前だけを…

 

特別編その3   ペンペン、ちぇんじ  前編


 

>?

 私の名前はペンペン。

 碇シンジさんに飼われる、極々普通の温泉ペンギン(♀)です。

 え、葛城ミサト?

 それはご主人様で、今のご主人様は碇シンジさんなんですっ!

 そう、前のご主人様………確かに優しい方です。

 実験動物だった私を引き取り、まるで家族同然に扱ってくれました。

 でも………。

 

 ペンギンに片付けを押し付けないで下さい。

 ペンギンに朝起こす役目を頼まないで下さい。

 ペンギンにカップラーメンをすすらせないで下さい。

 

 

 私にあのカレーを食べさせないで下さい〜〜〜!(大泣)

 

 

 ……ごめんなさい。

 前の生活を思い出したら取り乱してしまいました。

 こほん、とにかくですね。今のご主人様は碇シンジさん。

 前のご主人様の隣に越してきた中学生の男の方です。

 なんでも『エヴァンゲリオン』というロボットのパイロットをしているそうです。

 あ、これは『碇サキ』さんという、シンジさんの娘さんから聞いた事なんですけどね。

 サキさんは良い方ではあるんですけど………ちょっと力持ちで、その力を上手く扱えないのが玉に傷です。

 現に私は何度か抱き潰されそうになりましたし………。

 

 ―――話がずれました。

 今話すのはサキさんの事ではなく、シンジさんの事でしたね。

 シンジさんは、前のご主人様とは比べ物にならず(比べては失礼なんですけどね。もちろんシンジさんに)家事万能、頭脳明晰、容姿端麗、人格もまったく問題無しと3拍子どころか4拍子揃っているほどの人です。

 もちろん私、愛玩動物ペットへの気配りも抜群で、前のご主人様の様に食事を忘れられた事はありませんし、それどころか毎食いろいろな物を食べさせてくれます。

 はっきり言って、ここまでで既に天国です。

 ですが………シンジさんの良い所はこれだけじゃないんです。

 

 

 

 以前の事です。

 それはシンジさんが引っ越してきて間もない頃―――まだ前のご主人様に飼われていた時の事です。

『ふ〜ふっふ〜ん♪ ペ〜ンペ〜ン♪ も〜すぐ出来るからね〜♪』

 前のご主人様はそう言いながら、底が深い鍋をグルグルとお玉でかき混ぜています。

 そうです。カレーです。地獄への片道切符です。

 しかも今ならもれなく停車駅無しの超特急列車エクスプレスって感じです。

 もちろん、こんなのいりませんとお断りしたかったです。

 でもそこは悲しい愛玩動物。ご主人様に逆らえる訳も無く、犬用のお皿にたんまりと入れられる黄色いカレー。

 えっ? 元々カレーは黄色いじゃないかって?

 甘いです。

 黄色は黄色でも真っ黄色なんです。

 まるで卵の黄身を思わせるかのような黄色………うえっぷです。

『ペンペン? 食べないの?』

 前のご主人様はグリグリとトサカを弄ってきます。

 これは食べないとトサカをペッタンコに矯正するぞという脅しでしょうか?

 なんにしても食べるしかありません。さよなら、現世。

 そんな悲壮な覚悟をしたそんな時でした―――

 

ピンポーン

 

『あれ? 鍵開いてる………ミサトさん、いますか〜?』

『あら、シンちゃん。いらっしゃい。何か用?』

 玄関から顔を出したのは、見知らぬ男の子―――――そう、今のご主人様、シンジさんです。

『ええ、ちょっと。実は今日からうちに従妹が、ってあれ? ミサトさん、この臭気………じゃなくて匂いはまさか………』

『そうよん、カレーよ♪ シンちゃんも……』

『すみません。もう夕食は吐くほど食べてきたんで。それじゃ』

 シンジさんはそう即答すると、さっさと帰ろうとしました。

 が、カレーを前に呆然としている私の方に目を向け、足を止めました。

『あの……ミサトさん、そのペンギンは?』

『あたしが飼ってるペットのペンペンよ♪ 可愛いでしょ〜♪』

『いえ………その、気のせいか……そのペンギンの前にミサトさんのカレーが………』

『ああ、あたしのカレーがペンペンの大好物なのよ〜♪』

 嘘です嘘ですっ!

 どこの世界にこんな産業廃棄物を好物にするペンギンがいるんですかー!

『なっ! こんな物、定期的に食べさせたら死んじゃいますよっ!』

『………シンちゃん? こんな物ってどういう意味?』

『い、いえっ、ミサトさんのカレーがまずいとか毒とか、言ってるんじゃなくて………ペンギンにカレーを食べさせるのはちょっと………』

『そお? 今まで何回もペンペンあたしのカレーを食べてきたけど、毎回その度に感激のあまり走り回ってたわよ』

 感激じゃないですっ! 死ぬほどまずくて走り回ってたんです!

 『クワワー!』と抗議すると、前のご主人様はともかくシンジさんには分かった様で、うんうんと頷きながら私を抱きかかえたんです。

『とにかく、カレーをペンギンに食べさせるのは駄目です。食物を動物に無理矢理食べさせるのはエゴ以外の何物でもありませんっ!』

『もお、シンちゃんはオーバーなんだから………』

『とにかくっ、この子のご飯は僕が世話します! 良いですねっ!?』

 えっえっ、逃れられるんですか!? あの恐怖の物体をもう食べなくてもいいんですか!?

 この時の私はシンジさんに抱かれながら、ちょっと混乱気味でした。

 ………せっかくシンジさんに抱っこして貰ってるのに、勿体無かったですー。

『わかったわよ………あ、シンちゃん』

『はい、なんですか?』

『ペンペンだけじゃなくて、今度私にもご馳走してね〜♪』

 ………女性として、大人として、人間としてプライドないんでしょうかね?

『………はい、いいですよ。それじゃ』

 シンジさんはそれだけ言うと、私を抱えたまま外に出ました。

 

『災難だったね、君』

 マンションの廊下に出ると苦笑しながらシンジさんが私に話し掛けてきました。

 私が『クワァ』と頭を下げると、シンジさんはちょっと驚きましたが、すぐに笑顔になってトサカを優しく撫でてくれました。

『これからはちゃんとしたご飯作って上げるからね』

『クワ♪』

 この時の優しいシンジさんの笑顔は今でも忘れられません―――――。

 

 

 

 と、いうわけで、私こと不肖ペンペンはめでたく碇シンジさんのペットになったわけです。

 えっ? ご飯の世話をしてもらってるだけじゃないかって?

 そんなことないです!

 ペンペンの身も心もシンジさんの物なんです!(ぽっ)

 ………ペンギンの悲しい所です。頬を赤く染めてもほとんど目立ちません(涙)

 

 私には、今、一つの目標、願いがあります。

 それは―――

 人間になる事、ですっ!

 ペンギンでは所詮ペット………シンジさんの隣に立つ事はおろか、話す事すらできません。

 私もサキさんやミユウさん達の様にシンジさんとお喋りしたいです。

 私もみなさんの様に一緒のご飯を食べてみたいです。

 私もサキさんの様にシンジさんとご一緒のお布団で眠ってみたいです。

 

 

 神様。

 どうか、私を―――――人間にしてください。

 

 

 と、祈るのが最近の私の日課です。

 苔の一念岩をも通す。

 きっとしつこく願ってれば、いつかは神様も叶えてくれる気になるでしょう。

 たぶん。

 

 ………ネコ好きの博士に頼むのは最後の手段ですね。

 

ひょいっ

 

「クワッ!?」

「ペンペン、こんな所にいたんだ。キッチンに一人でいないでリビングに一緒にいてくれないかな? ミユウ達が洞木さんの家に行っちゃって今、暇なんだ」

「クエェ〜」

「あ、一緒に居てくれるんだね。ありがと。じゃ、リビングに行こうか」

「クワ♪」

 

 でも、まあ、当分はこのまま一緒にいるだけでも十分幸せかも。

 ね、シンジさ〜ん♪

 

大嶋木綿「そんな健気なペンちゃんには神様じゃなくてボクが願いを叶えてあげるよ♪ えいっ♪」

きらきらりーん♪

大嶋木綿「これでシンジ君も萌え萌えだねー♪」

 

>シンジ

 ゆっくりと意識が戻ってくる。

 目に飛び込んできたのは見慣れたリビングの天井。

 ああ………そうか………眠っちゃってたのか。

「ふわあああ………」

 時計を見ると3時10分過ぎ。

 あー、さっさと買い物に行かなきゃ、夕ご飯が遅れちゃうなぁ………。

 

むくっ

ころん

 

「くえっ!?」

 僕が上体を起こすと、胸の上に乗っていた何かが転がり落ちる。

 『くえっ!?』? ………あ、ペンペンか。

「はっ、自分の上にペンペン寝かせてたの忘れてた!」

 足元まで転がり落ちた黒い物体をひょいと抱えあげる。

「ご、ゴメンね、ペンペン………って、え゛?

「くえぇ………痛いです〜(涙)」

 僕が抱えあげたのはペンペンではなかった。

 黒いスパッツを履き、上はペンギンさんのフード付きシャツを着て、目がクリクリッと丸い3・4歳の女の子。

 僕がマジマジと見ていると、女の子はぽっと頬を赤く染め、視線をそらした。

「くえぇ……。シンジさん、あんまり見つめないで下さいー。照れちゃいますよ〜」

「…………誰?」

「くえっ!?」

 女の子は僕の言葉に眼を見開いて固まる。

 そしてそのまんまるの目がどんどんと潤んでいく。

「そ、そんな、シンジさん………酷い………」

「い、いや、酷いって言われても………どこかで会ったことある?」

「くえぇぇ………」

 僕が質問すると、さらに女の子はその表情を歪めていく。

 このままでは、真ん丸な瞳に出来た涙腺が決壊するのも時間の問題だ。

 この子の様子だと、どうやら会った事があるようだ。

 考えるんだ、僕。

 

じーーーーっ

 

 女の子をさらによく観察する。

 3・4歳の女の子。

 まず僕の知り合いにこの年代はいない。

 ペンギンさんフード。

 結構珍しい服だ。この子がもしも前にあった時この服を来ていたら、頭の片隅ぐらいには記憶に残っているだろう。

 当然記憶にはない。

 ………と、ここで気がついた。

 

 あまりにもペンギンさんフードに溶け込んでいて、見逃したのだ。

 それは銀色の首飾り………いや、首輪といった方が正しいか。

 その銀色のプレートに刻まれた文字は『PEN2』。

 

 一緒に昼寝をしていた女の子、ペンギンさんフード、見覚えのある銀色の首輪、PEN2、くえぇぇ…………

 グルグルと僕の頭の中で回っていた断片が一つに繋がる。

「ペ、ペ、ペ………ペンペン〜〜〜〜〜!?

「くぇぇ♪ そうですよ〜〜♪」

 僕の絶叫に女の子―――ペンペンはにっこり微笑んだ。

 

 

 

すりすり

「くえぇぇ、シンジさ〜ん♪」

「まあ………使徒が人間になるんだから、ペンギンが人間なったっておかしくはないか………」

 ペンペンに顔をすりすりと摺り寄せられながら、自分に言い聞かせるように呟く。

 なんか、サキと………いや、ミユウと会ってから、僕の常識がどんどん何かに侵食されてる気がする。

「シンジさんシンジさん!」

 くいくいと小さな手で、服を一生懸命引っ張ってくるペンペン。

 僕が『何?』と首を傾げるとペンペンはにっこり笑顔で言った。

「私、外行きたいですっ♪」

「外に?」

「はい♪ 私ペットですからほとんど外に行った事ないんですよー」

 なるほど。ペンギンじゃ、外を自由に歩けないしね。

「外に出る時は大抵元ご主人様の車の中で、風景なんて楽しむ余裕なかったですし……」

 ウルウルと瞳を潤ませて、ペンペンが己の不幸さを嘆く。

 確かにミサトさんの車じゃなぁ………って。

「『元』ご主人様?」

「はいっ、『元』です♪」

「………今のご主人様は」

「もちろんシンジさんです〜♪」

 ………まあ、餌上げてたのは僕だから、当然といえば当然なんだろうけど。

「それで、外に行きたいんだったよね?」

 僕がそう言うと、ペンペンは顔をぱあっと明るくして、ぶんぶんと勢い良く縦に首を振る。

 よっぽど外に出れるのが嬉しいみたいだなぁ………。

「じゃあ、買い物に行かなきゃいけないんだけど………一緒に行く?」

「はいですー♪」

 

 

 

 

 

「わぁぁ………シンジさんシンジさん、あれ何ですかー? 色が変わって光ってますよー!?」

「あれは信号機。あれで車や歩行者の進むタイミングを教えてくれるんだよ」

「くぇぇ〜、いっぱい人がいますね〜」

「平日の夕方だしね」

 僕の手を一生懸命に引きながら、ペンペンはその真ん丸な瞳で辺りをきょろきょろと見回す。

 ほとんど初めて見る光景なのだから、興味を引くのは仕方ないだろう。

 まあ、ペンペンに限らず、小さい子供ってそんな感じだから気にならないけどね。

「くぇぇ………実物を見るのは初めてですけど、やっぱり本物は迫力が違いますね〜」

 街を見回しながら、ペンペンが嘆息と共にそう漏らす。

「実物を見るのは初めて? じゃあ、間接的には見たことあるの?」

「テレビで見た事があるだけですよー」

 『てへへ』と照れ笑いしながら、ペンペンはパタパタと手を顔の前で振る。

「へぇ、テレビか。ペンペンって家にいる時テレビ見たりするんだ?」

「くえぇ……シンジさん達と一緒に見てたじゃないですかー」

 ちょっと咎めるように見上げてくるペンペン。

 そういえば、ほぼ毎日僕かミユウの膝の上でテレビを見てたな。

「ああ、そうだったね………っと、そういえば………」

「くえ?」

「ペンペン………どうして人間になったの?」

 そう、今まで聞かなかったのが不思議なくらいだ(笑)

 頭が麻痺して、正常に働いてなかったからなんだけど。

「な、なっちゃ迷惑でしたか………?」

「全然そんなことないって!」

 ウルウルと瞳を潤ませて、懇願してくるペンペンに『迷惑だ』などと言える訳もなく、即座に否定する。

 ………はあ、僕って泣かれそうになると弱いよなぁ。サキといい、ミユウといい。

「たださ、どうやって人間になったか不思議に思っただけで………。迷惑だなんて、これっぽっちも思ってないよ!」

「くえぇ……良かったですー」

 僕の弁解を聞いたペンペンはほっと胸を撫で下ろした後、『んー』と顎に手をやって考え出した。

「………ごめんなさい、シンジさん。私もどうして人間になれたか、分からないんですー」

「そ、そうなんだ………」

 そういえば、サキの時も良く分からなかったんだよな………もしかして、同じ原因?

 例えば、動物の神とかがいて『なんて不憫な子じゃー。仕方ない人間に転生して、幸福になるが良いー』………とか?

 って、人間の敵と呼ばれている使徒で、初号機に乗った僕に殺されてしまったサキはともかく(う゛………自分で考えていて気分悪くなった)

 ペンペンはそんなに不幸では………。

「あのさ………ペンペン。今までの暮らしに不満なかった?」

「ないですー!」

 僕の質問にきっぱりと即答するペンペン。

「あ、でも………少しだけなら」

「え、何?」

冷蔵庫おへやが元ご主人様の所にあるのだけ、ちょっと不満ですー。あそこ汚いですからー」

「は、はは、はははははは………だから寝る時以外はうちに来てたの?」

 ミサトさん………ペットに完全に見放されてたんですね………。

「そ、それもあるんですけど………」

 ぽっと頬を赤く染め、ペンペンは急にモジモジと落ち着きを無くす。

「えと………どうしたの?」

「なんでもないですーーーっ」

 ペンペンは耳まで顔を真っ赤にすると、パタパタと足音を立てて道路を走っていってしまった。

 

 

「って、ペンペンを一人にしちゃダメじゃないか!!」

 僕は慌ててペンペンの後を追うのだった。

 

 

 

「すごーいっ、すごーいっ、すごーーーーーーーーいっ!!」

「ペンペン………嬉しいのは分かるけど、もうちょっと落ち着いて………」

 第三に設置されているショッピングセンターの中でも最大級のサイズを誇るこの『ハコネ・スペシャル(仮)』は、一階にあるホールが吹き抜けになっており、五階まである階層を全て貫通して青空が見えるという画期的かつ斬新なデザインが有名な場所だ。

 ペンペンはただでさえ真ん丸な瞳をさらに見開いて、先ほどからホールの吹き抜けを見上げながらクルクルと回っている。

 うちの近く(郊外)にあるスーパーとは違ってかなり遠い場所にあるが、予想通りペンペンが喜んでくれたので良しとしよう。

「建物の中なのにお空が見えますーーー! それにとっても広いですーーーー!」

 空に向かって叫ぶペンペンを見て、僕はある事を思い出して苦笑した。

 そういえば、初めてサキが来た時同じ事したっけ。

 あの時は………

「おっきいいよぉぉぉぉぉ!」

 ああ、そうそう。こんな感じに叫んで………えっ!?

 僕が慌ててそちらを振り向くと、見慣れたポニーテールをブラブラさせ、頭の上に白い物体を乗せた女の子の後ろ姿が。

「………なんでここにサキが?」

 洞木さんのうちにミユウ達と遊びに行った筈じゃ? ………とにかく声を掛けてみれば分かるか。

「おーい、サ……」

 呼びかけ様とした僕の声は、ペンペンがぐいぐいと手を引っ張る事で止められた。

「ど、どうしたの?」

「早く行きましょう!」

「でも、サキが………」

「サキさんにはサキさんで用事があるに決まってます。私達は私達で楽しむんですー!」

 何故かペンペンはそう強固に主張して、僕をその場から無理矢理引っ張っていく。

 ペンペンの小さな手を振り払うわけにもいかず、結局ホールを黙って後にする僕だった。

 ………まあ、ペンペンの言う通り、サキも何か用事あってきたんだろうし大丈夫だろう。

 

 

 

>サキ

「おっきいいよぉぉぉぉぉ!」

 ふぅ、すっきりした♪

 お空に向かってひとしきり叫んだボクは、気を取り直してポケットに入っているメモを取り出した。

「む〜………ぽてとちっぷす5袋に………缶ジュース10本………それに好きなアイスを6個………多いよ〜」

 『足の速さと力の強さを考慮した結果、買い出しはサキに決定!!』なんてあーちゃん言うんだもんなぁ……ズルイ〜。みんなも即座に賛成するし〜。

 そんなこんなで納得して(させられてとも言う)外に飛び出したのは良かったんだけど………む〜、良く考えたらヒカリのうちからコンビニに行った事なかったっけ。てへっ。

「それで道に迷ってココに着いちゃうなんて、はらんばんじょーだよね〜」

 『ね?』と同意を求めるように頭の上に視線を向ける。

「ワンッ」

 ボクの頭の上に前足をしっかり掛けてしがみ付きながら返事をしたのは、つい最近ボクの友達兼家族になった仔犬のワン吉君だ。

(※ショートショート『さきとこいぬ』を参照のこと)

 

「…ど……した…?」

「……く……行きま……!」

 

「………あれ?」

 ボクは振り向いて、周りを確認するが何も見つからない。

 むー………おにいちゃんの声が聞こえた気がしたのに………聞き違いだったのかなぁ?

「まあ、いいや。早く買って帰らないとあーちゃん恐いしね〜」

「ワンッ」

「分かってるよ〜♪ 帰りにたこ焼き買ってこうね♪」

 まだ見ぬたこ焼きを想像しながら、地下の食品売り場に向かってボクは歩き出した。

 

 

 

「………ねえ、ワン吉君。階段ってどこだっけ?」

「ワン?」

 あっさり迷子になった(涙)

 

 

 


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