スタッ

 俺は静かに地面へと降り立った。

 空を見上げる。

 そこには透き通った青。

 そして―――――

 うるさい程に炸裂するミサイルに、のっしのっしと歩く変な巨大生物があった。

 


 

ONEVA

 

第1話   こーへー、襲来  Aパート

 


 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 俺は喉が千切れんばかりに絶叫した。

 

「一体これは何だっ!? なんでミサイルが雨のように降っている!? ななぴーの襲来かっ!?」

 

 ま、待て………落ち着いて考えてみよう。

 すーはーすーはー

 俺は折原浩平。18歳

 今を輝くちょっとイケテル美男子学生さっ♪

 

「って、ちっとも落ち着いてねえェェェェ!!」

 

 待て待て。

 一人ボケ突っ込みをしてるバヤイじゃない。

 冷静に辺りを見回してみよう。

 空には溢れんばかりのミサイル。

 ミサイルの行き着く先には、七瀬を彷彿とさせる重量感溢れる動きで未確認巨大移動物体。

 ずっしずっしって訳だ。

 わっはっは。

 

ブゥゥゥゥゥゥン

 

 ん? 向こうから青い車が走ってくる?

 おいおい。絶対あれ、法定速度を50km/hはオーバーしてるぞ。

 ここは―――――

 

A.ヒッチハイクして乗せてもらう。

B.車の前に飛び出して、慰謝料を請求する。

C.すみやかにカージャック。

 

 無論、だな。

 

「おーーーい!! 止まってくれぇぇぇ!!」

 

キィィィィィィ

 

 ぶんぶか両手を振っていると何とか気付いてもらえた様でドリフトしながら停止………って、おい。

 

ガッ、ドガァァン、ガシャァ

 

 ドリフトをミスって、一回横転してから停止した。

 のろのろと中から女が、青い車から這い出てくる。

 

「い、碇シンジ君ね………」

「いや、違うぞ」

「………へ? じゃあ、あなたは?」

「善良な一般市民だ」

「ここに中学生くらいの男の子いなかった?」

「ああ、それなら……………」

 

 適当な方向をビシッと指して

 

「あっちの方にいるんじゃないか? フィーリング的に」

「フィーリング的って、何よ?」

「なんとなくって意味だ」

「………はあ」

 

 30代のおばさんに溜息をつかれてしまった。

 

「誰が30代よっ!! あたしはまだ、29なんだからねっ!!」

「なにっ!? 何故考えている事が分かった? さてはエスパーだな!?」

「声に出してたわよ!! 思いっきり!!」

「ぬぬぅ………なんて巧妙な言い訳を………」

「事実よっ!!」

 

 はあはあと、肩で息をするおばさん。

 

「誰がおばさんよっ!?」

「なにっ!? また読んだな!?」

「また声に出してたわっ!!」

「どーでもいいが、俺達そろそろ命が危険でピンチだぞ」

「へっ?」

 

どしーんどしーん

 

「きゃぁぁぁぁ!? 使徒がすぐそこまで!?」

「『きゃぁ』なんて、年を考えろよ、おばさん」

 

チャキ

 

「黙れ、このクソガキ」

「ワカリマシタ」

 

 頭に銃を突きつけられる。

 しまった。まさか、怖い自由業の人だったとは……………。

 侮れんなこのおばさん。

 

ガチャン

 

「………またまた、声に出てるわよ?」

 

 撃鉄を起こしながらにっこり微笑むおばさん。

 

どしーんどしーん

 

「はっ、こんな事してる場合じゃなかったわ! あんた、さっさと乗りなさい!!」

 

 おばさんは俺を無理矢理助手席に押し込めると、運転席に飛び乗って車を急発進させる。

 

「しまった、おばさんに誘拐された」

「あんたみたいなクソガキ、誰が誘拐するか!!」

「だけど、いいのか?」

「は? 何が?」

「いま、そこで男子中学生が必死こいて走ってたが?」

「それを早く言いなさいよ!!」

 

 

 

 

 

「貴様が碇シンジだな?」

「えぇぇ!? あ、あなたは?」

 

ボグッ

 

 間髪いれず、運転席からボディブローが飛んでくる。

 

「痛いぞ、おばさん」

「何いきなり脅かしてんのよ!!」

「ハードボイルド風に決めてみた」

「あんた、バカァァァァ!?」

 

 おばさん、アスカ化。

 ……………アスカって、誰だ?

 

「碇シンジ君ね、隣のバカは無視していいから早く後ろに乗って!!」

「やめておいた方が懸命だぞ、そこな中坊。かくいう俺もこのおばさんに誘拐されている真っ最中だ」

 

どげしっ

 

「あんたは黙ってなさい!!」

「うぐ………みたか、少年。このおばさん、見た目こそ『お水』の人だが実際は怖い自由業の人だぞ」

 

ぼぐっ

 

「さ、早く乗って」

「あ、あの………この人、白目むいてますけど、大丈夫なんですか?」

「バカは死んでも直らないって言うでしょ! これは大丈夫だから早くっ!!」

「それを言うなら『バカは死ななきゃ直らない』なんじゃあ……………それにこの場合、 使い方激しく間違ってるような気が」

 

チャキ

 

「ナンデモナイデス」

「よろしい、とっとと乗りなさい」

「ハイ(自由業って、誘拐って本当だったんだ……………)」

 

 

 

 

 

「あの………葛城ミサトさんですよね?」

「そうよ」

「あの怪獣なんですか?」

 

 『本当に怖い自由業の人なんですか?』とは聞けず、違う疑問を聞くシンジ。

 

「あれは……「ななぴー改だ」

「ななぴー………改?」

「あんた一体いつの間に「奴は乙女を求めるあまり、巨大化してしまい暴れ回るしか能が無くなった元人間のなれの果てだ」

 

げしげしっ

 

「適当な事ばっかり抜かしてると蹴るわよ、あんたっ!!」

「け、蹴ってから言うな………」

「か、葛城さん!! 飛行機が離れていきますよ!?」

「げっ、まさかN2を使う気っ!? 伏せてシンジ君!!」

 

ちゅどぉぉぉぉん

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思ったわ………」

「たいがい丈夫だな、おばさん。フロントガラスを突き破って外に飛び出したときは確実に死んだと思ったぞ」

「こんなもんで死ぬわけ無いでしょ!!」

 

 いや、きっぱり死ぬと思うが。

 

「そういや、少年は何処に行った? 死んだか?」

「うぐぅ………勝手に殺さないで………」

 

 たい焼きうぐぅなセリフを吐きつつ、後部座席から這い出してくる少年。

 

「おう、無事だったか。心配したぞ。なんせ3日間、飯も喉を通らなかったからな」

「僕達、さっき会ったばかり………」

 

 つい15分前まで『えいえんの世界』にいたから、3日どころか約一年ほど食べ物を口にしていなかっただけだが。

 

「細かい事を気にするな。男にもてないぞ」

「僕は男です………」

「ったく、さっさとNERVに戻って指揮を取らなくちゃいけないのに……………最近のガキときたら……………」

 

 ぶつぶつとおばさんが愚痴を漏らす。

 どうやらストレスが溜まっているらしい。

 きっと、自由業も中年になると大変なのだろう。

 

「ぐっ…………あんたいいかげんにしなさいよねっ!! 殺すわよ!!」

 

 おおうっ。

 どうやら、また口に出していたらしい。気をつけよう。

 しかし、殺すとはまた物騒な。

 自由業の人には逆らわないでおこう。

 

「さっきから逆らいまくってるじゃない!!」

「言ってるそばから口に出すのはどうかと思いますけど………」

「うぐぅな少年までに心を読まれるとは………、この街の人間は超能力者ばかりか?」

「僕、この街の人間じゃないです」

「そうか、人間じゃないのか。ならば、おまえはうぐぅ星人か?」

うぐぅ、人の言葉を曲解しないで下さいよ!」

「………おまえ、実はかなりノリのいい奴だろ?」

「あんたたち、黙りなさぁぁぁぁぁぁい!! それより、とっとと行くわよっ!!」

 

 いつの間に用意したのか、赤いスポーツカーに乗って俺達を呼ぶおばさん。

 

「葛城さん………その車は?」

「ちょっと、そこで徴発してきたのよ! いいから早く乗りなさい!!」

「火事場泥棒だな」

「みたいですね」

「う、うるさいわねっ!! あたしは泣く子も黙る国家公務員だからいいのよっ!」

「いいか、少年。自由業の人はみんなああ言うんだ。気をつけろよ、いつ罪をなすりつけられるかわからんからな」

「はい」

 

ずきゅーんずきゅーん

 

「さっさと乗りなさい」

「「ワカリマシタ」」

 

 ヒステリーおばさんと銃には敵わなかった。

 

 

 

 

 

「シンジ君。どうしても、こいつと一緒じゃなきゃ嫌?」

「嫌です」

 

 茜ばりにきっぱりと答える少年。

 NERVという事務所に連れ込まれそうになった俺達だったが、入り口で突然おばさんが、

『ここから先は関係者以外立ち入り禁止なのよ。だから、あんたペケ』

 と、のたまってくれた。

 どうやら、このシンジとかいううぐぅ少年の父親がここの親分をやっているらしく、少年は問題なく入れるらしい。

 気の毒な事に。

 そこで、一人で事務所に連れ込まれるのを嫌がった少年が、俺と一緒じゃなきゃ嫌だと駄々をこねているというわけだ。

 

「俺はこんな入り口が鋼鉄で出来ていて、脱出不能そうな事務所に入りたくないぞ」

「そ、そんなっ! 僕一人でこんな所入って生きて帰って来れるわけ無いじゃないですかっ!」

「俺は気にしない。存分に死んで来い」

「僕の全財産、3万円!!」

「やや、こんないたいけなしょうねんをほうっておけるものか。わたしがたすけてあげなければ」

「……………滅茶苦茶棒読みですね」

「あんたらね……………あたしの事なんだと思ってるの?」

 

 じーっと、俺と少年はおばさんの事を観察する。

 

「極道の妻Part2、おまけに年のせいで引退直前」

「(絶対に目を合わせてはいけない人種)」

 

 少年の方は懸命にも声には出さなかったようだ。

 

「こんのクソガキィィィィ!!」

 

どごすっ

 

「ぐふぅ………」

 

どさっ

 

「ふ、危ないところだった」

「あの………なんで葛城さんじゃなくて、あなたのほうが蹴り入れてるんですか?」

「俺の信条は『殺られる前に殺れ』だ」

「いくら何でも鳩尾に突き蹴りはあんまりじゃ………」

「何事も全力をつくすのは良い事だぞ」

「………」

 

 

 

 

 

「なあ、こっちで正しいと思うか?」

「……………棒倒しで道を決めてる時点で間違ってると思いますけど」

 

 まあ、よんどころのない事情によっておばさんが気絶してしまったため、事務所内を適当に進む。

 ちなみに鋼鉄のゲートは、おばさんから奪った赤いジャケットの内ポケットに入っていたIDカードでOKだった。

 

「でも………葛城さん、置いてきて良かったのかなぁ?」

「身包み剥いでゲートの外に打ち捨てるとは………なかなか外道だな、少年」

「人の所為にしないでくださいっ!! 身包み剥いだのも見捨てたのもあなたじゃないですかっ!!」

「お、あそこに人がいるぞ。道を聞こう」

「無視しないでくださいよ………」

 

 後ろでうめく少年を無視して、俺は前方で白衣を着てなにやら作業をしている女性に声をかける。

 

「ちょっと………」

「え、何かしら?」

 

 女性が振り向く……………って

 

「し、しまったぞ、少年。どうみても、まっとうな職業についてないおばさんに俺は声をかけてしまったらしい」

「ちょ、ちょっと、僕に話し掛けないで下さいよっ!! 僕まで絡まれるじゃないですかっ!!」

「(ビキッと青筋が走る)あなた達何を言っているのかしら?」

 

 金髪で白衣、おまけにその下はどうやら水着らしい。

 確実に水商売………いや、水商売あがりの『極道の妻 Part3』かもしれない。

 

「あなた、新しい薬の実験台にしてほしいようね?」

「……………もしかして、また口に出してたか?」

「ええ、それはもう大きな声できっぱりと」

 

 金髪のおばさんが何処かから取り出した緑色の薬を持ってにじり寄ってくる。

 ぐはっ! 水商売やPart3じゃなくてヤクの売人だったとは!

 

「誰がヤクの売人よ………」

「少しは反省とか、学習能力とかいう言葉はないんですか?」

 

 少年に呆れた声を出されてしまった。

 ぬう、心外な。

 

「そういえば、あなた達誰? ここは子供が簡単に入ってこれる場所じゃないのよ?」

「自分達の親分の息子の顔ぐらい知っとけ、おばさんその2」

「親分の息子って…………まさか、あなたが碇シンジ君!?」

「いや、俺ではなくてさっきから無関係面しているこっちの少年がそうだ」

「そ、その………碇シンジです。父さんに呼ばれてきたんですけど……………」

「そう………あなたが………」

 

 ジロジロと値踏みするような目で少年を見つめる金髪白衣のおばさん。

 

「気をつけろよ………このおばさん、おまえをいくらで売り飛ばせるか品定めしてるぞ」

「ええっ!?」

「そんなわけないでしょっ!!」

 

 ピポーッとばかりに茶が沸かせそうな勢いで頭から煙を吐き出しながらおばさんが叫ぶ。

 うむ、老人は高血圧が多いからな。興奮するのは危ないだろう。

 静めてやらなければ。

 

「まあまあ、こいつも悪気があったわけじゃない。許してやれ、おばさんその2」

「「あなたでしょ、言ったのはっ!!」」

「まったく、話がいつまでたっても進まないな」

「「だから、あなたの所為でしょ(ですよ)!」」

 

 はあはあ、と肩で息をする少年とエセ金髪おばさん。

 

「ま、まあ、いいわ………。それより、あなたを迎えに行った葛城ミサトはどうしたの?」

「知りません(きっぱり)」

 

 ………迷いもせず言い切るとはなかなかやるな、少年。

 

「(どうやら遅刻してすれ違ったみたいね)………それで、さっきから失礼なあなたは誰?」

「ぷりちー折原だ」

「………えと、僕の友達………みたいな物です」

「そう。だけど、あなたのお父さんの所に部外者を連れて行くわけには行かないのだけれど」

「でも………(一人になると何されるか、分からないし……)」

「……わかったわ。二人とも着いてらっしゃい」

 

 俺のナイスな自己紹介を無視して、話を進める二人。

 人の話を聞かないとは激しく失礼だぞ。

 

「「あなたにだけは言われたくないわ(です)」」

 

 ………別に言ってないんだが。

 思ってただけで。

 

 

 

 

 


 詳しい後書きはBパートで。

 ………元々一話だった物を二つに分けたのは秘密である(笑)

 


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