前だけを… ショートショート

 

ごっこあそび


 

>シンジ

「だめっ! こんな所で眠っちゃ駄目よ! 眠ったら死んじゃうわ、サキ!」

「ごめん、マナ……ボクもう駄目……無事に帰れたら、おにいちゃんにボクは幸せでしたって……つた……えて………」

「サキー! サキィィーーー!」

「………なにやってるの、二人とも?」

「「雪山に取り残された二人、絶体絶命遭難ごっこ」」

 

 リビングの机の下に潜り込んでる二人を呆れ顔で見る僕。

 二人は僕を見上げて、不満そうな表情をした。

 

「シンジー、人間子供心を無くしたらお終いよー」

「マナとサキは子供心でいっぱい過ぎるよ」

「おにいちゃーん、たまには『どーしん』に帰って遊ぶのも楽しいよっ♪」

「………サキ、己を知ってそれを言ってる?」

 

 なんだか頭痛を覚えながら、二人に言葉を返す。

 いや、まあ……子供っぽく遊んでくれるのは、二人の生い立ちから考えると嬉しいんだけどさ………。

 子供心や童心に帰りっ放し・・・・・になってないで、たまには大人しくしていて欲しい。

 

「ねーねー、おにいちゃんも遊ぼうよっ♪」

「まだ、一杯これからやる事が……」

 

 洗濯物のアイロン掛けや晩御飯の支度、それに服の繕い物なんかもあったなぁ。

 

「それよっ!」

 

 急にマナが立ち上がり、どびしぃっと僕を指差してくる。

 

「人を指差さない」

「あ、ごめんー」

「分かればよろしい。じゃあ、僕は忙しいから……」

「って、違う〜〜!」

 

 ちっ、誤魔化しきれなかったか(笑)

 マナは再び仁王立ちし(律儀に指は人に指して来なかった)、おもむろに言い放った。

 

「今シンジに足りないのは、まさに童心よー!」

「わぁぁ、その通りだよっ、マナ♪」

「そうよねっ、サキ♪」

 

 ハイテンションに両手を打ち合わせるマナとサキ。

 ……僕にどんな反応をしろと?

 

「つまり……何をすればいいの?」

「決まってるよっ」

「シンジがするのは………」

「「ごっこ遊びよー(だよっ)!」」

 

ババーン

 背後に効果音を背負ってサキマナが叫ぶ。

 あ、後ろに『ババーン』と書かれたプラカードを持ったペンペン(ペンギン型)が。

 

「遊べって事? ……だから、忙しいんだってば」

「うぅ、サキ……シンジはわたし達と遊ぶなんて家事をする時間を裂く価値もないんだって〜」

「お、おにいちゃん……酷いよっ」

 

 う゛。

 目薬を後ろに隠し持ってるマナはともかく、サキの方は半ば本気で泣きそうになってるし。

 これは……遊ぶしかないって事?

 

「……一時間だけだからね」

「「やったぁーっ♪」」

 

 手放しで喜ぶサキとマナ。

 これぐらい喜んでくれるなら、まあいいかな。

 

「うーんうーん、何ごっこしようかなっ?」

「決まってるわよー♪」

 

 サキが頭を抱えて(オーバーリアクションに本当に頭を抱えて)悩むサキに、マナがピンと人差し指を立て、

 

お医者さんごっこを……」

「待たんかぁぁぁぁ!!」

「え〜、そんなのつまんないよっ」

 

 子供の遊びだが、ある意味大人な遊びのマナの提案を、サキが口を尖らせて拒否する。

 よ、良かった………もし、サキが賛成したら、なんで反対なのか理由を説明しなきゃいけない所だった……。

 

「お医者さんごっこより、ボクは兄と妹、禁じられた遊びごっこの方が……」

 

ズガシャーーーーンッ

 テーブルを巻き込んで引っくり返る僕。

 そして、こそこそと部屋から逃げようとしていたマナの足首をガツッとしっかり掴む。

 

「……マナサン? サキに何を教えやがりましたか、ゴラ゛」

「シ、シンジー、誤解よー。わたしはこの件に関してノータッチよー」

「ミユのベットの下にそういう本があったんだよっ♪」

「「………」」

 

 ミユウ………(汗)

 一回、ミユウの部屋家捜ししといた方がいいんだろうか?

 というか、少なくとも『それ』はサキの教育上悪すぎるんで、あとで処分決定。

 

「まったくもー。シンジはあれも駄目、これも駄目って、そんなんじゃダメダメだよー? 全然童心に帰ってなーい!」

「そうだよっ、だから兄と妹、禁じ…」

「サキ、それはもういいから」

「ほらー、こー、サキみたいに子供らしく欲望一直線にならないと」

「む〜、ボク子供じゃないもん!」

 

 いや、突っ込む所そこじゃないし。

 まあ、確かにやりたいことだけをやろうとするのは、子供っぽいのかもしれないけど。

 マナとサキは好き勝手に色々意見を出すけれど、どれもこれも怪しげで到底出来そうにもない遊びばっかりで。

 まったく……ミユウ達が帰ってくる前にやらなくちゃいけない事はいっぱいあるのに……。

 ………………あ、そうだ。

 

「じゃあ、こういうのはどう?」

「「なになにー?」」

「若奥様ごっこ」

 

 僕がにっこり笑って言った台詞に、二人は顔を赤らめて即座に首を縦に振るのだった。

 

 

 

 

 

「詐欺ー! 詐欺よー! 詐欺罪で禁固刑15年よー!」

「詐欺罪は禁固刑10年未満だったと思うけど?(ふきふき)」

「むきゃー! そういう事言ってるんじゃなくてー! それになんでそんな事知ってるのー!?」

「若奥様ー♪ ボクはわっかおくさまー♪(かちゃかちゃじゃばじゃば)」

「サキは騙されっぱなしだしー!」

 

 サキとマナはエプロンを着けて、大量の使用後食器の前に居る訳で。

 僕はテーブルを拭きながら、文句を言うマナににこやかに告げた。

 

「マナ、手が止まってるよ?」

「うぇぇー! こんなの若奥様ごっこじゃないー! 第一、シンジも旦那様役さっきから全然してないじゃないー!」

若奥様ごっこ・・・・・・だからね。僕も若奥様って事で」

「納得いかないー!」

「わっかおくさまー♪ わっかおくさまー♪(がちゃがちゃばしゃばしゃ)」

 

 サキも喜んでるし、家の用事も早く終わるし、一石二鳥。

 マナ?

 ………まあ、たまには家事の大変さを知ってもらっても良いでしょ?

 

 

サキ「目次に戻るよっ♪」



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