前だけを…

 

第2,5話   ショッピングへ行こう


 

>黒髪の女の子

トコトコ

(ここ、だよね)

 ボクは702って書いてあるドアの前に立っていた。

(最初はだいいちいんしょーを大事にしないといけないんだよね……確か)

 ドアの横にあるスイッチを押す。

ピンポーン

がちゃ

 顔を少し引きつらせた男の子が出てきた。

(この人だ………。うん、間違いない)

 出来るだけ大きな声で挨拶する事にした。

「初めまして、おとうさん!」

 

 

 

>シンジ

「……………」

「……………」

「……………」

 場が沈黙に包まれている。

「あなたは碇君の娘なの?」

 僕の後ろから綾波が沈黙をあっさり破る。

「うん!」

 女の子は嬉しそうにうなずいた。

「そう………」

「ちょ、ちょっと待ったぁっ!!」

 やっと我に返り、僕は叫んだ。

「一体、君は誰?僕はこの歳で娘を持った覚えなんてないよっ!?」

「え?」

「イタズラか何か知らないけど、何のつもり?」

「ほんとだよ……」

「家の人が心配してるよ。もう帰ったほうがいいよ」

「ほ、ほんとなのに………」

 女の子はそう呟くと、目がどんどん潤んでいく。

(ま、まずい……。泣く!?)

「ほんとだもん。イタズラじゃないよ、おとうさん……。………う、うえ〜んっ!!」

 泣いた。それも滅茶苦茶大声で。

「あ、あの、君?」

「ほんとなのに〜!!!!嘘じゃないのに〜!!!!うえええええええええん!!」

「…………泣かした」

 後ろで呟いた綾波の一言がぐさっとくる。

「ご、ごめん。僕が悪かったから泣かないで」

「うう、うぐっ、ぐすっ……………ボクの話……聞いてくれる?」

「う、うん。とりあえず中に入って」

 ………この状況ではNOとなど言えるはずが無かった。

 

 

 

 今、僕たちはリビングのソファーに座って向かい合っている。

 隣に座っているミユウがさっきから僕を物凄い目で睨んでいる。 これを殺意のこもった視線というのだろうか?

 逆隣に座っている綾波も僕をじっと見てくる。無表情なんだけど、何故か綾波も怒っているような気がした。

(どうして二人ともそんなに睨むんだよ………。僕は何もしてないのに)

 そして、テーブルを挟み向かいに座っている女の子。

「…………ねえ、君?」

「何?おとうさん♪」

 僕が声をかけると嬉しそうに(というか顔いっぱいで嬉しいという感情を表現して) 返事をする。

(お願いだからそれを言わないで………)

 女の子が『おとうさん』と言うのと同時に左右からの重圧がさらに増す。

 なんとかそれを耐え、さっきから疑問に思っていた事を聞くことにする。

「あの…………なんで、男子の学生服を着てるの?」

 女の子は何故かワイシャツに黒いズボン、つまり男子学生服を着ていた。 おまけにサイズが合っていないらしく、シャツもズボンも裾がかなり余っていた。

「これ、おとうさんの服を真似したんだけど……なんか変?」

「いや、変ではないけど………、って僕の服を真似した!?」

 確かに、今僕が着ている学生服と同じデザインだ。それに僕の学生服をこの子が 着たらこんなふうにサイズが大きいだろう。

「…………」

 僕が混乱して黙っていると、隣に居るミユウが口を開いた。

「あなた、名前は?」

「名前?う〜んと、さきえるって呼ばれてたけど」

「さきえる?………………………サ、サキエル!?」

 その名前を聞いて怪訝そうにしていたミユウが、いきなり顔色を変えて叫ぶ。

「どうしたの、ミユウ?」

「だ、だってシンジ君!!サキエルだよ!?」

「………そんなに変わった名前でもないと思うけど」

「そうじゃなくって〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!使徒の名前教えたでしょっ!!!」

「え、ああ。けどみんな何か似たような名前で覚えきれなかったから。 ………それがどうかしたの?」

「第三使徒の名前!サキエルだったでしょ!!」

「だ、第三使徒!?それって、僕が昨日倒した!?」

 やっとミユウの言いたい事が分かり、僕は女の子を凝視する。

「…………あなた、使徒?」

 ずっと黙っていた綾波がそう女の子に聞く。

「昨日までそうだったけど、今は違うよ」

「…………どういうこと?」

「え〜とね、昨日おとうさんがボクのコアに触ったでしょ?」

 女の子が僕のほうを向いて言う。

「う、うん」

「その時におとうさんが助けてくれたんだ」

「え!?」

 その言葉を聞いてミユウが僕の目を見つめる。

ぶんぶんっ

 僕はその視線の意味に気付いて首を横に振る。

「それで………ボクをおとうさんがリリンにしてくれたんだ」

(………リリンって確か、人間の事だったよな)

「つまり、あの時僕があの赤い玉を触った影響で君が人間になったって事?」

「うん!」

「………こんな事聞いてないよ、ミユウ」

「わ、私もそんな事知らない」

「おとうさん、これで信じてくれた?」

「………………いや、ちょっと」

 僕がそう言うと女の子はまたみるみるうちに目が潤んでいく。

「うっ…………そうだ!何かそれを証明できる物ない?」

「そんな事言われても………、わかんない」

「…………ATフィールドは?」

 綾波がポツリと呟く。

「えーてぃーふぃーるど?」

「ほら、あの赤い壁だよ」

「………ボク、リリンになったんだよ。できないもん」

 そういって女の子は俯く。

「えと、サキエルだっけ?」

 俯いている女の子、『サキエル』の名前を僕は呼んだ。

「………おとうさん?」

「信じるよ、サキエルの事」

「シンジ君!?どうして!?」

 ミユウが信じられないという顔で僕を見る。

「だって、こんな女の子がこんなにいろんな事知ってるんだよ。 それだけで十分な証拠だよ」

「あ………そういえばそうね」

「信じてくれたの?おとうさん」

 サキエルが恐る恐ると言った感じで聞いてくる。

「信じるよ」

「よかった。ありがとう、おとうさん♪」

「それで…………なんで、おとうさんなの?」

「え?」

「今の話を聞いたっておとうさんってことにはならないと思うんだけど」

「だって、いまのボクの体、おとうさんの『いでんし』ってやつを元に創られてるんだもん。 リリンって『いでんしてーきょーしゃ』がおとうさんになるんだよねっ!」

「それは…………確かにそうなるのかな」

「ほら、やっぱりおとうさんだ♪」

(『おとうさん』はそういう訳か………。ん?そういえば………)

「サキエル…………君、元使徒なんだよね?」

「うん!」

「それで今は人間なんだよね?」

「うん!」

 僕の確認の質問の一つ一つに、元気良くうなずくサキエル。

「じゃあ、これからどうするの?」

「え…………どういう意味?」

「人間になってこれからどうしたいの?」

「おとうさんと一緒にずっと居たい。…………もしかして、おとうさん、嫌?」

 サキエルが泣きそうな顔をして、こちらを見つめてくる。

(はあ、やっぱりこうなったか………)

 もちろん、断れるはずがない。

「嫌じゃないよ。一緒に居たいならここで一緒に暮らそう」

「本当!?おとうさん、ありがとう!!」

 そう言うとサキエルはテーブルを乗り越えて僕に抱きついてきた。

ぎゅっ、すりすり

「おと〜さ〜ん♪」

 さらに顔までこすりつけてくる。

「ああっ!?」

 ミユウがその光景を見て驚愕の声を上げる。

(む、胸が………)

 サキエルのあまり大きいとは言えない胸が僕の胸板にあたってくる。

 おまけに僕の服を真似しただけなのでワイシャツだけで下着を着けていない。

「シンジ君!!!!!!(怒)」

「ミ、ミユウ!ちょ、ちょっとタンマッ!!」

「シンジ君のバカァァァッ!!!」

どごすっ!!

 ミユウの放ったかかと落としが脳天に入り、僕の意識は闇に包まれた。

 

 

 

「うっ…………朝………?」

 目が覚めるとカーテンの向こうから日の光が漏れている。

ずきずきっ

 頭が痛い。それに体も重い。

「はあ………、ミユウ怒ってるかな」

 僕は体を起こそうとした。

(あれ?おかしいな体が動かない………。腕も持ちあがらない。……っ!!)

 自分の腕に視線を向けるとそこにはがっちりと腕を抱きかかえてミユウが眠っていた。

「な、何で!?」

 冷静になって自分の体を良く見てみると、正面に僕の胴体に腕を回し熟睡しているサキエル。

 ミユウとは逆の腕に綾波がしがみ付いていた。

(う、動けないはずだよ………。それにしても……)

 体に3人の柔らかい感触と暖かい体温、そして女の子特有のいい香りを感じる。

(き、気持ち良い………………、はっ!そうじゃない!!はやくこの状態から抜け出さなくちゃ!)

 なんとか頭を振って(頭しか振れない)、欲望を振り払う。

(とは言ってもどうやったらいいんだ?)

 途方にくれていると、ミユウが目をうっすらと開けた。

「ミ、ミユウ!こ、これはその……」

 僕が慌てて弁解をしようとするとミユウはにっこりと笑って、

「シンジ君……」

 そう呟くと腕をさらに締め付け、再び目を閉じた。

「ね、寝ないでよ!!ミユウ!!」

 結局、3人が目を覚ます三十分後までこの態勢でいることになった。

 

 

 

>ミユウ

「どう………サキエル、綾波、美味しい?」

「うん!」

「ええ」

 現在、朝食を私達は取っていた。

(シンジ君………ホントに料理上手よね)

 サキエルと綾波さんはお味噌汁をすすっている。

「あのさ、ミユウ。まだ、怒ってる?」

「しょうがない、許してあげる」

 そう言って私は焼き魚を食べる。

「ん、おいし♪」

(シンジ君、ズルイ。こんなおいしいの食べさせられたら怒りを持続させられないよ〜)

 シンジ君はやっと安心したようで自分も食べ始める。

「おとうさん、『食べる』っていいね♪」

「うん………。サキエル、おとうさんって呼び方やめてくれない?」

「え…………?おとうさん、ボクの事嫌いなの?」

 また、サキエルは涙ぐむ。ずるい、シンジ君はそんな事されたら逆らえない。

(私も今度やってみよ〜っと♪)

「い、いや嫌いなんじゃなくて、違う呼びかたしてくれないかな〜って」

「違う………呼び方?」

「そうそう」

「じゃあ…………パパ!」

「い、いっしょだよ!」

 シンジ君が思わず叫ぶ。

「ん〜、じゃあ、おにいちゃん」

「お、おにいちゃん!?………まあ、おとうさんよりはましか。サキエル、そういえばそういう知識何処で覚えたの?」

「おにいちゃんから覚えたんだよ」

「僕から?」

「うん、昨日リリンになった時に」

「僕の記憶を知ってるの?」

「ううん、ちがうよ。こーゆうのだけだよ」

「………いまいち、よくわかんないや」

 シンジ君は複雑な顔をしている。

「ねえ、おにいちゃん。ボクの呼び方も変えてよ。」

「え?」

「だって〜、サキエルって名前なんか変なんだもん。ボク、『にほんじん』だもん」

「………………日本人なの?」

 横から綾波さんが突っ込みをいれる。しかし、サキエルは気にしていない様子。

「………それじゃあ、サキでいいんじゃないかな」

「サキ?」

「嫌なら変えるけど」

「ううん、それでいい。じゃあ、今日からボクは碇サキだよ〜♪」

「ちょ、ちょっと!碇って……!!」

 聞き捨てならない事をさらっと言ったサキエル、もといサキに私は思わず声を上げる。

「だって、ボク、おにいちゃんの娘だも〜ん♪」

「だからって……」

「いいよね、おにいちゃん♪」

「え!?」

「駄目なの?」

「え、あ、いいよ」

 押しに弱いシンジ君はあっさり押しきられた。

(シンジ君のバカ………)

「そうだ、綾波」

「何?」

「サキのことだけど………父さんに黙っててくれないかな?」

「どうして?」

「サキの事を父さん………いや、ネルフが知ったら実験材料にされちゃうよ」

「………もう、遅いわ」

「え?」

「この部屋には監視カメラや盗聴機が仕掛けられているもの。もう、碇司令は知っているはず………」

「ああ、それなら大丈夫だよ。おとといの内に『掃除』は済ませといたから。ね、ミユウ」

「うん、いっぱい出てきたよ」

「…………素人では全てを見つけられないわ」

 綾波さんが少しだけ表情を変える。

「大丈夫。私、素人じゃないし」

「まあ、そう言うわけだから。綾波黙っていてくれる?」

「……………………それは命令?」

「命令じゃないよ。僕からの『頼み』だよ」

「………分かったわ、黙ってる」

「ありがとう………、綾波」

 

 

 

>レイ

 何故なの?

 何故私は碇君の頼みを了解してしまったの?

 碇司令を裏切ることになるのに。

 分からない。

 

 

 

>シンジ

「それじゃあ、買い物行かなくちゃね。3人の服買ってこないと……」

「シンジ君。お金足りる?」

「う、ちょっと厳しいかも」

 貯金の残高は185,341円。ミユウだけだったらまだしも、 3人になるとかなり辛い。日用品もあるし。

「碇君。」

「え、何?綾波?」

「パイロットには給料が支払われているわ」

「そうなの?」

「ええ。IDカードがキャッシュカードとして使えるはずよ」

「それだったら何とかなるかな……」

「ねえ、おにいちゃん。服買ってくれるの?」

「そのつもりだよ」

「わーい♪ありがと!」

「それじゃあ、近くにデパートがあったはずだからそこに行こうか」

 

 

 

 まあ、予想するのは無理だった。こういう展開になるのを。

「おにいちゃ〜ん、似合う?」

 今、サキが試着している服は白のワンピースだ。

「う、うん。似合ってるよ」

「うん。それじゃ、これに決めた〜っと」

 サキはそう言うと試着室に引っ込んだ。実はさっきからこの調子で、 次から次へと試着している。ちなみにこのワンピースで5着目だ。

 サキは僕のことをおにいちゃんと呼ぶからきっと周りには兄妹と思われるだろう。 だから問題ない。しかし………。

「シンジ君、これどうかな?」

 ミユウが白いキャミソールに赤いミニスカートという格好で試着室から出てきた。

「良いんじゃないかな」

「よし、けってー♪」

 そして次の服を持って試着室に入っていく。これでミユウは七着目だ。 こうやっていると恋人に見えるのだろうか?少し、いや、かなり恥ずかしい。

 シャツの裾をくいくいと引っ張られる。

「碇君………これでいいの?」

「あ、綾波。それは試着しない方が………」

 振り向くと綾波が立っていた。綾波の格好は………パジャマだった。

「そう、ダメなのね………」

「いや、ダメって訳じゃないけど。それは寝る時に着るものなんだよ」

「そう」

 綾波は試着室に戻って行った。多分、気に入ったので買うのだろう。今の水色のパジャマで四着目だ。

 この数時間で綾波の表情が少しだけ分かってきた。綾波は何も感じていないわけではない。 表情に出ないだけだ。

 ここのデパートの女性洋服売り場では3つしか試着室はない。

 つまり、この3人で占領しているのだ。

「はあ………」

 僕はため息をついた。

 別にかれこれ二時間以上もここで突っ立っていて疲れたとかそんなことが原因ではない。

 ………少しはあるけど。

 一番の理由は周りが僕に注目していることだ。注目しているだけならまだ良いが、 はっきり言って周りの男性の視線に殺気がこもっている。

 3人の美少女とこんな事をしているのが原因だろう、きっと。

(綾波までこんなことするなんて思わなかったな………。きっと、ミユウとサキの真似したんだろうけど)

「おにいちゃ〜ん!」

(お金、足りるかな………)

 サキの僕を呼ぶ声を聞きながらそんな事を心配した。

 

 

 

 結局、合計29着(ミユウ 10着、サキ 10着 綾波 9着)も買うことになった。

 値段の合計は31万とんで512円。

(本気で足りるかな…………。いくらカードに入ってるか確かめるべきだったな)

 そんな後悔をしながらレジの人にIDカードを渡す。

ピッ

「………………」

「………………」

 IDカードをレジに通し、カードの中の金額を見てレジの人と一緒に絶句してしまった。

『10,000,000』

(一千万?)

 頭の中でその数字を反復する。

「その………一回でよろしいでしょうか?」

「はい、それで良いです………」

 頭の中をしびれさせたままなんとか答える。

「これだけの量ですとお持ち帰りになるのも大変でしょうから、ご自宅にお送りしましょうか?」

「ええと、そうしてください」

 

 

 

「シンジ君、どうしたの?」

「………いや、何でもないよ」

「そう?じゃあ、私達別行動するから、シンジ君買いたい物があるなら買ってきなよ」

「別行動?」

「そ。私達3人だけで買いたいものがあるから」

「え〜!ボク、おにいちゃんと一緒に居たいよ」

「良いから来るの!」

 そう言うとミユウはサキと綾波を引きずって行く。

「あ、ミユウ。財布!」

 僕はミユウに財布を投げ渡した。

「十万ちょっと入ってるけど足りるよね?」

「うん、十分。ありがと。じゃ、2時間後にこの場所でね〜!」

 そういうとミユウ(と引きずられてサキと綾波)は去って行った。

「………なんだろう?買いたい物って。まあ、いいか」

 僕はまず石鹸やシャンプーなどを見に行くことにした。

 

 

 

>ミユウ

 私達が来たのは女性下着売り場だ。

「こればっかりはシンジ君に見せて選んでもらうわけにはいかないからね……」

「ねー、ミユ。なんでおにいちゃんと別行動なの?」

「下着は男の人に見せちゃいけないの。………あと、私の名前はミユウ!」

「いいじゃん、ミユで。ねー、アヤ」

「…………アヤって私の事?」

 サキちゃんのセリフに、綾波さんがそう聞く。

「うん!」

「私のミユはまだしも、アヤはちょっと……せめて、下の名前で呼んだら? サキちゃん」

「下の名前って?」

「………レイ」

「レイっていうんだ〜。じゃあ、アヤナミレイっていうの?」

「そう」

「じゃあ、レイって呼んでいい?」

「ええ」

「ありがとう、レイ♪」

「何で、私のときは了解を取らないの?」

「いいじゃん」

「ひどーいっ!…………あの、綾波さん、私もレイって呼んでも良いかな?」

「………ええ」

「ありがとう………って何で私のときは間があるの?」

「いいじゃん」

「サキちゃーん!」

「いたひっ!ひゆ、ほっへひっはらなひへ! (痛いっ!ミユ、ホッペ引っ張らないで!)」

 

 

 

>レイ

 暖かい。

 これは楽しいという感情なのだろうか?

 私は生まれてそれを初めて感じている。

 この二人を見ていると暖かい。

 この二人と会話すると暖かい。

 この二人にレイと呼ばれると暖かい。

 そして、さっき、碇君に服を見てもらった。

『似合うと思うよ』

 そう碇君は言った。

 その時、暖かいを通り越して頬が熱かった。

 これが楽しいという事なのだろうか?

 

 

 

>ミユウ

 二人ともブラのサイズが分からなかった。

 だから今、店員さんに測ってもらっている。

「え〜と、75,3ですね」

(よし、サキちゃんには勝った!………まあ、身長も違うし当たり前か)

 私と碇君、それに綾波さん……じゃなかったレイは同じぐらいの身長だけど、 サキちゃんは大体、頭一つ分くらい小さい。

(けど、それにしては大きいような……。はっ、それよりレイね。 多分私と同じくらいだと思うんだけど)

 実は胸がちょっとだけ(本当にちょっとだけ!)小さいのが目下の悩みだった。 なので、どうしても他の人のサイズが気になる。

「こちらのお嬢さんは……80,5……ですね」

がーんっ

(わ、私より、1センチも大きい………)

「ミユ?」

「…………………」

「ミユ?ねえ、どうしたの?」

「………人には個人差って物があるんだからっ!!」

 私の虚しい負け惜しみの叫び声がデパートに響き渡った。

 

 

 

>シンジ

 デパートからの帰り道。

「サキ」

「おにいちゃん、何?」

「ミユウ、どうかしたの?ふらふらしてるけど」

「………こじんさがどうって叫んでたけど」

「個人差?…………何それ?」

「さあ?」

 

 

 


<BACK> <INDEX> <NEXT>




アクセス解析 SEO/SEO対策