前だけを…

 

第弐話   知らない天井


 

>ミユウ

 今、私とシンジ君は司令室に来ている。シンジ君のお父さんは肘をついて顔の前で 手を組むポーズをさっきから崩さない。

「何だ………シンジ……」

「出撃前に言った『頼み』のことだよ」

 シンジ君もまるで別人のように平然と目の前に立っている。

「……言ってみろ」

「聞いて欲しい事は5つ。

1つ、ネルフ外のマンションの一室に僕を住まわせる事。

2つ、今、僕の隣に女の子……如月ミユウの戸籍を捏造する事。

3つ、さらにミユウにネルフ内を自由に行動する権利与えること。 もちろん、使徒との戦闘中なんかに発令所にいてもいいようにしてね。

4つ、僕達二人に、質問、尋問等に対する拒否権を認めること」

「………何故、その必要がある?」

「……その質問に答える義務はないよ、父さん」

 重い沈黙、だけどその沈黙を破ったのは碇君のお父さん……碇司令の一言だった。

「……よかろう」

「ありがと。じゃあ、最後にもう1つ……、ネルフにもう一人パイロットがいるでしょ? 彼女との同居」

「!?」

 今まで表情1つ変えなかった碇司令だけど、最後の要求には驚愕の表情を見せる。

「その必要は無い。認められん」

「そう、それじゃあパイロットにはなれないよ。じゃあね」

 きびすを返して、さっさと司令室から出て行こうとするシンジ君。

「待つんだシンジ君!」

 声をかけたのは碇司令ではなく、その隣に立っていた白髪の老人。確か……冬月副司令とかいったっけ。

「なんですか?」

足を止めるシンジ君。

「最初の4つはまだいいだろう、しかし、最後のは何故だね?」

「決まってるでしょう、パイロットになったら一緒に闘うんです。 何も知らない相手に命を預けるなんてまっぴらごめんです」

 平然と言うシンジ君。冬月副指令は顔をしかめ、

「しかしだな………もう一人のパイロットというのは君と同い年の女の子だ。 男女が二人暮し、まずいのは分かるだろう?」

「大丈夫です。ミユウも一緒にそこで暮らしますから。僕と彼女は恋人なので、 もう一人のパイロットと間違いが起きる可能性はありませんよ。……それでも 心配なら、僕に与えるマンションの一室をネルフ職員の誰かの隣の部屋にでもすれば良いんですよ」

「う、うむ」

 反論する余地が無くなったのか押し黙る冬月副司令。

(それにしても……恋人……、はあ、これが説得のための方便じゃなかったらなあ)

 そんな事を思う私。なんか、私、ぼーっと立ってるだけだし。もしかしなくても役立たず。

「じゃあ、こっちの要求は全部呑んでくれるんだね」

「………」

 シンジ君の言葉に黙っている碇司令と冬月副指令。

「頼んだよ、父さん」

そう言って、今度こそ私達は出ていった……。

 

 

 

>司令室

「碇………どうする気だ」

「問題無い……。レイはこちらが完全に掌握している」

「(碇……、レイにこだわりすぎだな)」

 

 

 

>ミユウ

「シンちゃ〜ん!」

 ミサトさんがこちらに手を振りながら近づいてくる。

「ミサトさん、シンちゃんってなんですか?」

 返事をするシンジ君は、結構嫌そうな表情。

「いいじゃない、かわいいでしょ」

「かわいいって……」

 ミサトさんの言葉に苦笑するシンジ君。

「まあ、良いですけど……。あ、ミサトさん、ネルフにもう一人パイロットいますよね?」

「ええ。シンちゃん、碇司令から聞いたの?」

「そうです。………彼女の居る所に案内してもらえませんか?」

「挨拶?」

「はい。これから一緒に住むことになってますし」

「そうなの。……………って、えええええええっ!?」

 さらっと言ったシンジ君の言葉にいきなり叫ぶミサトさん。

(そういう反応よね、普通は………)

「い、一緒に住むぅ〜〜!?」

「はい」

「どうして!?」

「父さんがそうしろって言うんで」

「………碇司令が?」

 急に顔を強張らせるミサトさん。

「何故そうなったの?」

「さあ?説明はしてくれませんでした。父さんの考えてる事、よく分からないですし」

「そう………」

「それより、案内してもらえませんか?」

「え、ええ。いいわよ。着いて来なさい」

 ミサトさんはさっさと歩き出した。

 私達も小走りで着いて行く。

(それにしても………)

 私は小さな声でシンジ君に声をかけた。

「シンジ君……」

「何、ミユウ?」

 シンジ君も合わせて声の音量を下げる。

「さっきの司令室でのやりとりの時といい、今のミサトさんとの会話の時といい、 何でそんなに冷静でいられるの?」

 そう。さっきからの疑問はこれだ。 いくら、前もって考えていた事とはいえシンジ君は冷静過ぎだ。

(あまり気の強くないシンジ君があんな平然と駆け引きをするなんて……)

 思わず、結構失礼な事を考えてしまう。

「………」

 何故か、顔を赤くするシンジ君。

「その………ミユウがいたからだよ」

「え?」

 今度は私が顔を赤くする番だった。

「ミユウがいるとなんだか冷静でいられるんだ。僕も不思議だったけど」

「そ、そう………」

「………」

「………」

 私達は顔を真っ赤にして、ミサトさんが立ち止まるまで一言も話さなかった。

 

 

 

>レイ

 目を開く。

 白い天井。

 知っている天井。

 病院の天井。

「………………」

 だけど、意味の無い情報。

 知っていても知らないのと何も変わらない。

 私にとって意味のある物は碇司令……。

 碇司令は使徒を倒せと言う。

 だから、私はエヴァに乗って使徒を倒す。

 そのために………造られたから。

「…………………」

こんこん。

「レイ〜?入るわよ」

 ………意味の無い音声。

 

 

 

>ミユウ

 私達は病院と思わしき中を歩いていた。

「ミサトさん」

 隣を歩いているシンジ君が先頭を行くミサトさんを呼ぶ。

「な〜に?シンちゃん?」

「もう一人のパイロットの人………もしかして、怪我してるんですか?」

「ん、ちょっちね。2週間前にやった零号機の起動実験に失敗しちゃってね」

「そうだったんですか………」

「あ、怪我って言ってもたいした事無いのよ。あと、2,3日で退院できるらしいし」

 ミサトさんはシンジ君が声のトーンを落としたのを聞いて、慌ててそう付け足す。

 きっと、怖がってパイロットをやめると言い出さないようにフォローを居れたのだろう。

(この人も………シンジ君のお父さんといっしょでパイロットのシンジ君しか必要としていない)

 急にミサトさんが1つの病室の前で足を止めた。

 病室のプレートには、『綾波 レイ』と書かれている。

「ここがそうよ」

(綾波レイさんっていうのか……。仲良くなれるかな……)

こんこん

「レイ〜?入るわよ」

 ミサトさんはノックしてそう言うとドアを開けた。

 

 

 

>レイ

がちゃ

 ドアを開けて葛城一尉が入ってくる。

 興味が無いので目を閉じる。

 使徒は何時来るか分からない。今は体を休息させておくべきだ。

 しかし、葛城一尉は喋りかけてくる。

「レイ。今日は新しいお仲間を連れてきたわよ。」

(……お仲間?)

 少し興味を覚え目を開ける。

 葛城一尉の横に男の子と女の子が一人づつ立っている。

「初号機パイロットのサードチルドレン碇シンジ君とその友達の如月ミユウちゃん」

「碇…?」

「碇司令の息子さんよ」

「そう……」

 碇司令の息子……。

 私より碇司令と確かな絆を持つ人……。

「シンちゃん。この子が零号機パイロット、ファーストチルドレンの綾波レイ」

「よろしく、綾波」

「………」

 目を閉じる。

 見たくは無かったから。

「もう、レイってば。その態度は無いんじゃないの?」

「ミサトさん……、ちょっと外して貰えませんか?」

「え?」

「お願いします」

「…………わかったわ。けど、まだ怪我人なんだから手短にね」

「すみません」

きぃ、ばたん。

 ドアの閉まる音。

「綾波……」

「………何?」

 目を開けずに答える。

「退院したら僕達と一緒に暮らそう」

「?」

 何を言っているのか理解できず目を開けて男の子を見つめる。

「……何を言ってるの?」

「……仲良くなりたいと思って。それには一緒に暮らすのが一番だろ?」

 …………彼が何を言いたいのか理解できない。

「何故……仲良くする必要があるの?」

「僕が仲良くなりたいからだよ」

 分からない。

 何故、彼は仲良くなりたいの?

 何故、私と仲良くなりたいの?

「私がパイロットだから……?」

 やっと納得のいく答えが見つかる。

 私と仲良くなれば共同作戦がうまくいき、成功する確率が上がるから。

「違うよ」

 だけど彼はにっこり笑ってそれを否定する。

「僕はファーストチルドレンの君とじゃなくて、同い年の女の子の綾波レイさんと 仲良くなりたいいんだよ」

 ファーストチルドレンじゃなく、同い年の綾波レイを………?

「……どうして?私は何も無いのに」

「どうしてだと思う?」

「……分からない」

「可愛いからだよ」

(……………………え?)

「あんまり長く話して怪我を悪化させたらまずいから帰るね。  また明日も来るから。それじゃあね、綾波」

「まっ…」

ばたん

 私が言葉を発する前に、彼は(それと隣にいた女の子も)病室から出ていってしまった。

 …………。

 …………。

 沈黙に包まれた病室のベットの中で彼の言葉を思い返す。

『可愛いからだよ』

 頬が熱くなる。

「……何を言うのよ」

 私はポツリと呟いた。

 この時、私の頭の中に碇司令は居なかった。

 

 

 

>ミユウ

「シンジ君………」

「何、ミユウ?」

「口説きに来たの……?(怒)」

「へ?何が?」

 まったく分けがわかりません、といった顔でこちらを見てくるシンジ君。

(ほ、本気で分かってないの!?)

 この時ばっかりはシンジ君に怒りを通り越して殺意を覚えた。

 

 

 

>シンジ

「うわあああああああっ!!」

「いやあああああああっ!!」

 綾波の見舞いに行った後(何故かミユウが物凄く怖かった)、 僕達が住むマンションにミサトさんが 車で送ってくれる事になったんだけど……。

キイイイイイイイイイッ

「ミ、ミサトさん!タイヤ滑ってるよ〜〜〜〜〜!!」

 僕の隣の席でミユウが悲鳴を上げる。

(……そりゃそうだ、時速百ン十キロで曲がれば)

 恐怖に顔を引きつらせながら僕は思った。

「だ〜いじょうぶ!私のドライビングテクニックは凄いんだから」

「凄いなら安全運転してくださいぃぃぃっ!!」

「事故んないわよ。」

「そうじゃなくてぇ!!」

 二人の会話(?)を聞きながら僕の意識は遠のいて行った。

 

 

「とうちゃ〜く♪」

 目が覚めるともうマンションの前だった。

「シ、シンジ君………(泣)」

 ミユウは涙を浮かべて固まっている。気絶できなくて地獄を最後まで見たようだ。

 僕はミユウに肩を貸し、よろよろしながら(僕も後遺症が抜けてない)マンションのエレベーターに乗る。

チ〜ン

 エレベーターが七階で止まった。

「シンちゃんの家はココよん♪」

 ミサトさんが上機嫌で702号室を指差す。

「IDカードで鍵が開くから」

 言われた通りIDカードを使おうとした。

「ちょっと待って」

「え、何か?」

「今日は私の家で夕食食べない?これから何処かに食べに行くのは面倒でしょ」

(確かに何処かに行く気力は無いな……。それに朝から何も食べてないし、お腹空いたな)

「はい、そうします。……そういえば、ミサトさんの家ってここから近いんですか?」

「近いわよ、隣だし」

「はい?」

 隣の701号室を見ると葛城という表札がついている。

「じゃあ、部屋に荷物置いたら行きます」

「おいし〜、夕食を作ってるわ♪」

 ミサトさんはそう言って隣の部屋に入っていった。

ピッ、がちゃ

 鍵を開け、僕達は家に入っていく。

「シンジ君広いね♪」

 やっと普通に歩けるようになったミユウが部屋をきょろきょろと見まわす。

 確かに広い。普通のマンションとは比べ物にならない。

「私、この部屋使お〜っと♪」

「あ、ミユウ、ズルイよ!」

 

 

 

>ミユウ

 部屋決めでちょっと揉めたあと(結局私が押しきった)、ミサトさんの家のドアの前に立つ私達。

ピンポ〜ン

「入って良いわよ〜。ちょっち散らかってるけど気にしないで」

 チャイムを鳴らすとミサトさんの声が聞こえてきた。

がちゃ

 ドアを開けるとそこは………

 夢の島だった。

「うあ」

 思わず声が出る。

 廊下がゴミで埋め尽くされている。はっきり言って少し所ではない、 これ以上ないぐらい汚れている。

 ゴミを踏んづけながらなんとかリビングまで歩いていく。 が、やっぱりというかリビングもゴミで床が見えない。

 ビールの缶(えびちゅと書かれている)、カップラーメン、レトルト食品、 おつまみの袋(さきいか)etc………。

「……一体どう言う生活してるんだろ?」

 シンジ君が呆然として呟く。

「いらっしゃい、二人とも」

 振り向くと、にこにこと笑顔を浮かべたミサトさんがお鍋を持っている。

「今日のご飯はカレーよ♪」

「………カレー?」

 このゴミだらけの部屋を見た後ではミサトさんの料理の腕を疑ってしまう。

「あたしの得意料理よん♪ささ、席に着いて」

 私達を無理矢理椅子に座らせると、テーブルの上のゴミを手で払って床に落としてから、カレーを盛る。

「(匂いは正常ね、シンジ君)」

「(見た目も問題ないよ、ミユウ)」

 私とシンジ君はそう目と目で会話する。

「ん〜、おいし〜♪」

 ミサトさんはパクパクとおいしそうにカレーを食べ始める。

 私達は意を決すると恐る恐る同時にカレーを口に含んだ。

ぱくっ

「………」

「………」

 この日、何度目かの地獄を見る事になった。

 

 

 

>レイ

「…………碇君」

「何?綾波」

 碇君は言った通り、次の日も来た。

「何をしに来たの?」

 碇君は今日来てからただ椅子に座っている。

「綾波のお見舞いとお迎え」

「お見舞いと…………お迎え?」

「そう。今日、午後には退院出来るんだよね?」

「ええ」

「だから」

「………何故?」

 分からない。

 碇君の言うことは要領を得ない。

「何故……迎えに来るの?」

「一緒に住もうっていったでしょ?」

 ……………?

『退院したら僕達と暮らそう』

 そういえば、確かに言った。

「……………碇司令の許可がないわ」

 だけど、碇司令が許可を出すはずがない。

 これでこの話は終わるはずだった。

「もらったよ」

「………………何を?」

「だから、許可」

「!?」

 碇司令が許可を出した?

「それであの……綾波は迷惑だったかな?」

「…………」

 何と答えたら良いのか分からない。

 一緒に暮らす?

 碇君と?

 急に現実味を帯びてくる。

「………かまわないわ」

「本当?ありがとう!」

 思わず了解を出してしまった。だけど、碇君の笑顔を見ていると何故かそれで良かったという気になってくる。

「じゃあ、今日から僕達は家族だね」

「……家族?」

「そう。一緒に暮らすんだから、家族にならなくちゃ。僕とミユウ、そして綾波」

 家族?

 私、碇君と家族になるの?

「…………それは、絆?」

「そうだね。そう言っても良いと思うよ」

 絆。私が欲しかったもの。

 何故、あなたはそんなに簡単に私にくれるの?

『可愛いからだよ』

 昨日の言葉がリフレインされる。

ぼっ

 頬が熱い。

「綾波?」

「………何でも無いわ」

 新しい絆………。

 

 

 

>シンジ

 家族か。

 僕が一番欲しかったもの。

 ここでそれが叶うと思わなかったな。

 それに…………可愛い女の子二人だし……。

 ああ!!そんな事考えちゃダメだ!!

 

 

 

>レイ

 葛城一尉の車、無に一番近い所。

キイイイイイイイイッ

 ………気持ち悪い。

「綾波………大丈夫?」

「も、問題無いわ」

「ゴメン。電車で帰れば良かったね………」

「ええ………」

キイイイイイイイイイッ

ごつっ

「痛い」

 窓ガラスに頭をぶつけた。

 ふと、隣の碇君を見ると気絶していた。

 ズルイ。

 

 

 

>ミユウ

 不覚。

 カレーで寝こむはめになるなんて。

 私は自分のベットから身を起こした。

「うう、頭がずきずきするよぉ」

(そういえばシンジ君は?………ああ、そうか。綾波さんを迎えに行ったんだっけ)

がちゃ

 玄関からドアを開ける音が聞こえる。

(帰って来たのかな?)

 がんばって立ち上がりふらふらしながら玄関へ向かう。

「シンジ君、綾波さんおかえりなさい」

「…………」

 綾波さんは無表情でこちらを見返してくる。

「綾波さん、こう言う時はただいまって言うんだよ」

「………ただいま」

「「おかえり、綾波(さん)」」

 私とシンジくんの声が重なった。

 

 

「いただきま〜す♪」

「…………いただきます」

 シンジ君の作った野菜炒めに箸を伸ばす。

「おいしい!」

「ありがと、ミユウ。綾波は?」

「………おいしいわ」

 綾波さんも野菜炒めを食べている。しかし、肉を端に避けている。

「綾波さん、もしかしてお肉ダメなの?」

「ええ」

「じゃあ、次から綾波の食事は野菜や魚中心にするよ。野菜や魚は大丈夫だよね?」

こくん

 綾波さんはシンジ君の言葉にうなずく。

 それにしても綾波さんって表情に乏しいな。ほとんど、表情変えないし。

「シンジ君。こっちの冷奴もおいしいね」

「ちょっとしたコツがあるんだよ」

 

 

>レイ

 碇君と如月さん(確かそういう名前)との食事。

 暖かい。

 碇君の作った野菜炒め………。

もぐもぐ

 美味しい。

 

 

 

>シンジ

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

 僕がそう言うとミユウが顔を曇らせる。

「シンジ君。明日にでも服、買ってくれない?いつまでもシンジ君の服じゃちょっと……。パジャマも欲しいし」

 そういえば、ミユウは僕が貸したTシャツとジーンズを着ている。

「そうだね。日用品とかも買わなくちゃ行けないし。あ、そうだ、綾波。綾波の服とかも前に住んでた所から取って来なくちゃね」

「…………これしか、持ってない」

「え?」

「この服しか持ってない」

 この服しか持っていない?

「でもそれって、学校の制服よね?」

「ええ」

 ミユウの質問に答える綾波。

「何で?」

「必要ないから」

「じゃあ、寝る時は?」

「裸」

「ぶっ!」

 は、はだ、はだ、裸!?

「シンジ君?」

「は、はひっ!」

「変な事考えてないよね?」

 にっこりと笑いながらミユウ。声が笑ってないよ。

ぶんぶんっ

 顔を縦に勢い良く振る。

「そう。それならいい」

ピンポ〜ン

 チャイムがいきなり鳴った。

「こ、こんな時間に誰かな?」

 救いに舟とばかりに立ち上がり玄関へ急ぐ。

がちゃ

 ドアを開くと、そこにいたのは黒髪の小柄な女の子だった。黒髪が腰まで届いている。

 見た所、僕より二つか三つばかり年下のようだった。もちろん記憶にはない。

 予想もしていなかったお客に戸惑う僕。

「この子、誰?シンジ君の知り合い?」

 後ろからミユウが聞いてくる。

「違うよ。それに、第三に知り合いなんていないよ」

 女の子に視線を戻す。すると女の子は満面の笑みを浮かべて大きな声で言った。

「初めまして、おとうさん!」

 

 

 


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