前だけを… ショートショート

 

一生やってろ


 

>アスカ

 それはアタシがミサトの家に住み着いて、まだ数日しか起っていなかった頃の話だ。

『シンジ君のばかぁぁぁぁぁぁ!!』

 

ドゴスッ

 

『ぐええええ!!』

 台所から景気良く聞こえて来る絶叫と鈍い音。

「アイツら、ほんと懲りないわね………アタシが来てからもう何度目よ?」

「うーんとね、14回目だと思うよ」

「アンタもいちいち数えてるんじゃないわよ」

「む〜、あーちゃんが聞いたから答えたのに〜」

「あーちゃんはやめろって言ってるでしょ」

 アタシの前でパンを齧りながら文句をブー垂れているのは碇サキ。

 ここの家主碇シンジの兄妹ではなく、従妹らしい。対して差はないけれど。

 見た目は完全に小学生、中身はほとんど幼稚園児のコイツはなんとアタシと同い年だ。

 

「良く飽きないよね〜」

 セリフとは裏腹に、非常に楽しそうにのたまったのは霧島マナ。

 元戦自の脱走兵の癖にサードのシンジに拾われて、第三に亡命してきた奴だ。

 当初はスパイだとも思ったが、蓋を開けてみればなんてことのない唯のバカだった。

 体力、技術的にはともかく、性格的にスパイは無理だろう。

 

「………いつもの事だから」

 興味無さそうな口調で言った割に、ちらちらとキッチンの方を窺っているのはファーストチルドレンの綾波レイ。

 一見………というか、じっくり見ても冷静冷血無表情のレイだけど、その実この面々の中でもずば抜けて大人気ない。

 なんというか、根性が子供だ。本当に冷静な人間は朝食の味噌汁を飲まれた位で、仕返しに三日三晩枕元で陰気な歌を歌い続けたりはしない。

 ………補足して置くと、味噌汁を飲んだのはミサトである。

 

 で、今話題に出た二人の事なのだが………。

 

ドスドスドス

 

「ふんっ……シンジ君のばかぁ………」

 床に穴を開けんばかりに足音を立てて歩いてきたのは、如月ミユウ。

 最近まではレイの次に反りが合わなかったのだけど………まあ、付き合ってみれば話も分かるし、結構良い奴である。

 台所で転がっている筈のサードチルドレン碇シンジの事になると、人が変わった様に短慮短気単細胞になるのを除けば、だが。

 

「シンジも良く、あの蹴りを食らって怪我しないよね〜」

 マナがミユウに聞こえないように耳打ちしてくる。

「そうね」

 相打ちを打ちながら、ミユウの奴を観察する。

 まだぶちぶち文句を言いながらソファに座り込むミユウは、とてもじゃないが近寄りがたい。

 こいつの格闘技の腕前はアタシ以上でしょうね………呆れるわ、ほんとに。

 

 ―――と。

 

「………」

 今までブツブツ文句を垂れていたミユウは、ふっと黙り込んで俯いた。

「今度は何だと思うー?」

「アンタ、楽しんでるわね………?」

 楽しそうに観察しているマナから、アタシは以前から一緒に暮らしているレイとサキの方に視線を向ける。

「レイ、サキ。あれ何か、分かる?」

 アタシが質問すると、レイとサキは一瞬視線を交わし………しらけた表情で口を開く。

「あのミユに何言うのも馬鹿らしーから、放っておいた方がいいよ」

「………無視」

「はぁ?」

 レイはともかく、あのサキまでもが馬鹿馬鹿しいとばかりに吐き捨てた。

「だから、あれ。なんなのよ?」

 ミユウの方に視線を戻すと、今度はテーブルに突っ伏している。

 しつこく聞いてくるアタシを煩そうに見たレイはポツリと言った。

「………良く耳を澄ませば分かる」

「一体なんなのよ………」

「耳を澄ませばいいのねー?」

 いくらか好奇心をそそられたアタシ(とマナ)は、テーブルに突っ伏しているミユウの方に耳を傾けた。

 

「……しよう………」

「………どうしよう………」

「シンジ君をまた蹴っちゃったよ……嫌われちゃうよ……ああ、私のばかばか………」

 

「「………はい?」」

 突っ伏したミユウから聞こえて来る呟きの内容に、思わずアタシとマナは間抜けな声を上げる。

「………どういう事よ?」

「………ミユウは碇君を蹴った事に死ぬほど後悔してるだけ」

「後悔って………ミユウがシンジを蹴るなんて、いつものことじゃないワケ?」

「………そう、いつものことよ。そして、いつも蹴った後に後悔してるの」

 

 ………………

 ………………

 

「「馬鹿?」」

「だから言ったじゃん。馬鹿らしーって」

 再びはもるアタシとマナに、サキが面白く無さそうに口を尖らす。

 

ガバッ

ダダダダダダッ

 

 急に顔を上げたかと思うと、慌しく台所に駆けていくミユウ。

 

『シ、シンジ君………ごめんなさい!』

『ミユウ………僕の方こそ、ごめん………僕はまた、何か怒らせるような事しちゃったんだろ?』

『そんなことないっ……私が我がままだったから………』

『手………貸してくれる? 起き上がれないからさ……』

『うん………ほんとにごめんね』

 

「「「「「……………はあ」」」」」

 

 アタシ達は顔を見合わせると同時に、溜息をつくのだった。

 

 

 

 

 

>深夜・ミユウ&サキ(いないけど)の部屋

「僕に延髄蹴りをするミユウなんて嫌いだ。僕に後ろ回し蹴りをするミユウなんて嫌いだ。僕に―――」

「う〜ん、う〜ん………(汗汗)」

 憂さ晴らしとばかりにミユウの枕元で、そんな事を呟く青い髪の人影がいた事は秘密である(笑)

 

 

 

 

 

>朝・シンジの部屋

「お願い! 嫌いにならないでシンジ君!! 私、シンジ君の言う事ならなんでもするからぁ〜〜!!(涙目)」

「なっ、なっ、なぁ〜〜〜!?(真っ赤)」

 それが裏目に出た事はさらに秘密である(爆)

 

 

アスカ「やってられないわね………ったく。さっさと目次に戻るわよ」

 



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