前だけを… ショートショート

 

さきとこいぬ 〜邂逅編〜


 

>サキ

 その子を見つけたのは、珍しくボク一人だけの学校の帰り道だった。

「今日のご飯は何だろな〜♪ たこ焼きなんかがお勧めだ〜♪」

「クゥ〜ン……」

「ほえ?」

 どこからか、悲しげな声が聞こえた気がしたボクは辺りを見回し―――道の脇に置かれていたダンボールに目を止めた。

 

ぱかっ

 

 ボクがダンボールに近づくと、独りでに蓋が開く。

 わぁっ、凄い。だんぼーるの癖にじどードアだ………。

「ワンッ」

 違った。

 ちゃんと見ると、ダンボールから小さな真っ白いワンちゃんが顔を出していた。

「わんっ?」

「ワンワンッ」 

 ボクがワンちゃんに声を掛けると、ワンちゃんは尻尾をぶんぶん振って元気良く返事した。

「わんわんっ」

「ワンワンワンッ」

「わんわんわんわんっ♪」

「ワンワンワンワンッ♪」

 分かり合えた気がした(笑)

 

 

 

 しばらくボクとワンちゃんが会話(?)していると、ほどなくダンボールの横に書いてある文字を発見する。

『僕ワン吉です』

 ………

 がーんっ

「ワンちゃん、文字書けるの!?」

「ワン?」

 しかもボクより字が上手だった。

 ちょっとショックだった。

「でも、ワン吉君か………名前、たんじゅんだね」

「ワンワンッ!」

 ボクがそう言うと、ワン吉君は抗議の声をあげてくる。

「う〜、ごめんね〜。良く考えたら、ボクも『サキエル』から最初の二文字を取って『サキ』になったんだから、他人のこと言えなかったよ」

 もしもボクがおにいちゃんに付けてもらった『サキ』という名前を、「単純だ」と言われたら怒ったと思う。

 おにいちゃんも『自分の嫌がる事を、他人にしちゃダメだよ』って言ってたし。

 反省。

「ワン?」

 ダンボールに手を付いて反省していると、ワン吉君は心配してくれたのかペロペロとボクの頬っぺたを舐めてくる。

「くすぐったいよ〜。心配してくれてありが……」

 

ベリベリィッ

 

「あ………」

 顔から血がひいていく。

 ダンボールに手を突いたままお礼を言おうとして頭を下げた所為で、ダンボールが破けたから。

「ご、ごめん。ワン吉君! 君の家壊しちゃった………」

 うぐっ……泣いちゃダメ。

 泣きたいのは家を壊されたワン吉君の方なんだから。

「ごめ……う……ごめんな……うぐっ………ぅうう、うえええんっ! ごめんなさ〜いぃ!!」

 ボクは泣きながら、ワン吉君に謝った。

 泣いて済む問題じゃないのはボクでも分かったけど、涙が止まらなかった。

「ワンッ」

「うぇぇぇ〜〜んっ」

 

 

 

1時間後。

 

 

 

ずるずる……

 やっと涙が止まったボクは片手にワン吉君を抱き、もう片方の手でワン吉君の家を引きずってうちのマンションに向かって歩いていた。

「ワン吉君……ごめんね………ぐずっ、おにいちゃんに頼んでワン吉君の家直してもらうから………」

 ずずっと垂れてくる鼻水をすすり、ワン吉君に何度も謝る。

「あうぅ………きっとおにいちゃんに怒られるよぉ………今日のご飯抜きだよぉ………」

 ちょっとだけ本音も出て来る。

「クゥ……」

 ワン吉君は心配そうにボクを見上げてくる。

 その視線はなんとなくボクに怒ってないよと言っている気がした。

「……ワン吉君、許してくれるの?」

「ワンッ」

「ぐずっ……ありがとぅ……」

 

 その時、てんめいの様にボクの目に飛び込んでくるものが合った。

 それは―――道路を挟んだ反対側のゴミ捨て場に積み重なっているダンボール。

 

「………あれっ!! そうだよ、あれ使えばワン吉君の家を新しく作れるよっ!!」

 破れたダンボールより、新しいダンボールの方がワン吉君も嬉しいよねっ♪

 ………なによりおにいちゃんに直すの頼んで、ご飯抜きにならなくて済むしねっ♪(笑)

 ボクは喜び勇んで、ガードレールを乗り越えて一直線にゴミ置き場に―――――

 

ブッブーーー

 

「―――え?」

 

 ボクの目に映ったのは、クラクションを鳴らしながら迫ってくるトラック。

 

「うにゃあ!?」

 

 咄嗟に横に飛びのくボク。

 と、手からすっぽ抜けた。

 ワン吉君のだんぼーるが。

 

グシャグシャッ

 

「馬鹿野郎!! 気ィ付けろ!!」

 トラックの運転手さんは窓からボクに怒鳴りながら、走り去っていった。

 そして後に残ったのは、無残な姿になったダンボール。

 ボクは誤魔化すようにワン吉君に笑いかけた。

「だ、大丈夫だよ! 今すぐ、新しい家を作って……」

 そう言って振り返ると、ゴミ置き場は既にサッパリと綺麗になっていた。

「え゛………」

 

ブォォォン

 

 呆然としているボクを尻目に、ゴミ収集車が走り去っていった。

「………ワン吉君の新しいお家………無くなっちゃった」

 

 3

 2

 1

 

「ワン吉君、ごめんなさ〜〜〜〜い!(泣)」

 

 

 

>シンジ

 サキが子犬とぐちゃぐちゃになったダンボールを抱いて、泣きじゃくりながら帰ってきたのには心底驚いた。

 とりあえず宥めて理由を聞いてみると、『ワン吉君の家を壊した』だそうだ。

 で、抱いている汚いダンボールがワン吉君とやらの家のなれの果てだそうだ。

 むぅ………毎回毎回、『物を壊しちゃダメ。特に他人のは』って言って来てたからな(汗)

 『おにいちゃん、直して〜』と顔を涙でグシャグシャにして、頼まれたからには修理するしかない。

 ………この破れまくった上に泥にまみれたダンボールを。

 

 

 泣き疲れたのか子犬を抱いたまま、ご飯も食べずにベットに潜り込んで寝てしまった。

 サキの頭を優しく撫でながら、僕は嬉しかった。

 良い子だね、サキ。

 さっきは少し呆れちゃったけど、この子犬のためにあんなに泣いてたんだから。

 

 

 ……さてと、ダンボールの修理は明日にするとして、今は忘れて寝ようかな(笑)

 

 

サキ「続くよっ♪」



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