前だけを…

 

プロローグ


 

『そこの君止まりなさい』

 え?

『その自転車は君のかな?』

 いえ、でも橋の下に捨ててあったから。

『ウソをついちゃいけないよ』

 本当です。ウソじゃない!

『話は署で聞こうかな』

 

 

『お名前は?』

 碇シンジ。

『じゃあ、住所は?』

 ………。

『保護者の名前は?』

 碇ゲンドウです。

 

 

『シンちゃん!』

 おばさん…。

『なんてことしたの!? 自転車が欲しかったのなら言ってくれれば良かったのにっ!』

 違う…。

『そのぐらいのお金ならお父さんからもらってるのよっ!』

 違うんだ。

 ちがうんだよおばさん…。

 

 

 父さん。

 こんな時でも迎えに来てくれないんだね。

 母さん

 もし母さんが生きていたら迎えに来てくれた……?

 母さん。

 

 

 

 ………。

「………夢…か…」

 僕は体を起こして周りを見まわす。

 見なれた景色。

 ここは叔父さんの家の裏にある森の中。

「また……学校……さぼっちゃったな………」

 いつもイヤな事があると僕はこの森に一人でいる。

 ここは誰にも邪魔されない、僕だけの場所だから。

「まあ……いいか……学校に行ってもつまんないし……」

 僕は再び目を瞑る。

 最近は三日に一回の割合でしか、学校に行っていない。

「…どうせ、勉強なんて役に立たないし」

(何を……言い訳地味たことを言ってるんだろう、僕は?)

(もしかしたら内心は気にかかってるんだろうか?)

(………………)

「ん?」

 ふと、目を開けると目の前に小さな光が浮いていた。

「何だ、これ?」

 ちょうど顔のうえに小さな木漏れ日のような光が浮いている。

「?」

 僕は興味を覚え、手を伸ばして触ってみた。

「暖かい?」

カァッ

「うわああっ!」

 光は急に輝きを増し、見る見るうちに僕と 同じぐらいのおおきさにまで膨らんでいく。

ズルッ、ドサッ

「わあああああああああああ!!」

 光からイキナリ何かが出てきて僕の上にのしかかった。

「あああああああああ!!」

 僕はパニックになりながら上に乗っているものをどかそうと手をかけた。

むにっ

「えっ!?」

(柔らかい?一体なんだ?)

 ちょっとだけパニックが収まり、のしかかってきた物体を良く見ようとした。

 その時だった。

 ぶつかる僕の視線ともう一つの視線。

 黒。吸いこまれそうな漆黒の瞳。

「碇……シンジ……」

 これが彼女とのはじめての出会いだった。

 

 

 


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