前だけを… ショートショート

 

さきとこいぬ 〜試練編〜


 

>コンフォートマンション・碇家キッチン

「おにいちゃ〜ん、ご飯はま〜だですか〜♪」

「ワンワン〜、ワワワ〜ンワ〜ン♪」

 サキとワン吉が並んで椅子に座りながら、楽しそうに歌を歌う。

 そんな二人(一人と一匹)に鍋を見ていたシンジは微笑んだ。

「はいはい……もうちょっとで出来るから、待ってね」

「は〜い♪」

「ワ〜ン♪」

 

ふりふり♪

 

 元気良く返事をした二人は尻尾(サキはポニーテールだが)を揺らしてうずうずと待っている。

 背後からくる期待の視線にシンジは茹でていたウインナーを二つ小皿に上げ、それを持って振り向いた。

「はい、これ。ご飯出きるまでこれで我慢してね」

 シンジが小皿と小さなフォークを手渡すと、サキ(とワン吉)は小皿を掲げて全身で喜びを表現する。

 つまり、踊った。(ワン吉はサキの足元を駆け回っただけだが)

「わーーいっ♪ おにいちゃんこーにんのツマミ食いだーーー♪」

「ワンワーン♪」

「みんなにもうすぐご飯できるからテーブルの上かたずける様にみんなに言って来てくれるかな?」

「了解です! びしっ」

「ワンッ」

 サキは綺麗な軍事式敬礼(※マナに教わった)をすると、小皿を持ってワン吉とリビングへ駆けていった。

 キッチンでウインナーを食べなかった理由は、他の皆に見せびらかしながら食べるのだろう。

 その事に気付いたシンジは苦笑しながら、残りのウインナーを大皿に上げていった。

 

 

 

「じゃーんっ♪ 見てよっ、おにいちゃんからウインナーもらっちゃ………あれぇ?」

 サキが駆け込んだリビングには誰もいなかった。

「む〜、せっかく羨ましがらせようとしたのに〜」

 つまらなさそうにサキは口を尖らせたが、気を取り直してウインナーを食べる事にした。

「はい♪ ワン吉君の分だよ♪」

「ワン♪」

 小皿をテーブルに置き、ウインナーの片方をテーブルの上に直接置く。

「いただきまーすっ♪」

 サキは両手を合わせて挨拶を済ませると、フォークをウインナーに『ぷすっ♪』と突き刺す。

「むぅ〜、……良い匂い〜♪」

 幸せそうにウインナーの匂いを堪能するサキ。

 そしていよいよ、口の中にウインナーを放り込もうとした所である事に気が付く。

 隣を見ると、ワン吉がいなかった。

「あれ? ワン吉君?」

 良く見るとワン吉がテーブルの端に前足を掛け、じたばたとぶらさがっている。

 どうやら、子犬のワン吉ではテーブルに登れなかったらしい。

「あ、ごめん。気付かなかった」

 サキは両手でワン吉をひょいと持ち上げると、ウインナーの前に座らせた。

「はい、どうぞ♪」

「ワンッ♪」

 サキの声と共に、ワン吉が目の前のウインナーにしゃぶり付く。

 もぐもぐと美味しそうにウインナーをワン吉が齧っている所を確認したサキは自分もウインナーを食べようと………。

 ―――その時だった。

 

シャアッ!!

がちんっ

 

 突如、サキのフォークからウインナ―が消え失せた。

 サキは間違えてそのままフォークを噛んでしまう。

「むぅ!?」

 サキは瞳を白黒とさせて、周りをきょろきょろと見回す。

 ―――――と、一匹のペンギンと目が合った。

 そのペンギンのクチバシにはウインナーが咥えられていた。

「あーーー!! ペンペンがボクのウインナー取った〜〜〜!!」

 サキの批難の叫び声に、ペンペンは何か言いたげにこちらを見る。

 その視線には『私もシンジさんのウインナーが食べたいんです!』という感情がありありと見えた。

「だめっ!! それはボクのウインナ―だよっ!!」

 正確にペンペンの言いたい事を理解したサキは、ウインナ―を取り返そうとテーブルを乗り越えてペンペンに飛び掛る。

「クワッ!?」(※訳『きゃっ!?』)

 

ひょいっ

ずべしゃっ

 

 ほとんど人類最速とも思えるスピードで飛び掛ってきたサキを、これまた鳥類として信じられないほどの反射速度で身を避わすペンペン。

 目標を見失ったサキは床に顔面を思いっきり叩きつけることになった。

「モグモグ………クエー♪」(※訳『もぐもぐ………美味しいですー♪』)

 そんなサキを尻目にペンペンはウインナ―を飲み込み、勝利の雄叫び(?)を上げる。

「クワクワ、クワァ〜〜〜♪」(※訳『シンジさんのウインナーは最高です〜〜〜♪』)

「…………ぺぇんぺん〜〜〜?」

 ビクンと身体を振るわせるペンペン。地獄の底から聞こえてくるようなサキの声に恐怖を覚えたのだ。

「クワッ」(※訳『じゃっ』)

 ギギギと首をサキに向け、しゅたっと手を上げるとその場を高速離脱する。

「逃がすかぁ〜〜〜〜!!(怒)」

 

ひょいっひょいっ、すかっすかっ

 

「クワワ〜」(※訳『ご馳走様です〜』)

 サキは手を伸ばすが、ペンペンはするするとその手を避けて扉の向こうに消えていった。

 完全敗北したサキはがくんと膝を付く。

「ボ、ボクのウインナ―が………」

「クゥ〜ン………」

 うちひしがれたサキの目の前にワン吉がてこてことやって来る。

 半分になったウインナーをサキの手に乗せ、舌を出しながらブンブンと尻尾を振るワン吉。

「ワ、ワン吉君………もしかして、半分くれるの?」

「ワンッ」

「っ………ワン吉君、ありがとーーーっ!!(泣)」

 サキは泣きながら、ヨダレまみれになったウインナーを口に放り込んだ。

「んぐんぐ……美味しいよ〜♪(涙)」

 ウインナーを飲み込んだサキはワン吉を抱きかかえた。

「ワン吉君、大好きだよ〜〜♪」

 

ぎゅぅぅぅぅぅ

 

「ワゥゥゥゥゥゥ!?」

 こうしてワン吉はサキのペットになるには避けられない試練にぶつかったとさ、まる(笑)

 

 

 

 

 

>おまけ、もしくは後日談その1

「う〜んう〜ん………おにいちゃ〜ん、おなか痛いよ〜〜(泣)」

「サキ………犬のくわえた食べ物なんか食べちゃダメだよ(溜息)」

 次の日、サキは腹を壊して寝込んでいた。

 

 

>おまけ、もしくは後日談その2

「クワァ………(泣)」(※訳『うぐぅ………(泣)』)

 ペンペンは人の食べ物を盗ったとして、昨夜から食事抜きの刑に処せられていた。

 

 

サキ「続くよっ♪」



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