前だけを…

 

第零話   約束


 

 僕はパニックに陥っていた。

 さっきの光を見たパニックとはまた別物だけれども。

「お、女の子!?」

 光から出てきて(そうとしか思えない)、僕の上にのしかかったというか落ちてきたのは確かにショートカットの女の子だった。 ただ、ボロボロの格好をしてとてもではないが、キレイとは言いがたい。 女の子というのが分かったのも手から伝わる柔らかい胸の感触があったからだ。

「碇シンジ……」

 名前を呼ばれ、僕は我に返る。

「き、君は誰?どうして僕の名前を……?」

 彼女は問いに答えず、そのまま目を閉じ、僕の上でぐったりと動かなくなった。

「ちょ、ちょっと君!?大丈夫!?」

 彼女からの返答はない。

(ど、どうしよう)

 僕は混乱しながらも、とりあえず彼女の下から這い出た。

(と、とにかく、怪我してたら大変だし家に運ぼう)

 そう考え、僕は彼女を背負って叔父さんの家に向かった。

 

 

 家に着き、とりあえず彼女をソファに寝かせる。周りを見まわすが誰もいない。

(当然か、この時間だったら叔父さんも叔母さんも仕事に行ってる筈だし……。 それにしてもこの女の子どうしよう。救急車でも呼んだ方が良いのかな。 でも、なんて説明すればいいんだ? 光の中から出てきた?イタズラ電話だと思われるよな絶対。 でも、一体何がどうなってるんだろう…?)

 僕はソファに寝ている女の子を見た。

(……顔……汚れてる……)

 そう思い、タオルを洗面所で濡らし、彼女の顔を丁寧に拭いていく。

「うっ………」

 彼女の顔が綺麗になると、僕は彼女が絶世の美少女である事に気付いて絶句した。

 自分でも頬が赤くなっていくのが分かる。

(か、可愛い……)

「ん……あ………」

 彼女が声をもらしながらゆっくり目を開ける。

「あ………き、気が付いた?」

 僕は彼女の顔を拭いていたタオルを反射的に後ろに回した。

「あなたは………碇……シンジ……?」

「う、うん。そうだけど…」

「碇シンジ君……私の話を聞いて……お願い」

 彼女は無理矢理体を起こしながら僕を見て言った。

「聞くのは良いけど、何で…僕の名前を知ってるの?」

「それは……」

ぐーっ

「あ……」

 彼女が顔を赤くして俯く。

「……今のもしかしてお腹の音?」

「そ、その、これは……1週間近くなにもたべてなかったから…」

 彼女は顔をさらに赤くして呟く。

「ぷっ………あはははははははっ!」

「わ、笑わなくても良いじゃないっ!」

「ご、ごめん。さっきまでとのギャップが激しくって」

 笑いを抑えながら、言い訳をする。

「う〜」

 彼女は顔を真っ赤にして唸っている。

「あのさ、僕が何か作るから。食べてからでも良いでしょ、話って」

「う、うん。ありがとう」

「あと、僕が作ってる間にシャワーでも浴びてきなよ」

「えっ?……あ、ごめんなさい私こんな格好で」

「いいよ、別に」

(まあ確かに、この女の子もこんな格好じゃ恥ずかしいだろうけど。 彼女の今の格好は、はっきり言って火事で焼け出された人みたいだもんな。)

 僕は苦笑して思わずそんな事を考える。

「じゃあ、お言葉に甘えて入らせてもらおうかな」

「うん、そっちの突き当りを右に行ったところがお風呂場だから」

 

 

 

「ふ〜、気持ち良かった」

 僕が残り物でチャーハンを作って、テーブルに並べていると彼女が出てきた。

「あの、僕の服しかなくてごめん」

「ううん、いいの。ありがと」

 彼女を見て僕は固まった。艶やかに光る黒く短い髪。どこまでも純粋な黒いひとみ。 人形のような整った顔。そしてその顔に温かみを感じさせる笑顔。

「あの…碇君?どうかした?」

「な、なんでもないよっ!」

ぶんぶんっ

 全力で顔を左右に振る。

「じゃ、じゃあ、食べようか?」

「うん。」

 

 

「おいしい〜〜〜!」

「そ、そうかな?」

「うん。すっごくおいしいよ、これ」

「ありがとう」

 彼女は満面の笑みを浮かべて、本当においしそうに食べてくれている。

「えっと、そういえば名前なんて言うの?」

「あ、まだ、名前も言ってなかったね。私の名前は如月 ミユウ」

「如月さん?」

「そう。けど、名前の方で呼んで欲しいな」

「え!?でも……」

「私もシンジ君って呼ぶから………ね?」

「ミ、ミユウさん……」

「さんはつけなくてもいいの!」

「………ミユウ」

「そうそう♪」

(って、ぼくはなにやってるんだ〜〜〜〜〜!!!)

「そ、それで話すことがあったんじゃないの?」

「………うん」

 ミユウが笑顔を消し、まじめな表情になった。

「シンジ君……。これから言うことはありえないような話に聞こえるけど事実なの。お願い、わたしを……信じて。」

 

 

 

 

「そんなっ!そんな嘘だよありえないよっ!」

「……本当なの」

「だってだってだってっ!」

「お願い……お願い……シンジ君」

「!」

(……泣いてる?)

「……信じて」

「僕は……」

 

 

 その日は、叔父さんと叔母さんに頼み込んでミユウを家に泊めてもらった。

 

 

 

 次の日、父さんから手紙がきた。内容は一言。

『来い』

 僕は手紙を握り締め、隣に座っているミユウに呟いた。

「僕は行く」

「シンジ君!」

「ミユウの言った事を確かめに。そして……」

「シンジ君……。私も行く」

「ミユウ!?ミユウの言う事が本当なら…」

「うん。危険だよ、確かに。でも、シンジ君を追い詰めておいて、自分は知らん顔なんてできないよ。」

「ミユウ……」

 僕は泣いていた。初めて自分を本当に心から心配してくれる人に出会えて。

「それに二人なら、きっとどんな事にも耐えられるよ」

「………分かった、僕がミユウを守る。だから一緒に……一緒にいてくれる?」

「………うん。わたしも……シンジ君を守る」

 この約束が僕の運命を180度変えることになる……。

 

 

 


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