太平洋に浮ぶ一隻のある大型空母は今、シージャックの憂き目を見ていた。

「か、艦長! もうダメですっ!! このままでは原子炉が炉心融解メルトダウンしますーー!!」

 機関士から連絡を受け取った副艦長が絶望的な報告をする。

 慌てて艦長はさきほどから無意味に胸を張っているシージャック犯にすがりついた。

「なにぃ!? お、おい君! 聞いたか、もう原子炉が持たん! スピードを落とさせてくれ!!」

「アンタ、馬鹿ぁ!? そんくらい根性で何とかしなさいよっ!!」

 艦長の悲痛な訴えはあっさりと却下された。

 それどころか無茶苦茶な要求を突きつけられ、艦長は必死に訴えを続ける。

「む、無理だ! どんなに頑張っても日本に着く前に沈んでしまう!」

「無理を通せば、道理は引っ込む! ガチャガチャ抜かすと、また弐号機のパレットガンが唸るわよ!」

「そ、そんな……」

「まってなさいよ、馬鹿シンジ!! ファーストなんかと浮気してるんじゃないわよっっ!」

 艦長の様子などまったく無視して、シージャック犯は日本のある方角に向けて吠えるのだった。

 


 

『ボク』達二人の協奏曲
                        CONCERTO

 

第四話   碇家のもしかすると長いかもしれない一日

 


 

「ふんふんふんふん、ふんふん〜♪」

 朝食を鼻歌交じり(第九)で作り、軽やかに台所を動く制服の上にエプロンを着けた少女。

 最近、過去に戻ってきた意義が変わってきているこの作品のヒロイン(?)碇シオリである。

「ふんふんふんふん、ふっふふん〜♪」

 焼き魚と卵焼きを平行して作り、そこらの主婦顔負けの手際を見せている。

「あ、緑黄色系がないから……うん、カブの漬物がいいかなっ♪」

 冷蔵庫から漬物を取り出し、深皿に入れて食卓に置いたシオリは廊下の方を見るが、同居人の自分の兄は………まったく起きてくる気配が無い。

「はうぅ………ちょっとでいいから、自分で起きる努力して欲しいよね〜」

 溜息を付きつつも朝食を食卓に並べていく。

(でも……いっつもご飯美味しいって言ってくれるし……登校する時も鞄持ってくれるし……ミサトさん達とは大違いだよね)

 そう思い直したシオリは朝食を並べ終わると、エプロンで手を拭きながらシンジの部屋に向かう。

 

コンコン

 

「シンジー、起きてるー?」

 ノックと共に扉越しに声を掛けるが、当然というか案の定というか反応無し。

「入るよ?」

 

ガラッ

 

 一言断り、引き戸を開ける。

 布団にしがみ付いて熟睡している兄の姿を確認したシオリは、いつもの様に近づいてベットの横に膝を着く。

「シンジ〜、朝だよ。朝ご飯食べて学校行くよ!」

 某目覚まし時計のセリフかなり大きな声を上げながら、ゆさゆさと両手でシャツを掴んで揺さぶるがやっぱり反応無し。

「な、なんだか、日に日に手強くなっていく……」

 『まあ、それでもあの二人よりはマシなんだけど』と思いながら、揺さぶり続ける。

「うぅ……地震が……マグニチュード3.0………」

「あ、おはよ。シンジ」

 寝ぼける兄に妹はすかさず声を掛ける。

 この寝ぼすけ兄を起こす為にはタイミングが重要なのだ。

「シオリ……?」

「うん、そうだよ。ほら、朝食出来てるから早く食べよ?」

「却下、まだ寝る……ぐー」

「きゃ、却下って寝ないでよっ。またご飯食べる時間無くなるよっ?」

 再び布団を被って目を瞑るシンジを慌てて起こすシオリ。

「うーん………シオリもそんな慌てないで一緒に寝ようよ……」

「ふえっ!?」

 ちょっと油断した隙に布団の中に引きずり込まれるシオリ。

「はうぅぅぅぅ!?」

 バタバタと手足を振り回して暴れるが、首をがっちりシンジに固められている為にまったく抜け出すことができない。

 

ふにっ

ビクンッ

 

「はうっ!?」

「………?」

 

ふにふに

ビクビクッ

 

「は、はうぅぅ……」

「………肉まん?」

 意識の九割は夢の中にどっぷりと浸かって現状が把握できないシンジは、手に収まっている柔らかい物・・・・・を理解しようと何度も揉んで感触を確かめる。

 シオリの方は暴れるのをやめてぐったりしているが、何が起こっているかは謎である。

「シ、シンジ、やめてよぉ………」

「ぐー」

 

ふにふにふに………かぷっ

 

「は、はうっっっ!?」

「肉まん美味しい……」

 

はむはむ

 

「はうぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜!?」

 結局起きられたのは始業時刻とほぼ同時刻だった。

 

 

 

「……………もぐもぐ」

「……………あ、あのシオリさーん?」

「何?(ギロッ)」

「な、なんでもありません(汗)」

 何故か頬に紅葉模様を貼り付けたシンジとむすっと仏頂面で朝食を取るシオリ

 当たり前のようにシンジの分の朝食は食べる前に片付けられていた。

 ちなみに皺になってしまったエプロンと制服は洗濯機に突っ込み、今着ている制服は予備である。

「………」

「……………(汗)」

 黙って学校へ行くための仕度を整えるシオリにシンジが何とか仲直りしようと手をワキワキする。

 ………別にその動作に意味はなく、シンジに仲直りの策があるわけではないが。

 やがてシオリが鞄を持って(『前』に使っていた通学用の白い鞄ではなく、黒い指定学生鞄だ)立ち上がる。

 トタトタと玄関に向かって歩き―――はあ、と溜息を付きながらシンジの方を振り向く。

「………シンジ、行こ」

「う、うん!」

 シオリの言葉に慌ててシンジも鞄を引っつかみ立ち上がるのだった。

 

 

 

「あたしは〜ミサト〜♪ きみのなっかまだ〜♪」

「ずいぶんご機嫌ね、ミサト」

 某組織、地下本部の発令所。

 自作の歌を歌いながらいつもの如く重役出勤した作戦部長さんに、やっとこさサルベージが成功した初号機の修理で忙しく徹夜の技術部部長さんが話しかける。

 今にも懐からメス注射器でも取り出しそうなのは目の錯覚ではないだろう。

 die or live?死ぬか生存か?ではなくreconstruction or subject?改造か実験台か?の選択に迫られてるとも知らず、作戦部長さんは上機嫌で答える。

「決まってるじゃない。もうすぐ、アスカと弐号機がドイツから届くのよ♪ これでパイロットや機体に泣かされる事は無くなるわよん♪」

 技術部部長さんは『日向君はあなたに泣かされっぱなしだけどね』というセリフをコーヒーと一緒に飲み込んだ。

「これで動く前に土葬される初号機や動いたと思ったら暴走する零号機ともお別れね! 良かった良かった♪」

 その土葬された初号機を徹夜で直したり、暴走した零号機を管理していた技術部部長さんは今にも血管が切れそうなほど、額に『#』マークを浮かべていたりする。

 白衣の内ポケットからメスと注射器の二つを取り出していると、今は誰も着いていないオペレーター席で電子音が鳴る。

「ん? やあね、なんでオペレーターが誰もいないのよ。まったく当直さぼってるのは誰よ?」

 『あなたが仕事を押し付けた日向くんよ』と言うセリフを二杯目のコーヒーと共に飲み込む技術部部長さん。

 もちろん言っても無駄だからだ。

 そのおかげで日向だけではなく、技術部部長さんの胃にも穴が開きそうだが。

「ほらリツコ、コーヒーなんか飲んでないで何があったか確かめなさいよ」

「………30時間振りに休憩時間を取っている私ではなくて、仕事もせずにブラブラしているどこかの誰かさんが見るべきではなくて?」

「何言ってんのよ、あたしが分かる訳ないじゃない

 

ぶちん。

 

 大変幸運な事にその何かが切れた音と、技術部部長さんの使徒でも裸足で逃げ出す表情を確認したのは、作戦部長さんを除けばMAGIだけだったようだ。

 

 

 

 さて、その頃、第三防衛ライン―――つまり、第三新東京市へ続く海岸には赤いロボットが打ち上げられていた。

 そのロボットの首元、エントリープラグから出てきた少女はブツブツとなにやら文句を言っている。

「まったく、何が海兵隊の誇りよ。途中でリタイアなんて、根性無いわね! お陰で弐号機ママで遠泳する羽目になっちゃったじゃない!」

 どうやら太平洋艦隊旗艦のオーバー・ザ・レインボーは残念ながら海の藻屑となったようだ。

「予備電源は切れちゃったから、弐号機ママは一旦ここに置いて行くしかないわね………シンジの初号機お母様みたいにS2機関を搭載できれば良いんだけど………」

 少女はぶつぶつと何か考え事を終えると、キッと第三新東京市の方角を見据える。

「シンジッ! アタシが辿り着くまで、ファーストの毒牙にかかるんじゃないわよ!」

 ………着実に赤の少女は目標へ近づいていた。

 

 

 

 さて、目標こと碇シンジ(実は偽)とその妹碇シオリ(実はこっちが本物)はその頃何をやっていたかと言うと―――。

「ねえ、どうしよう……シンジ………」

「さあ………このまま部屋に引き返して寝るのが一番だと思うけど」

「で、でも、学校サボるわけにはいかないよっ!」

「じゃあ、コレどうやって突破するの?」

 実はマンションから一歩も出ていなかったりする。

 マンションの前で熟睡する第三使徒サキエルの巨体に入り口を塞がれていたので。

 それはもう気持ち良さそうに熟睡していた。頭(仮面?)からは今にも『ZZZ』と擬音が飛び出しそうなほどに。

 しばらくマンションの7階からサキエルを呆然と見下ろしていたシオリだったが、ふと気がついた事を口にする。

「あれ? でも、あの使……じゃなくて、この子。寝るときは山の方で寝るんじゃなかったっけ?」

 シオリの呟きの通り、普段サキエルは夜になると山の方へ帰る習性があった。

 理由はいろいろと噂されているが、一番の候補は人の邪魔になるからという通常の怪獣にはまったく持って聞かない物だったりする。

「んー………遊びつかれて、山に帰る前にここで寝ちゃったとか」

「そんな……どっかの小学生じゃあるまいし………」

 シンジの推測にシオリは呆れていたが、それは限りなく真実に近かった

 夜更かしして散歩ライフワークを続けた結果、ここでこうして寝ているのだから。

「ていうか、何食べて生きてるんだろうね。餌付けしたら楽しいかも」

「もう、馬鹿な事言ってないで早く学校行かないと!」

「だからどうやって?」

「………が、がんばれば!」

「何とかなると思う? アラレちゃんでも呼んで来ないとと動かせないって、アレ」

「はうぅ………」

「ほら、だから今日の所は自主休校にして、家でなんか美味しい物でも食べてようよ」

 シオリを完全に言い負かしたシンジはさり気なく(少なくとも本人はそのつもりで)朝食を再び用意してくれるように頼み込んだ。

「はう、そうだね………でも、何か食べるのはお昼ご飯でだよ」

 却下された。

 

ぐぅぅぅ

 

 シンジの腹が悲しい音を立てたが、まだ若干今朝の怒りが残っている妹には黙殺された。

 

 

 

「し〜お〜り〜」

カチャカチャ

「シ〜オ〜リ〜さ〜ん」

カチャカチャ

「シ〜〜〜〜〜オ〜〜〜〜リ〜〜〜〜」

「………ふぅ、なに?」

 さすがに30分近く名前を呼ばれ続けたシオリは、観念して皿洗いを中断し振り向いた。

「お腹空いた」

「ご飯はあと2時間後です」

「し〜〜〜お〜〜〜り〜〜〜」

 今度は椅子の上でガタガタ揺れて―――ピタリとシンジは動きを止めた。

 いきなり声が止まったのでシオリは少し怪訝に思ったが、注意を引く新しい戦法かもしれないので気にしない事にして皿洗いを続ける。

 で、シンジなのだが………シオリの後ろ姿を凝視したまま止まっていた。

(シオリのエプロン姿………毎日見てるけど、飽きないよなぁ………)

 いつもの通り妄想に突入していた。

(スカートに包まれた柔らかそうなお尻がふりふりと………右…左…右…左と揺れて……これは僕に食べてくれって言ってるのか? っていうかそうだよな。我慢できたら男じゃない。否、じゃない………)

 自分の貞操がウル○ラマンのタイマーの如く赤点滅しているのにも気付かず、シオリはテキパキと食器を洗い続ける。

(でも、襲ったら嫌われちゃうかな? いや、据え膳食わぬは男の恥とか、いやよいやよも好きの内っていうことわざもあるぐらいだし………)

 明らかにことわざの使い方を間違えている。後者に至っては男の迷信だ。

(さあ、逝くんだシンジ。今こそ僕は大人に………5、4、3……)

 遂には頭の中でカウントダウンまで始める。

 が古今東西、こういう場面ではお約束通り邪魔が入るものである。

 

ピリリリリリ、ピリリリリリ

 

 突如、部屋に電子音が鳴り響く。

「あ、電話……学校からかな? シンジ、ボク手が離せないから出てよ」

「………いえっさー」

 シンジは渋々シオリから視線を外し、立ち上がって居間にある電話の元へ行く。

 『後で学校襲撃したる』などと思っているのは別にどうでもいいことである。

「はい、碇ですが」

『あっ! シンジ君!? すぐにNERVに来て! 弐号機がガチャン

 シンジは受話器を置くと、キッチンに戻り椅子に着席する。

「誰だった?」

「ん、悪戯電話」

「ふーん」

 

ピリリリリリ、ピリリリリリ

 

「また鳴ってるよ?」

「出ちゃ駄目だよ、シオリ。どうせ『はあはあ、お嬢さんの今履いてるパンツの色は何色?』なんて言い出すに決まってるんだから」

「シ、シンジ………そういう台詞言わないでよ………」

 余りにリアル過ぎるシンジの言葉に、シオリは頬を赤く染めるのだった。

 

 

 

「遂に………遂に帰ってきたわよ! シンジ〜〜〜〜!」

 ダダダダダダッと粉塵を巻き上げながら、第三新東京市内を爆走する赤の少女。

 もう彼女の脳裏には再会する自分とその下僕旦那様の映像しか浮かんでいない。

 いや、他にも隅っこの方で青髪紅眼の少女が、何故かハンカチを引き千切らんばかりに噛みしめている映像もあったりしたが。

 とにもかくにも彼女が前に住んでいた、そしてこれから二人の愛の巣になる筈のマンションはもうすぐである。

「素直になったアタシを見てっ! こんな美しく爽やかに生まれ変わったアタシをっ! アタシの一番はアンタの物よ〜〜〜〜! ………って、なによこれーーー!?

 マンションなど見えない。

 まるでアス………もとい赤の少女の行く手を文字通り塞ぐように第三使徒がそこに寝転がっていたのだから。

「甘い! 甘いわよ! こんな物でアタシとシンジの愛を妨害しようなんてーーー!」

 赤の少女は腕を顔の前に持ち上げ、叫んだ。

「アタシのこの手が真っ赤に燃える!」

 グオオオオオと少女の手がオレンジ色の光に包まれる。

「シンジの愛を掴めと轟き叫ぶ!」

 それは少女の腕に凝縮されたATフィールドが集まっていた。

 あの赤い海の世界で人間リリンとしての枷を既に外している少女は生身でATフィールドを操る事を可能にしていたのだ。

「ばぁくねつっ!」

 少女はATフィールドに包まれた腕を振り上げ―――

「ごぉぉぉっとふぃんがぁぁぁぁぁ!」

 

ドゴスッ

ぽきっ

 

「ひああああ! 腕がぁぁ〜〜〜!」

 プランプランした腕を抱えて転げまわる赤の少女。

 さすがに愛と気合とATフィールドだけでは物理法則(使徒の装甲)を上回るのは無理だった様だ。

 この10メートル隣では青髪赤眼の少女がまったく同じ事をして蹲っていたのだが、まったくの余談である

 

 

 

「ああ………なんてことなの………」

「これは私に対する嫌がらせなの!? そうなのね!?」

 一方場面は変わってこちら第三防衛ライン。

 そこでは科学の奉仕者であるエセ金髪博士が思わずエクトプラズムを吐き、どこまでも無神経で心臓に剛毛が生えてそうな作戦部長が真っ白になる情景が広がっていた。

 

チュドォォォォン

 

 正八面体の青いクリスタルから発射された加粒子砲が赤い人形を吹き飛ばしていた。

 

くるくるひゅーん

ハグッ

 

 空高く舞い上がった赤い人形を巨大な魚が水面から飛び上がり、上半身を口にくわえる。

「「「おおーっ」」」

 その場にいたオペレーター三人衆が思わず驚嘆の声を上げて拍手しそうになり―――作戦部長と技術部長の全てを無に返しそうな視線に黙りこくった。

 もうこれ以上説明しなくてもお分かりだろうが、一応説明する。

 現在ブンブカ魚の口に咥えられて振り回されている赤い人形は、NERV最後の切り札と言われていたエヴァンゲリオン弐号機である。

 そして、時折口から離され宙を舞う弐号機に射的のごとく加粒子砲を浴びせるクリスタルは第五使徒ラミエル

 加粒子砲を諸に浴び、黒焦げになった弐号機を水族館のイルカの如く空中キャッチする巨大な魚は第六使徒ガギエル

 楽しい遊戯がそこではエンドレスに繰り広げられていた。

「………母さん、私はあなたを今超えたわ。労働時間でね

 だーっと滝涙を流しながら、天へ旅立っている母に報告し始める技術部部長。

 瓦礫に埋もれた初号機、未だに再起動の目処すら立っていない零号機に続いてコレである。

 何かに確実に呪われていた。

「むっきゃーーーーーーーー! しししししし使徒のあほぉぉぉぉぉぉ!」

 そして作戦部長は既に人ですらなかった。

 『そんな葛城さんも素敵だ』などと眼鏡君(ミリタリーオタク少年ではあらず)が思っていたのは………何の救いにも、余談にすらならなかった。

 

 

 

 場面は戻って第三使徒前(マンション前とも言う)。

「ファーストォォォーーー!」

「セカンドォォォーーー!」

 

ガギィィィィンッ

 

 鈍く低い金属音が鳴り響く。

 それは二人の少女のぶつかりあった腕(もちろんオレンジ色に光っている)から発せられている。

 両者とも逆の腕がプランプランしているのはご愛嬌だ。

「アンタね! こんな物を置いてアタシの邪魔をしたのはっ!」

「………そんな事言っても騙されない。私の邪魔をしたのはあなたの方」

「はんっ! お人形さんがよく喋るようになったわね!」

「お人形さんはあなた。キーキー鳴きながらタンバリンを叩くの

「誰が猿の人形よーーーー!」

 そう言い合っている間にも互いのオレンジ色の光は押し合い圧し合いを繰り返していた。

 余波で地面のタイルは捲り上がり、空気が震え、人外丸出しの光景で一般人が見たら自衛隊の出動を要請するだろう。

 もちろんそんな事を気にする二人ではないが。

 

「ウォォォォォ!!」

シャカシャカシャカシャカ

 

 遠くから何かが聞こえる。

 

「ォォォォォォ!!」

シャカシャカシャカシャカ

 

 それも物凄い勢いで近づいてくる。

 その事に気がついた二人は視線をそちらに向け―――

 

「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

キキィーーーーッ!

ガッシャーーーンッ!

 

「「きゃああああっ!?」」

 突如突っ込んできた影は二人を保護していたATフィールドすら突き破り、赤と青の少女を吹き飛ばした。

 赤の少女は植木に頭から突っ込み、青の少女は使徒の巨体に全身を張り付かせた。

「ここやーーー! 情報通りセンセが寝とるでーーー!」

「サキエル様の寝姿を撮れるなんて何て俺達はついてるんだーーー!」

 飛び込んできた影―――自転車に乗ったジャージ&メガネは、即座に撮影機材を取り出して準備を始める。

 愛と気合が物理法則(ATフィールド)を突き破った歴史的瞬間を目撃した第三者は残念ながらそこには存在しなかった。

 勿論の事、偉業を成し遂げた二人はそんな事を気にも止めず、撮影を開始する。

「トウジ! 違う! ライトはもっと上から照らすんだ!」

「こ、こうやな!?」

「そうだ!」

 メガネを掛けた少年は自動連続シャッターを使い、一秒間に数十枚という常識外れのスピードで写真を撮ったかと思うと、即座に走り出した。

「次はあっちの建物の屋上から撮影だ!」

「おうっ!」

 ………赤と青の人外の少女を一瞬で蹴散らした変態の旋風は去っていった。

 後に残ったのは物言わぬ、二人の少女だけだった。

 

 

 

 

 

「平和だねぇ、シオリ………」

「そうだね、シンジ………」

 ようやく仲直りして、ソファに座って寄り添いながら昼食を取る碇兄妹は平和だった。

 

 

 

 

 

『すー、むにゃむにゃ……おにいちゃ〜ん』

 そして、別次元の世界の夢を見ている第三使徒サキエルも同じく平和だった。

 

 

 


次回予告

 同時に襲来した二つの使徒。

 迫りくる恐怖に立ち向かう特務機関NERV。

『戦いわね……勝ってこそ意味があるものなのよ』

 非情の決断を下す葛城二尉。

『やだ! やだやだやだ! シンジを連れて行かないで!』

『僕は………シオリを守りたいから』

 引き裂かれる兄妹、そして決意を胸に戦いに向かうシンジ。

『死なないわ。あなたは私が守るもの』

『負けられないのよ。アタシは誰にも、絶対に』

 様々な想いが交錯し、ついに発動されるネオ・ヤシマ作戦。

 

次回! 『今、そこにある危機』

お楽しみに〜

(この次回予告はあくまでフィクションで、本編とはなんら関係ありません)

 

 

感想、要望、誤字脱字、何でもいいのでメール待ってマース♪

 


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