前だけを…

 

第壱話   使徒襲来


 

>NERV本部発令所

「正体不明の物体、海面に姿を表しました!」

「物体を映像で確認!メインモニターに回します!」

「………15年ぶりだな」

「ああ…間違いない。使徒だ」

 

 

 

 

>シンジ

『緊急警報!緊急警報をお知らせします!本日12時30分東海地方を中心とした 関東中部全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに 指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします………』

「だめだ、つながらない」

 仕方なく僕は受話器を置く。

「ミユウ、だめだ、電話つながらないよ!」

 僕はベンチに座っている連れの女の子に叫ぶ。

「シンジ君。しょうがないから、ここで少し待とうよ」

 僕の連れの女の子、ミユウがそう返してくる。

「はあ、しょうがないな」

 僕もミユウの隣に腰を下ろす。

「迎えに来てくれる人………葛城ミサトさんだっけ?」

「うん。………でも、この人何考えてるんだろう?」

 ぼくは視線を下ろし、バッグから一枚の写真を取り出す。その写真には前かがみで ピースサインを恥ずかしげもなく出している一人の女性が映っており、 その女性自身が書いたであろう、胸の谷間へ矢印を書き、『ここに注目!』と書かれている。 それを裏返すと、待ち合わせの日時と、場所が書いてある。

「シンジ君……」

「何?ミユウ?」

「あんまり、その写真見ないで」

「え……なんで?」

 僕がそう言うと、ミユウは顔をあさっての方向に向けた。

「知らない!」

(何怒ってるんだろう?)

 僕とミユウがそんな会話をしていると、頭の上を何機も戦闘機が飛んで行く。 戦闘機の飛んで行く先を目で追っていくと巨大な物体が戦闘機から発射される 巡航ミサイルをもろともせず、こっちの方向に進んできている。

 僕は呆然と呟く。

「あれが………使徒?」

 

 

>NERV本部発令所

「ミサイル攻撃でも歯が立たんのか!?全弾直撃のはずだぞ!!」

「なんてやつだ!!」

 

 

 

>シンジ

「はあ、はあ、はあ、はあ、ミユウ、大丈夫?」

 僕はミユウの手を取って走っている。

「だ、大丈夫だけど。このままじゃ追いつかれちゃうよ」

「ん!?あれは………?」

 前方から青い車が物凄い速度でこちらに向ってきている。 どう考えても、制限速度も余裕でオーバーしている走りだ。

キキィーーー

 凄まじいブレーキ音を響かせて目の前で止まる。 運転席のドアが開き、そこから一人の女性が現れる。

「お待たせシンジ君!!早く乗って!!」

「葛城さんですか?」

「そうよ!早く!!」

「は、はい!」

 後部座席にミユウを押し込み、自分も乗りこむ。

「出すわよ!しっかり掴まってて!」

 車を走らせ、一息つくと葛城さんが僕に話しかけてきた。

「碇シンジ君よね?」

「は、はい」

「私、葛城ミサト。ヨロシクねシンジ君」

「は、はい。よろしくお願いします」

「それで………隣の女の子誰?」

 葛城さんがバックミラーでこちらを見ながら言ってくる。

「友達です」

「あの如月ミユウっていいます」

「ふ〜ん♪」

 葛城さんはすっごくニヤニヤしてる。

「恋人?(にやにや)」

「………違います」

「本当?(にやにや)」

「………本当です」

(こんな状況で一体何考えてるんだ?)

 僕は葛城さんの態度に呆れたが、気を取り直して聞く。

「それより、あれなんですか?」

「あれは………使徒よ」

「………そうですか」

「人類の敵よ」

(使徒………人類のもう一つの可能性……か……)

「シンジ君?どうしたの?」

 急に黙り込んだのを不思議に思ったのか、そんな事を言ってくる。

「いえ………何でもありません、葛城さん」

「そう?あ、それからミサトでいいわよ」

「わかりました、ミサトさん」

「ねえ、シンジ君!飛行機がみんな離れてくよ!」

 窓の外を見ていたミユウが叫ぶ。

「まさか、N2爆弾を使う気っ!?」

「「え、N2爆弾!?」」

 僕とミユウの叫びがはもる。

「二人とも伏せてっ!!」

「くっ!」

 とっさに僕はミユウを抱きしめて伏せる。それと同時に車は吹っ飛ばされた。

 

 

 

>NERV本部発令所

「見たかね!!これが我々のN2地雷の威力だよ! これで君の新兵器の出番はもう二度とないというわけだ!」

「電波障害のため目標確認まで今しばらくお待ち下さい」

「あの爆発だ、ケリはもうついている!!」

「爆心地にエネルギー反応!!」

「なんだと!!」

「映像回復しました!」

「なっ!?」

「我々の切り札が……。町をひとつ犠牲にしたんだぞ」

「なんてやつだ。化け物め!!」

プルルルルルッ、ガチャ

「……はっ、分かっております。……はいっ、失礼致します」

ピッ

「………碇君、本部から通達だよ。今から本作戦の指揮権は君に移った。 お手並みを拝見させてもらおう。我々国連軍の所有兵器が目標に対し無効で あったことは素直に認めよう。だが碇君!…君なら勝てるのかね」

「ご心配なく、そのためのネルフです」

 

 

 

>シンジ

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

「………酷い目にあった」

「………ほんと。三回転はしたよね」

 僕達はN2爆弾で吹っ飛んでひっくり返った車を なんとか立て直して目的地、カートレインに着いていた。

「まあまあ、助かったんだから気にしない! (しくしく。まだ、33回もこの車のローン残ってるのに)」

(何かミサトさん、怖い)

 そんな事を思いながら気になっていた事を聞く。

「……ミサトさん。この『特務機関NERV』ってなんですか?」

「国連直属の非公開組織よ」

「父のいる所ですね…」

「そ。お父さんが何をしてるか知ってる?」

「はい。人類を守る大切な仕事だって……」

「あ、そうだ。IDもらってない?」

(そういえば、手紙に挟んであったな)

「これです」

 僕は手紙ごとミサトさんに渡した。

「手紙ね……。シンジ君読んで良い?」

「いいですよ」

「げっ………。(『来い』だけっ!?何考えてるのよ、あのグラサンひげ親父は!) ま、まあ、シンジ君。これ読んどいて」

 そう言ってミサトさんは、僕に一冊の本を手渡した。 見ると、『ようこそ、NERV江』と書かれている。

「………非公開組織って言ってませんでしたっけ?」

「そうよ。だから読んだら返してね」

「はあ」

 受け取ったはいいけれどまったく読む気がしない。

「………これから、父のいる所に行くんですよね?」

「お父さんのこと、苦手?」

「そんなんじゃ………ないです」

「シンジ君………」

 ミユウが僕を見つめてくる。なんとか顔を無理矢理笑顔にして呟く。

「大丈夫だよ………」

 カートレインがトンネルを抜けた。

「ジオフロント……」

「そう。これが私達の秘密基地ネルフ本部よ。世界再建の要……… 人類の砦となるところよ」

 

 

 

「ん〜、ミユウちゃん?」

「はい。なんですか?」

 ネルフ本部に入ってすぐミサトさんがミユウに話しかけた。

「ちょっち、ここからは一般人を入れるわけにはいけないのよ」

「え!?」

「だから、ここの控え室で待っていて欲しいんだけど」

「ミサトさん。彼女も一緒に行かせてください」

「シンジ君。それは無理なのよ」

「お願いします!」

ミサトさんは僕の目をじっと見ている。

「(時間も無い事だし、ぐずられると面倒ね…。それにこのミユウって娘をうまく 引き合いに出せば、パイロットの件もうまくいくかもしれないわね…)分かったわ、ついてきなさい」

 

 

 

>NERV本部発令所

「国連軍もお手上げか……」

「碇指令、どうするつもりですか?」

「………初号機を起動させる」

「そんな、パイロットがいません!レイには無理です!」

「問題ない。たった今、予備が届いた」

 

 

 

>シンジ

「おっかしいなあ…こっちでよかったはずなんだけど…」

 ミサトさんのあとを僕とミユウが並んで歩く。

「ごめんね〜。まだ慣れてなくて」

「さっき通りましたよ、ここ」

「おまけに四回目です」

「………」

 口々に言う僕達の冷たい言葉に、ミサトさんは何も言えなかった。

「どこへ行くの?葛城一尉」

 僕達の後ろから声がかかった。僕達は同時に振り向く。

 白衣を着た金髪の女性が立っている。美人だけどちょっと冷たい感じのする人だった。

「ミサト?また迷ったの?」

「ゴミンゴミン。ここ複雑でさあ……」

 金髪の女性はミサトさんの弁解を無視して僕のほうに向いた。

「この子ね、例のサードチルドレンは」

(何だ?サードチルドレン?もしかして、ミユウが言ってたあれの……)

「はじめまして、碇シンジです」

「あたしは技術一課E計画担当博士、赤木リツコよ。よろしく」

(E計画………!)

「所でミサト。こっちの娘は?」

「ああ、シンジ君の恋人の如月ミユウちゃんよ」

「ミ、ミサトさん!恋人じゃないって言ったでしょ!」

 赤木さんはミサトさんを睨み付け、

「ミサト!一般人を本部に連れてくるなんてどういうつもり!?」

「だって〜、シンジ君が一緒じゃなきゃ嫌だってごねるから」

「だからって………まあ、いいわ。いらっしゃい、シンジ君。 お父さんに会わせる前に、見せたい物があるの……」

「…………」

 

 

 

>NERV本部発令所

「司令!!使徒前進!強羅最終防衛線を突破!!進行ベクトル5度修正、 なおも進行中!予想目的地、我が第三新東京市!!」

「総員第一種戦闘配置!………冬月、あとを頼む」

「ああ(三年ぶりの息子との対面か………)」

 

 

 

>シンジ

 僕達はある部屋に連れてこられていた。真っ暗だった部屋に明かりが灯った。 目の前に巨大なロボットのような顔が浮かび上がる。 紫色の鬼と言うのがぴったりだと思うほど、凶悪な顔だ。

(……………エヴァンゲリオン…!)

「人の造り出した人型汎用決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機よ。」

(やっぱり、ミユウの言っていた事は………!)

「久しぶりだな、シンジ」

「…………父さん」

 広大な空間に頭上から声が響き渡った。僕が反射的に視線を上げると 正面上方のブースに父さんがいた。

「…出撃」

「出撃!?零号機は凍結中でしょ!?まさか、初号機を使うつもりっ!?」

「他に方法はないわ」

「だってパイロットがいないわよ?」

「さっき着いたわ」

「……マジなの?」

 周りにいた全員が僕に視線を向ける。

「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」

 赤木さんが僕にそう言ってくる。

「待ってください司令!綾波レイでさえエヴァとシンクロするのに 七ヶ月もかかったんです!今来たばかりのシンジ君にはとても無理です」

「座っていればいい。それ以上は望まん。……乗るなら早くしろ。でなければ帰れ!」

「……………!」

きゅっ

 僕が怒りの感情を抑えつけ黙っていると、手を隣にいるミユウが握ってきた。

(ミユウ………!……そうだ……約束……、僕はミユウを……)

 心が静まっていく。ミユウの体温を感じていると自然に笑みがこぼれた。

「約束……だったね…」

「うん、がんばって……私は一緒にいるよ……」

 僕は父さんを見上げる。

(ミユウがいれば……がんばれる……!)

「分かった、乗る。……だけど、後で頼みをいくつか聞いてもらうよ」

「よかろう。しかし話は後だ」

 僕の要求を父さんはあっさり呑んできた。そのやり取りを呆然と ミサトさんと赤木さんが見ている。きっと僕が、もう少し駄々をこねると思っていたんだろう。

「赤木さん、操縦の仕方を教えてください」

「え、ええ。こっちにきて」

 

 

 

『冷却終了!』

『右腕の再固定終了!』

『ゲージ内全てドッキング位置!』

『停止信号プラグ。排出終了』

『パイロット……エントリープラグ内コックピット位置に着きました!』

『プラグ固定終了!第一次接続開始!』

『LCL注入開始!』

「えっ、なんですかこれ!?」

 いきなり、エントリープラグ(というらしい)に黄色い水が入ってきた。 思わず叫ぶ僕に赤木さんが答えてくれた。

『LCLよ。肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれるわ』

「そうなんですか。けど、気持ち悪いですよ」

『我慢しなさい、男の子でしょ!』

(うう、ミサトさん。それは関係無いよ)

『主電源接続』

『全回路動力伝達』

『了解』

『第ニ次コンタクトに入ります。A10神経接続異常なし』

『思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス』

『初期コンタクト問題なし』

『双方向回線開きます』

『初号機、起動』

『シンクロ率62.7%』

『……すごいわね。初めての搭乗で60%を越すなんて』

 赤木さんが難しい顔をして呟く。

『ハーモニスク、全て正常位置。暴走、ありません』

『よし、いける!発進準備!』

『第一ロックボルト外せ』

『解除確認』

『アンビリカルブリッチ移動開始』

『第2ロックボルト外せ』

『第一拘束具を除去』

『同じく第二拘束具を除去』

『1番から15番までの安全装置を解除』

『内部電源充電完了』

『内部用コンセント異常なし』

『了解。エヴァ初号機射出口へ』

『進路クリア。オールグリーン』

『発進準備完了』

『……構いませんね』

 ミサトさんが父さんの方を見て確認をとる。

『もちろんだ。使徒を倒さない限り我々に未来はない』

『発進!!』

 ミサトさんの号令と共に物凄い勢いで射出される。

「ぐ、ぐぅぅぅぅ!」

 凄まじいGが僕の体にかかってくる。一気に地上まで上がる。

 目の前に使徒の姿がある。

 使徒から強烈な『意思』のようなものを感じる。

 少し前の僕だったら怯えて何も出来なかっただろう。現に今だって怖い。

(でも、負けるわけにはいかないっ!!)

『シンジ君、まず歩く事を……』

「うわあああああああああああ!」

 叫び声と共に僕は初号機を使徒に向かって一直線に走らせる。

『シンジ君!!不用意に突っ込んじゃダメ!!』

 僕はミサトさんの叫びを無視して使徒に手を伸ばす。しかし、赤い壁のような物が使徒の前に現れ遮る。

『ATフィールド!やっぱり、使徒も持っていたのね』

 赤い壁を突き破ろうと力を入れるが、壁はびくともしない。

『シンジ君!一旦使徒から離れるのよ!ATフィールドは力では破れないわ!』

(勝たなきゃ、みんなが死んじゃうんだ。……僕は……ミユウを……守るって……約束したんだ……!逃げちゃ、ダメだ!!!!)

『しょ、初号機からATフィールドを感知!さらにシンクロ率も上昇、80…90…102.5%で安定!』

『な、なんですって!?』

「あああああああああっ!!!」

 一気にめり込んでいく初号機の腕。

(確か、この赤い玉を……!)

バキィ

 使徒の体についている赤い玉を握り締め、潰す。ゆっくり倒れる使徒。

『し、使徒、沈黙しました』

「はあ、はあ、はあ、………やった?」

 呆然と呟く僕。緊張が解け、一気に体中から力が抜ける。

「回収をお願いします……」

 

 

 

>NERV本部発令所

「碇………お前の息子は予定より強くないか?」

「問題ない……優秀なパイロットはマイナスにはならない。それに……障害になれば、取り除くまでだ」

 

 

 


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