某本部、第二ケージは昼夜問わず喧騒に包まれていた―――――
ひたすら掘り続けて一ヶ月………初号機のサルベージはようやく目処の立つところまで来ていた。
「おーいっ! 『ツノ』が出たぞ〜!」
………といってもようやく『ツノ』が見えた程度ではあるが。
「よーっしっ! あと少しだ! 気合入れていくぞーー!!」
「「「「「おーっ!!」」」」」
ガラッ
「ん?」
初号機の『ツノ』の近くにいた土木作業員の一人が後ろから聞こえた物音に振り向く―――――
「ぎゃああああ!!」
「ど、どうした!?」
「ああああああ、あれっ!!」
腰を抜かした作業員の指した先には、モズのはやにえの様に『ツノ』に串刺しになった ………ゲンドウがいた。
「な、なんだあの髭魔人はっ!?」
「足が微妙に三つ折になってるぞ!?」
「ほんとに人か!? 赤木博士が作った対使徒用の変種生物じゃないのか!?」
かなりの距離を置きながら、遠巻きに好き勝手なことを言う作業員達。
どうやら、この一ヶ月でゲンドウはすっかり皆の頭から忘却されている様だ。
「ぐ……ぐぐ………お、お前ら、助けろ………」
「ひいいい!? 生きてるぅぅ!?」
「っていうか、しゃべったあああ!?!?」
―――――結局、ゲンドウが病院に運ばれたのは半日後だったらしい。
きーんこーんかーんこーん
「シオリ、屋上行こうよ」
「あ、うん」
昼休みの始まりを知らせるチャイムの音と同時に、シンジは隣の席のシオリに声を掛ける。
「い、碇さん、一緒に食事しませんか!?」
「碇君、私たちと一緒にご飯食べない?」
などと二人が立ち上がると同時にかなりの数のクラスメートが動き出すが―――
「シオリ、今日の弁当のメニュー何?」
「内緒だよ。開く時のお楽しみ♪」
ラブラブフィールド展開中でまったく聞こえて(気付いてすら)いないようだ。
実際の所、シオリは気付いてはいるのだが、さすがに下心丸出し&全開の男子連中と食べる気にはならない。
それともう一つ、自分では気付いていないがシンジと一緒に食べたい気持ちも働いて男子連中の存在を頭の中から排除しているのだった。
ちなみにシンジの方は本気でクラスメートに気付いていない。
ガラッ
シンジが教室の扉を開けようと手を伸ばした瞬間、先に扉の方が勝手に開いた。
そこに立っていたのは―――――青銀の髪、そして、紅い瞳をした少女。
(あ、綾波!?)
シオリは声をあげそうになるのを必死に堪える。
「………碇君」
レイはシンジに向かって綺麗に微笑み―――――
「シオリ、何してるの? 早く行こうよ」
さくっと無視された。
「あ、あはははは………(汗)」
ハンマーでぶん殴られたような顔をしているレイの横を、苦笑いしながら通り過ぎるシオリ。
ぎゅっ
シンジはシオリの手を取って去っていった。
「……………」
「「「「「………………」」」」」
固まっているレイと展開に着いていけなかったクラスメート達はただ立ち尽くすしかなかった。
「すっごく美味しいよ、シオリ♪」
「あ、ありがと………」
シンジとシオリは屋上の一角に腰を降ろして、仲良くお弁当をつついていた。
「ほら、シオリも食べなよ。早くしないと僕がみんな食べちゃうよ?」
「う、うん、食べる」
おまけに一つのお弁当を二人で食べてるし。
シオリ曰く、『どうせ、二人とも同じメニューで一緒に食べるんだから一つにまとめちゃった方が楽』だそうだが、言い訳にしか聞こえない。
何に対しての言い訳かは謎だが。
(………さっきの綾波って、『あの』綾波だよね?)
もぐもぐと卵焼きを噛み締めながら、教室で会ったレイの事を考え込むシオリ。
(でも………『ボク』じゃなくて『シンジ』を碇君って呼んでた………と、言う事はもしかして綾波はボクが女になってる事を知らない?)
はむはむと今度はご飯を頬張る。
(じゃあ………ボクを女にしたのは綾波じゃないって事?)
ごくん
シオリは口に含んでいた卵焼きとご飯を飲み込み、小首を傾げる。
「ふふっ………」
「……何、シンジ?」
シンジが自分を見て笑っているのに気付いたシオリは、ちょっと不機嫌そうにシンジを睨む。
「頬の所に、ご飯粒付いてるよ」
「え?」
シオリは慌てて右手を頬にあてるが、見当違いのところを触っている。
それを見たシンジは思わず―――――
ぺろっ
「はい、取れたよ」
舌でシオリの頬についたご飯粒を舐め取った。
ぼむっ
一瞬にしてシオリの顔が真っ赤になる。
「はうっ!? な、何するんだよ、シンジ!」
「え、あ、ご、ごめん………」
顔を真っ赤にして怒鳴るシオリを見て、やっと自分がどういう事をしたか理解したシンジが伝染したかの様に顔を赤くして謝る。
「あ、謝らなくてもいいけど………」
「う、うん、ゴメン………」
二人はちらり相手の顔を見、さらに顔を赤くして俯くのだった。
きーんこーんかーんこーん
「はっ」
チャイムの音に、教室の入り口で立ち尽くしていたレイが再起動を果たす。
レイは辺りを見回すがシンジはいない。
がつっ
「な、なんですか、綾波さん?」
丁度、目の前を通りかかった女子生徒Aの首ねっこを掴んで止める。
「碇君はどこ?」
「い、碇君なら、いつも昼休みは妹さんと屋上で食事してるけど………」
「妹?」
妹→女
碇君に妹はいない→偽物
女→敵。
偽物→殲滅しても問題ない。
「問題ないわ………」
実に楽しい論理を頭の中で展開したレイはニヤリと笑うと、屋上へ向かうため廊下を歩き出した。
「あ、あの………昼休みもう終わったからここ(教室)に帰ってくると思うんだけど………」
女子生徒Aの言葉はレイにはまったく聞こえていなかった。
今日も今日とて、第三使徒サキエルはすこぶる元気だった。
のっしのっしと相も変わらず第三新東京市内を闊歩している。
ただ、少し前と違うのが―――――
「おおーーいっ、あんがとよーー!」
「これからも頑張ってね〜〜〜!」
近所の人達に大人気で暖かいご声援が飛んでくるようになった事だ。
サキエルは大きく手を振る商店街のおじさんや自転車で下校途中の女子高生などをしばらく眺めていたが、やがて飽きたのか再び移動し始める。
「おいっ、トウジ! 急げ!!」
「任しとかんかい!」
サキエルの後方から、物凄い勢いの自転車(しかも二人乗り)が走ってくる。
ちなみに漕いでいるのはジャージ、荷台でカメラを構えているのが眼鏡だ。
パシャパシャパシャパシャ
走る自転車の上で、眼鏡がカメラを構えシャッターをきる。
「はあ…はあ…はあ……ど、どうや、ケンスケ………」
「バッチリだ!」
ジャージの息絶え絶えな質問に眼鏡は爽やかな笑顔を浮かべ、親指を立てる。
「学校サボって来たかいあったよ」
行けよ、学校。
「まったくやな」
眼鏡のセリフにうんうんと頷くジャージ。
「よーしっ! ケンスケ! 最後にセンセに挨拶してこか!」
「ああ、そうだな!」
ちなみにジャージが言った『センセ』とはサキエルの事である。
ジャージはごそごそと持っていた鞄を漁り………お手製の旗を取り出した。
しかも、折りたたみ式で伸ばすと3メートルもある物だ。
旗には大きく、『サキエル様、LOVE』だ。
というか、何処で知った使徒の名前を。
おまけにLOVEなのか?
数々のツッコミを入れてくれる良識人はいず、二人はその場に立ち止まると旗を振りながら大声で喚き始めた。
「「L・O・V・E! らぶりぃサキエル!」」
その二人の様子を見たサキエルは一目散に逃げ出した。
嫌だったのか、怖かったのかは分からないが少なくとも好意は抱いてないだろう。
『ふええええんっ!! おにいちゃああああん!!』
そう泣き叫んだかどうかは知らないが、サキエルは出現以来最速のスピードでそこから離脱した。
「「L・O・V・E! らぶりぃサキエル!」」
その去り行くサキエルの後姿にエールを送り続けるジャージ&眼鏡。
もう、彼らが堅気の道に戻る事はないだろう。
授業が終わり、熱い日差しの中二人は歩いていた。
「シオリ、今日はこれからどうする?」
「う〜ん、そうだね………」
シンジの質問に、シオリは手を顎にあてて考え始める。
(昨日の買い物で夕食の分はあるから、今日は行かなくて良いよね。あ、でも………)
「じゃあ買い物付き合ってくれる?」
「買い物?」
「うん。実は洗剤切らしちゃってて………昨日の買い物の時買ってくれば良かったんだけど、忘れちゃったんだ」
シオリは照れたようにシンジに笑いかける。
「………」
「………シンジ、どうしたの?」
「えっ、な、なんでもないよっ」
シオリの笑顔に見惚れていたシンジは、慌てて手を左右に振って誤魔化す。
「ねえ、買う物はそれだけ?」
「えーと……………うんっ、それだけだね」
「そ、それじゃあさ………服、買ってあげようか?」
「……服?」
シオリはシンジの提案にぱちくりと目を瞬かせる。
「う、うん。ほらっ、シオリって女の子なのにあんまり服持ってないだろっ? それじゃあ、困ると思って………」
「別に困ってないけど」
シンジの説明は、一言の元に斬って捨てられた。
「え………あう………で、でもっ今のシオリの服ってこの間デパートで買ったバーゲンの物ばっかりだろ? ちゃんとした物も欲しくないっ!?」
「ボク、バーゲンの品物で十分だよ?」
必死に食い下がるが、あえなく返す刀でばっさり。
「ぐ、ぐっぐぐ………落ち着け、落ち着くんだ僕。ここで頑張らなきゃシオリの可愛い私服姿は見れないんだ。逃げちゃダメだっ……」
シンジは挫けそうになる自分を、自己暗示を施してなんとか立て直す。
シンジが買い物に拘るのには理由がある。シオリの服は確かにバーゲンの品物だが、シンジにとってそんな事はたいした問題ではない。
問題は―――――シオリの持っている服全般が、男物だと言う事だ。
長い学生服のようなズボンを、普段シオリは穿いている。たまに短パンやスパッツも穿いているのだが、基本的にTシャツに長ズボンしか着ていない。
だから、シンジはシオリを買い物に連れ出し、スカートなどの女の子ちっくな服を買おうとしていたのだ。
「………シンジ、ボクに服なんて買っても似合わないんだからお金勿体無いよ」
「そ、そんな事あるわけないっ!! 少なくとも僕は見たいっ!!」
シオリの自嘲気味なセリフにシンジが思わず本音をぶちまける。
「え………そ、その………見たいって(ぽっ)」
「あ、いや、それはともかく………とにかく行こう! ねっ!」
「う、うん………」
珍しくシンジが強引な押しでシオリを納得させ、二人は買い物に行く事になるのだった。
「………」
「………」
一度家に帰り、私服に着替えたシンジとシオリは近くのショッピングセンターに来ていた。
―――が、女性服売場の前で二人は固まっていた。
「シオリ……入らないの?」
「シンジこそ、入れば?」
「ほ、ほら、僕は男だからこういう所入った事ないし……」
(ボクも男………もとい、元男だから入った事無いんだけど)
シオリは不満げにシンジを軽く睨み―――嘆息した。
「はう………わかったけど、付き合ってよね……シンジが誘ったんだから」
「う、うん」
覚悟を決め、シオリとシンジは売場の中に入った。
シオリは棚にあるシャツを適当に取る。
「シンジ、これどうかな?」
シオリが差し出したシャツは、普通の黒いTシャツ………おまけに無地で色気も可愛げも感じられないものだった。
「それはちょっと………シオリにはこっちの方が似合うと思うよ」
そう言ってシンジが手に取ったのは、ノースリーブの白いシャツ。
そのシャツがかなり薄い生地で出来ている所に、シンジの下心(エロ心とも言ふ)がちらほら顔を覗かせていたりする。
「………そうかな?」
シオリは首を傾げながら、シャツを自分の身体に当ててみたりするが良く分からなかった。
シオリの反応を見て脈有りと思ったのか、シンジはここぞとばかりにたたみ掛ける。
「絶対似合うって!」
「でも………」
「心配なら、試着してみれば?」
「………そうだね」
シオリは納得したように頷き、試着室に向かおうとする。
「シ、シオリ……上だけじゃなくて下もついでに着てみたらどうかな?」
「あ、そっか。上着だけ着てもしょうがないね、そうするよ………どれがいいかなぁ」
「僕が下も選んで良い?」
「え……うん、お願いする♪」
シオリから了承の言葉が出た瞬間、シンジの目がキュピーンと怪しく光った。
シンジはすかさず超ミニの赤いスカートを無理矢理シオリの手に掴ませる。
「こ、これ、スカート「さあ、早く試着してみようね、シオリ♪」
有無を言わさず、シンジはシオリを試着室に押し込む。
「ほら、早く着替えてっ!」
「え、でも、ボク、スカートは……」
「良いから良いから、着てみるだけだって。なんなら僕が着替え手伝って……げふんげふん。と、とにかく、試しに着てみなよ」
「わ、わかったよ……」
納得したというよりは、シンジの勢い(&得体の知れない迫力)に押されてカーテンを閉めて着替え始めた。
―――着替えの様子、抜粋―――
バサバサ
『服は畳んでっと………あ、ブラまで外す必要は無いか』
『よっと……スカートはここで止めて…………わっ、こんなに短いんだ。これじゃあ、ちょっと動いただけでパンツが見えちゃうな………』
『う……上の方もちょっとアレだな……これだと、冷房の効いた建物の中だとちょっと寒いかも……』
「着替え終わったよ」
シャー
言葉と同時にカーテンが開かれる。
―――――そこにいたのは天使だった(シンジ主観)。
ノースリーブのシャツと赤いミニスカートを纏ったシオリが気恥ずかしそうに立っていた。
健康的な二の腕や太ももが露出し、シャツも生地がかなり薄いため胸を覆っている白いブラがうっすら透けて見えている。
「シンジ………似合うかな?」
頬を赤く染め、上目遣いにシオリはシンジを見つめる。
「がふぅっ!!」
そんなシオリの姿を直視したシンジはがくりと膝を付く。
(………ありがとう、ありがとうっ、母さんっ!! こんな超絶に可愛い妹を生んでくれてっ! 僕は今とっても幸せだよっ!)
何処かに意識が飛んでしまったようだ。
「あ、あの……シンジ?」
「似合ってる!! 目茶苦茶可愛いよ!」
「あ、ありがと……(ぽっ)」
「それじゃあ、次だ!」
「へ………次? ちょ、ちょっとこれで終わりじゃ……」
「これなんかシオリにとっても似合いそうだな〜♪」
「聞いてないしっ!?」
この後、一時間に渡ってシオリは着せ替え人形にされるのだった。
―――――そんな二人を影から見つめている少女が一人いた。
「そう………屋上にいると見せかけて、こんな所に碇君を連れ込んで誘惑してたのね………」
言わないでも分かると思うが、某エヴァンゲリオン零号機パイロットである。
「くすくす………私の碇君を誘惑するなんて、万死に値するわ………」
この少女………本人は隠れているつもりだろうが、周りの人間は少女から溢れ出る殺気に気付いてさっさと避難している。
まあ、目標のラブラブフィールド発生中の鈍感×2には気付かれていないので、目的は果たせているのだろうけど。
「碇君が一瞬でも目を離した時があなたの最後………私のATフィールドで細切れ………くすくすくすくす」
死ぬほど物騒なセリフだが周りの人間は避難していた為、幸運にもそのセリフを聞いたのは少女の護衛の保安部員二人だけだった。
それから数時間、少女は二人をつけまわした。
―――――女性服売場、レジにて。
「八着で58,035円になります」
「それじゃ、このカードで」
「ねえ、シンジ………ほんとにこんなに買っちゃっていいの?」
「シオリが可愛かったしOK」
「はう………(ぽっ)」
―――――喫茶店にて。
「シンジ、このパフェ大きいから二人で食べようか?」
「ふ、二人で一緒にっ!?」
「だって、これ一人じゃ食べきれないよ………それともいらない?」
「いや、食べるっ! 一緒に食べよう!」
「そんな、ムキにならなくても………」
―――――公園にて。
「あ、犬だ………ほら、こっちにおいで〜」
「シオリって犬好きなんだ?」
「うん、そうだよ。シンジだって好きだよね?」
「好きだけど………そんな事なんで知ってるの?」
「(ギクッ)あ、いや、ボクが好きだから、シンジも好きかな〜って。ほら、ボク達双子だし」
「以心伝心………って奴かな?」
「………かなり違うと思うよ」
「何故、何故なの!?」
少女は珍しく大きな声をあげていた。
「どうして………碇君は一瞬たりとも視線を外さないの………」
抹殺計画は最初の段階で頓挫していた。
公園のベンチに座って一休みしていた二人は接近してくる人影に気付いた。
「シオリ、どうしたの?」
………もとい、シンジは相変わらずシオリしか目に入ってないようだが。
「あれ………綾波?」
ズンズンとらしくない歩き方でシオリ達に近づいて来るのは確かにアルビノの少女、綾波レイだ。
どうやら、痺れを切らして正面から出てきたらしい。
「………碇君」
レイは二人の前に立ち、小さな声でシンジを呼ぶ。
やっとの事シンジはレイの方を向き―――実は声に反応したのではなく、シオリがそちらを向いたから自分も向いただけなのだが―――レイをじっと見つめる。
そして、ゆっくり口を開きのたもうた。
「君、誰?」
「……………」
シンジのセリフにレイは目を見開いた。
(何故何故何故何故………碇君は何故そんな事言うの? もしかして碇君じゃないの?)
見た目には分かりにくいが、レイはかなり混乱している。
「ああああ、あなた、誰?」
「いや、僕が聞いてるんだけど………まあ、いいか。僕は碇シンジ。ちなみに隣にいるこの子は僕の妹のシオリね」
「………そう、そうなのね」
シンジの言葉を聞いたレイは、何かに気付いて頷いている。
(そうだったの………碇君は記憶喪失なのね………)
思いっきり間違いだったが。
「私は綾波レイ………」
「綾波さんっていうんだ。へえ〜、よろしく」
意外に応対が優しいシンジを見て、シオリの胸はチクンと微かに痛んだ。
(いくら綾波が綺麗だからって、いきなり話し掛けてきた知らない人と仲良くするなんて………まったく……)
シオリは自分でも何が『まったく』で、何故気分が悪いのか分からなかった。
一方、レイはレイでシンジから『綾波さん』と呼ばれる事に不快感を感じていた。
「綾波さんは嫌………レイと呼んで………」
「レイ?」
「そう」
「うん、じゃあそう呼ばせてもらうよ」
ズキンズキン
シオリの不快感はどんどん増していく。
「可愛いね、レイって」
ぼんっ
レイは顔を真っ赤にして、まるで蒸気機関車のごとく顔面から煙を噴出している。
ぷちん
「シンジ!! ボク、先に帰るからねっっ!!」
「え……ちょ、シオリ!?」
シオリは半分泣きながら、立ち上がり早足で家の方向に歩き出す。
慌ててシンジはその後を追うのだった。
―――レイは顔を真っ赤にしたまま沈黙し、再起動は後数十分は無理そうだった。
「………」
「………」
「………うう」
家への帰り道は非常に苦しい空気に包まれていた。
シンジはシオリの後ろに着いて歩いていたが、後ろ姿だけでもシオリが激怒しているのが分かる―――――もっとも、怒っている理由はシンジどころかシオリ本人にも分からなかったが。
少しでも空気を和ませようとシンジは簡単な話題を振ることにした。
「あ、あのさ………さっきのレイって娘、可愛かったよね?」
断言しましょう。
馬鹿です。
「……………言いたい事はそれだけ?」
陽炎の如く、シオリの身体から怒気が立ち昇っていくのが見える(ような気がする)。
「ほ、ほんとシオリに似て可愛かったよね」
「……………は?」
一瞬で怒気が霧散する。
「だ、だってさ………あの女の子、シオリに似てたよ………まるで姉妹みたいだったからさ」
確かにシオリとレイは、遺伝子上では姉妹の様なものである。
シオリが絡むとシンジは無駄に鋭くなるらしい。
「………そうだったんだ」
シオリは安堵感と共に胸から痛みが引いていくのを感じた。
「………怒ってごめんね、シンジ」
「いいけど………なんで怒ってたの?」
「自分でもわかんない……」
俯いてしばらく頭を悩ませるシオリだったが、シンジが横に並び自然と手を合わせるとどうでも良くなってしまった。
「ま、いいや♪」
こうして、二人は仲良く手を繋いで帰路に着くのだった。
レイは公園で一人ほくそ笑んでいた。
「くすくす………碇君のハートはガッチリキャッチしてるわ。このまま、二人は恋人同士でラブラブ………そして碇君はラストで記憶を取り戻して二人は永遠に結ばれるの………」
今のシンジのレイに対する認識は、
可愛いシオリに似た女の子。
………レイに幸あらんことを。
次回予告
「やっと日本に着いたわ………待ってなさいよ、バカシンジ!!」
遂に襲来する赤の少女。
そして、運命の星に惹かれるが如く、出会うことになる少女と第三使徒。
「アタシ……あんたの事嫌いじゃないわ……。だけど、使徒は倒すしかないのよ……」
『ボク、あーちゃんの事好きだよ?』
しかし言葉が通じるわけも無く、今、非情の戦いが始まる………。
次回! 『激突、第三使徒VSエヴァ弐号機』
お楽しみに〜
(この次回予告はあくまでフィクションで、本編とはなんら関係ありません)
感想、要望、誤字脱字、何でもいいのでメール待ってます♪