、おい、碇。後退しろっていってるぞ」

 僕の後ろで眼鏡をかけた男子(多分、クラスメイト)がそう言ってくる。

「黙って!気が散る!!」

 僕は文句を言うと初号機を使徒に一直線に走らせた。

『シンちゃん!?』

「うわああああああっ!!」

 使徒が光の触手を伸ばしてくる。

 その時だった。

ドクンッ!

 まるで、体中の血が一斉に跳ねたような感覚が起こる。

 異物感が突然消え、意識が研ぎ澄まされていく。 伸びてくる触手がはっきりと見える。

ザンッ!

 触手をナイフで二本同時に切り払う。触手は途中から切れ飛ぶ。

 そして無防備になった使徒のコアにナイフを叩き込む。

ギイイイイイインッ!

 一瞬でナイフはコアにめり込んだ。

ズズウウンッ!

 使徒は倒れ動かなくなった。

「お、終わった?………うぐっ!」

 終わったと思った瞬間、異物感が前にもましてひどく現れ、 僕の意識は遠くなっていった……。

「おい、シンジ!?しっかりせえ!」

 

 

 

>ミユウ

「「「「「「「「わああ〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」

 発令所にいた人達が使徒を倒した瞬間、歓声を上げた。

(シンジ君はあんなに戦闘中困ってたのに、 ミサトさん達は的外れな指示をして、さらにケンカなんかして!)

 私はさっきの事で頭に血が上り、ミサトさんの所に向かう。

たったったったったっ

「ミサトさ……」

 私が文句いいかけた瞬間、私より先に誰かが ミサトさんとリツコさんの前に出た。

パン!パン!

「なっ!?」

 それはサキちゃんだった。サキちゃんは、二人の頬を おもいっきりひっぱたいた。

「早く、おにいちゃんを回収して!!」

「サ、サキちゃん、一体何を!!」

 ミサトさんがサキちゃんを怒鳴りつけながら睨みつける。

「シンジ君がどうし………」

 私達が視線を初号機のエントリープラグの中のモニターの映像に移すと、 そこには気絶したシンジ君がLCLに漂っていた。

 

 

 


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