犬は順位付けする動物だというのを皆様はご存知だろうか?
ペットとして飼われている犬でもそれは変わらず、基本的に食事を与えてくれる人を頂点に置く。
そして、後は犬自身で周りの環境をよく観察し、自分より格上と格下の存在を見つけるのだ。
>碇家・キッチン
「シンジィ〜♪ ………って、あれ〜? ミユウ、シンジは?」
キッチンにスキップしながら顔を出したマナは、シンジがいない事に気がつき、テーブルで漫画本を読んでいるミユウに尋ねた。
「知らないよ。たぶん、買い物じゃない?」
ミユウは漫画本から顔を上げずに答えると、隣で同じく本を読んでいた―――ただし、こっちは文学小説だが―――レイが口を開きミユウの答えに補足する。
「………いつものスーパーでバーゲンセールだって」
「ええー! レイさん、それほんとー?」
「………ええ、本当。一時間前にサキを荷物運び要員に引き連れて行ったわ」
「サキをわざわざ連れていったって事は、まとめ買いする気かー………じゃあ、あと1時間は帰って来ないのかぁ………」
結構当たってる予測をしながら、マナはつまらなさそうに近くの空いている椅子に座る。
「それじゃあ、アスカさんはどこに行ってるか知ってる?」
ミユウが持っている漫画本を奪う機会を密かに狙いながら、質問するマナ。
「知らない」
「………私も」
「ちぇー………いたら、格闘ゲームでもしようと思ったのにー。つまんないなぁ」
暗に二人に『格闘ゲームやろうよ』と誘うがさくっと無視される。
なにやら悔しいので、悪戯でもしてやろうと頭をひねっていると―――ミユウの方からマナに話しかけてきた。
「ねえ、マナ?」
「なにー?」
「ずーっと前から疑問に思ってたんだけど………なんで私とサキちゃんは呼び捨てで、レイとアスカはさん付けなの?」
その質問にマナばかりか、本に没頭していたレイまで首を傾げる。
「………むー?」
「サキちゃんの真似しないで。………ほら、私の呼び方は『ミユウ』なのに、レイは『レイさん』でしょ?」
「ああ、そういうことー」
なるほど納得と言った感じで頷くマナ。
―――と、質問された内容を考えると、マナ自身も分からない。
「ん〜〜………」
頭を90°まで傾けて悩むマナに、ミユウとレイは本を読むのを止めて興味深げに視線を注ぐ。
「なんていうか、強そうだから?」
がくぅ
マナの答えにミユウは思わず脱力してテーブルに突っ伏す。
「………強さなら、ミユウの方が上だと思う」
ポツリと言うレイにマナも『そうだよね〜』と頷く。
「でも、なんていうか………私の本能がそう叫んでる気がするのよー。なんていうか、私より上にいる人間っていうか」
「それじゃあ、私は下にいる人間なの?」
「あははー、そんなことないよー♪」
ちょっと睨みを利かしてミユウが凄むと、マナはどこかのお嬢様チックに笑って誤魔化す。
「ミユウはその………同格かなー?」
「同格………ねぇ」
「ちなみにサキは下よねー♪」
「「なるほど」」
その言葉に思わず納得してしまうミユウとレイ。
「あ………それじゃあシンジ君は? 呼び捨てだけど」
「シンジ? シンジはね〜………」
ガチャ
「ただいまー」
「ただいまーーっ♪」
「おかえりシンジーーーー♪」
玄関から聞こえてきたシンジとサキの声に玄関に向かって一目散に走り出したマナを、ミユウとレイは少々呆れながら顔を見合わせる。
少しの沈黙の後、ミユウが肩を竦めながら言った。
「………ご主人様ってとこ?」
犬は周りに順位付けを施す。
………この話がそれと何か関係があるのかは永遠の謎である。