前だけを… ショートショート

 

せいたいもしゃ


 

>サキ

『えー、次はドラえ○んいきます』

 ボクはテレビに穴が空くほど熱心に見続ける。

 なぜなら、今現在テレビではせいきのだいはっけんとも言えるほど凄い事をやっていたからだ。

『こんにちは、僕ド○えもん』

 ものまね? ううん、違う。

 『せいたいもしゃ』という人の声をコピーする技らしい。

 もしもこの技をボクが使えたらどうなるだろう?

 

 ……………(想像中)

 ……………(想像中)

 ……………っ!?(終わり)

 

 凄い、凄すぎる。

 この技が使えればせかいせーふくも夢じゃない。

 

ババッ

 

 ボクは辺りを見回し、誰もいないことを確認する。

 うんっ、この事はボクしか知らない。

 万が一誰かにこの技を知られたらピンチだ、せかいがせーふくされてしまう。

 

「あ、あ、あーーー」

 

 むー………軽く練習して見るけど、全くできない。

 ボクの口から出てくるのはいつもの声だけで、テレビの人のようにはいかなかった。

 せっかくこの技の事を知ったのにできないんじゃ意味が無い。うぅぅー。

 と、いきなりTVの画像が切り替わり、金髪で白衣を着た女の人―――顔は真っ黒のサングラスで隠されている―――がアップで映し出される。

 むー? さっきの『せいたいもしゃ』のせんせーは?

 

『どうでしたでしょうか、この声帯模写の妙技。そう簡単にできるものではありません』

 

 うん、出来なかった。

 

『しかぁーし、この………(ごそごそ)………声帯複写発声装置、別名『声マネール君3号』があれば、どなたでも好きな声が出せるという優れものです!』

 

 え、えええええっ!?

 凄いよぉぉぉぉっ!

 欲しいよっ、どこで売ってるのっ!?

 

『0120−△△−○×□○にお電話して頂ければすぐにでもお届けします』

 

 ぜ、ぜろいちにーぜろ……メモメモっ!(あせあせ)

「あ、そういえば値段はいくらなのかな?」

 ボクがそう漏らすと、まるでそれに答えたかのようにテレビの人が声を張り上げる。

 

『今ならなんとっ! 特別価格1000円でご奉仕しますっ!』

 

「せ、せんえんっ!?」

 

『どうです安いでしょう。こんな値段、実験台じゃなきゃ………げふんげふん、今だけしかこの値段はありえません!』

 

「ど、どうしよう………たこ焼き3箱分………ボクに買える金額じゃないよぉ………」

 財布(おにいちゃんが縫ってくれたワン吉君の顔の形をした財布)を開き、中にたった一つだけ残った100円玉を見て涙ぐむ。

 

『…………』

 

 何故かテレビの人が頭を抱えて蹲っている。

 だけど、すぐに立ち直ってもう一度声を張り上げる。

 

『え、ええー! 今から10分間、タイムサービスで値段が下げられて100円になりました! お買い得です!』

 

 わぁ♪ ボクにも買えるっ♪

 

『さあ、急いで0120−△△−○×□○にお電話を!』

 

 ボクは大急ぎで玄関の前にある電話まで走っていく。

 えーと………ぜろいちにーぜろ……さんかくさんかく………まるばつしかくまるっと。

 

プルルルル、プルルルルル

ガチャ

 

『はい、赤木でげふんげふん、もとい声帯複写発声装置開発研究所です』

「名前長い………じゃなくて、あのっ、ボク声マネール君さんごーが欲しいんですけど!」

『分かりました、声マネール君3号ですね?』

「う、うんそれでうちの住所は………』

 

ピンポーン

 

 その時、突然いんたーほんの音が鳴り響く。

 ボクは『今、忙しいのに〜』と思いながら、受話器を持ったままドアを開け―――

 

ガチャ

 

「お待たせしました。声マネール君3号です」

「………す、凄いーーー! 2秒で届いちゃったーーー!」

 

 それも持ってきたのテレビに出てた人だしっ!

 

「はいっ、100円だよっ」

 白衣を着た女の人の手の平にころんと100円玉を転がす。

「ご注文ありがとうございました」

 女の人はボクの手に小さなダンボールを押し付けると、物凄いスピードで走り去っていった。

「わーいっ♪ これでボクも『せいたいもしゃ』が使えるんだぁ〜〜〜♪」

 

ガサガサッ

 

 早速箱を開けると、中から小さなメガホンが出てくる。

 むー、どうやって使うんだろ?

 あ、説明書がある。

 なになに………。

 

 

 

>シンジ

「マ、マナ、どうしたの?」

「へっ、シンジ?」

 僕が買い物を済ませ帰宅すると、何故かマナが廊下にうつぶせに寝そべっていた。

 声を掛けると、マナは不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。

「あれー? シンジ、今さっきここを通らなかった?」

「僕は今帰ってきたばっかりだけど………」

「でも、さっきシンジが『マナ、伏せ!』って言ったからずっと伏せてたんだよー」

「………犬じゃないんだから伏せないでよ」

 頭痛を覚えながら、マナに手を貸して立たせる。

「おかしいなー、確かにシンジの声だと思ったのにー」

 首をかしげながらぶつぶつと呟くマナを連れてリビングに行くと―――

 

「………あ、綾波?」

「………何?」

「何って………お玉持って何してるのさ?」

「………碇君がお玉持ってリビングに来いって」

「言ってないよ?」

「………30分も待ったのに」

 心なし瞳が潤んでいる気がする。

「え、えーと………ありがと、綾波」

「………どういたしまして」

 ほんのり頬を赤く染めた綾波が渡してきたお玉を、苦笑しながら受け取る。

「ずるい〜、私は一時間も伏せしてたのに〜」

「するなよ」

 マナに裏手突っ込み。

「それにしてもマナに続き、綾波まで………僕のドッペルゲンガーでも出没してるのかなぁ?」

「………?」

「あのね、レイさん。実はね………」

 訳の分からない綾波にマナが事情を説明している間、僕は部屋を見回し―――ぐちゃぐちゃになった箱を発見した。

 なんだこれ………?

 持ち上げると、はらりと紙が落ちた。

「『声マネール君3号取り扱い説明書』?」

 これで誰かが悪戯したのか………こういう事を一番やるマナは第一の犠牲者(笑)だったし…………。

 ということは―――

 

「サキちゃーーーんっ! それよこしなさいーーー!」

「バカサキ待ちなさいーーー!」

「やだもんねーーー!」

 

 ………ビンゴ。

 遠くでミユウやアスカ、それに首謀者と思われるサキの声が聞こえて来る。

 頭痛が一段階酷くなった気がした。

 

 マナと綾波を引き連れて、僕の部屋を覗いてみるとサキが小さなメガホンを抱えて、ミユウとアスカに追い詰められていた。

「サキちゃん………よくも悪戯してくれたわね………さっさとそれをこっちに渡せば許してあげるよ………」

「あかんべー。これボクのだもん」

「ミユウ、んな事言ってないでさっさと力ずくで奪うわよっ!」

 サキの態度に腹を立てたのか、アスカがサキに飛び掛る。

 

ひょいっ

 

「ちぃ! さすがに無駄に素早いわね!!」

「むー、必殺おにいちゃんあたっく! 『アスカ! ミユウ! サキをいじめちゃダメじゃないかっ!』」

 

びくっ

 

 サキの口から放たれた『僕の怒りの声』にミユウとアスカの二人はぎしりと止まる。

 が、当然いくらなんでも偽者だと分かっているので騙されはしないだろう。

「ふ、ふんっ、シンジの声で言ったって無駄よ!」

「そうよ、サキちゃん!」

「『アスカとミユウ、今日の晩ご飯抜き』」

「「ごめんなさい(土下座)」」

 早っ!

 というか、騙されないでよ二人とも(汗)

 アスカとミユウの二人は土下座してから、はっと正常な判断を取り戻して慌てて顔を上げる。

「し、しまったわ………思わず条件反射で………」

「なんて恐ろしい兵器なの………」

 条件反射って………パブロフの犬?

「ふっふーん、せいたいもしゃの恐怖思い知ったかー。あっはっはー」

 得意げにサキは悪役の如く高笑いを上げて―――――僕にメガホンを奪われた。

「だ、誰!? ……………ひぃっ、おにいちゃん!?」

「サキ………今日の晩ご飯抜きね(本家)」

「そんなぁーー!(泣)」

 

 

 

 その日の夜―――

「『ワン?』」

「はい、サキ。ご飯だよ」

「サキちゃん、こっちのウインナーも美味しいよ〜」

「『ワンワン♪(もぐもぐはむはむ)』」

「ふえええええんっ、サキはボクだよぉぉぉぉぉ!(大泣)」

 夕食の席には、メガホン(サキの声帯仕様)を首に付けたワン吉が着いていた。

 

 

サキ「えぐえぐ………目次に戻るよ〜(涙)」



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