前だけを… ショートショート

 

さきとこいぬ 〜決別編〜


 

>サキ

タッタッタッタ

「たこ焼き〜♪ あつあつ美味しいたこ焼き〜♪ 甘くて美味しいたこ焼き〜♪ ほくほく美味しいたこ焼き〜♪ あおのり利いてるたこ焼き〜♪」

 ほっぷ(5メートル)、すてっぷ(5メートル)、大じゃんぷ(10メートルは飛ぶ)

 

 やっほー♪ サキだよっ♪

 今、ボクはいつものたこ焼き屋さんに向かってるんだ♪

 飛ぶように走る今のボクは『じそくひゃっきろ』ぐらい軽いよっ♪

「クゥゥゥゥン……」

 ボクの腕に抱かれているワン吉君が情けない声を出す。

「む〜、ワン吉君。男ならガッツだよっ。女もガッツだけど」

「クゥンクゥン」

 ぶんぶんと首を横に振るワン吉君。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ♪ もうすぐ着くからね〜♪」

「クゥゥゥゥン!」

 

 

 

「とおちゃく〜〜〜〜!!」

 

ズザザザザザザ

 

 ボクが急ブレーキをかけて停止すると、靴と地面が擦れて火を吹いていた。

(※ボクの靴は特別製だから全然大丈夫♪)

「わぁ、ばっくとぅ・ざ・ふぃーちゃーみたいだねっ、ワン吉君♪」

 と、腕の中のワン吉君を見るとフルフルと震えて反応なし。

「む〜、無視しないでよ〜」

「…………(ふるふる)」

 ワン吉君はしょうがないな〜。

 ボクがワン吉君を抱いて突っ立っていると、たこ焼き屋さんのおじさんが屋台から顔を出す。

「おおっ、サキちゃん。いらっしゃい」

「あ、おじさ〜ん♪」

 ボクが屋台の前まで駆け寄ると、おじさんは笑顔でたこ焼きを作っていた。

「今日、いつものお兄さんはいないのかい?」

「うんっ! 今日はボクと………」

 ワン吉君をずいっとおじさんに突き出して見せる。

「このワン吉君と一緒に来たんだよっ♪」

「ワンッ」

「そうかそうか、それでたこ焼きいくついるんだい?」

「えーとね、えーとね………」

 ボクは家を飛び出してから、ずっと右手に握っていた500円玉(ずっと力いっぱい握っていたからちょっと歪んでいる)を差し出す。

「はいっ! これで買えるだけ………」

 そこまで言って気付いた。

 『たこ焼き8個入り1箱380円』

「500−380=………120円だから………む〜、2箱買うには260円も足りないよ〜(泣)」

「ははっ、1箱だね」

 おじさんはボクの手のひらから500円玉を取ると、たこ焼きを箱に詰め出す。

「む〜、ごめんね。ワン吉君。二人で半分こだね」

「ワンワンッ」

「ほら、サキちゃん。出来たよ」

「わーいっ♪」

 差し出された袋をボクは喜んで受け取る。

 1箱しか買えなかったのは残念だけど、それでもたこ焼きは美味しいもんねっ♪

 早速食べようと袋を覗き込む。

「あれ………おじさん、2箱あるよ?」

「サキちゃんはお得意様だからね。2箱500円にまけとくよ」

「………あ、ありがとっ、おじさん♪」

 やったやったやったよ〜〜♪

 2箱2箱〜〜〜〜〜〜♪

 早くお家に帰って食べよ〜〜っと♪

「ワン吉君もお礼言って!」

「ワォ〜ン♪」

「これからもご贔屓に」

 おじさんは笑顔でそう言って、手を軽く振った。

 

 

 

「おじさん、良い人でよかったね〜♪」

「ワンッ♪」

 テコテコと帰り道を歩くボク。

 左手でワン吉君を抱き、右手にたこ焼き。

「う〜ん、良い匂い〜♪ は〜やく、帰って食べたいね〜♪」

「ワンワンッ♪」

 右手からホクホクとたこ焼きの良い匂いが伝わってくる。

 マヨネーズとソースの匂いが混ざって……こうほわわーんと………。

 

ぐびびっ。

ごくん

 

 タイミング良く、人っ気があまりない公園が目に入る。

「………ワン吉君………ここで食べていこうか♪」

「ワンッ♪」

 

 

 

 ベンチに腰掛け、袋からたこ焼きの箱を取り出す。

 

パカッ

ほくほく

 

「…………………はっ! あまりの良い匂いに思わずとりっぷしちゃったよ」

「ワンワンッ!」

 ワン吉君が『早く食べようよ』とばかりにボクの服の裾を噛んで引っ張っる。

「うん、そうだねっ♪」

 ボクは袋に一緒に入っていたつまよーじを取り出して………

 

ぷすっ

ぱくん

もぐもぐ

 

「………美味しいーーーー! もうボク死んでも良いよぉぉぉ〜〜〜!!」

 ぶるんぶるんと首を振りながら全身で美味しさを表現するボク。

 だって美味しいんだもん!

 ワン吉君もたこ焼き一つを前足2本で押さえながら、かじり始める。

 

はむはむ

 

「どお? 美味しい? ワン吉君」

「ワンッ♪」

「良かった♪」

 

ぷすっ

ぱくん

もぐもぐ

はむはむ

ぷすっ

ぱくん

もぐもぐ

はむはむ

 

 

 

 あっという間に1箱無くなる。

「2箱あってほんと良かった〜♪ おじさん、ありがと〜♪」

「ワゥ〜ン♪」

 

 そうして2箱目を取り出した………その時だった。

 

「リッキー!」

「ほへ?」

 声の方を向くと、そこには金髪の(あーちゃんと違ってちょっと汚い色)男の人がこちらを見ていた。

「ああ、今まで君がリッキーの世話をしてくれてたんだ」

 ニヤニヤと笑いながら近づいてくる男の人。

 ちょっと笑顔が気持ち悪い。

「リッキー?」

「その犬だよ。俺の犬なんだ。返してくれないか?」

「え……………」

 リッキーって………ワン吉君の事!?

「この子はワン吉君………」

「ほんとの名前はリッキーつってね。先週、ちょっと用事があって目を離した隙にいなくなったんだ」

「で、でも、ワン吉君、ダンボールの中に………」

「きっと、迷子になってダンボールの中に迷い込んだんだな、うん」

 男の人はそうだそうだと頷きながら、ボクに手を伸ばしてくる。

 この人に渡したら、ワン吉君と離れ離れになっちゃうよ………。

 

―――人の物はちゃんと返さなきゃダメだよサキ―――

 

 おにいちゃんの言葉が脳裏をよぎる。

 ワン吉君を返さなきゃ………

「で、返してくれよな」

 男の人の手がワン吉君に掛かる。

 人の物は返さなきゃいけない………でも、ワン吉君は物じゃないよっ!

「だめだよ!!」

 ボクは膝に乗っていたたこ焼きを蹴散らし、立ち上がる。

 男の人はびっくりした様で1・2歩下がると少し怖い顔で聞いてきた。

「どうしてだ? リッキーは本当の飼い主の俺の所に帰ってくるのが幸せなのに」

「嘘だよっ! ワン吉君はあなたの所に帰りたがってない!!」

「な、なにをいうんだ。ほらリッキーは、迷子になっただけなんだよ」

「だったら………どうしてワン吉君が怒ってるの!?」

「ウゥゥゥゥッ」

 そう……ワン吉君は、男の人が現れてからずっと低い唸り声を出して睨みつけていた。

 

 ダンボールの中に居たワン吉君―――今、考えるとこの人はワン吉君を………捨てたのかもしれない。

 

「だからって、そいつは俺の物なんだ! 返さないと泥棒だぞ!」

「ワン吉君は物じゃない!!」

 真正面から睨みつけてくる男の人に、ボクは負けじと睨み返す。

「それに………ワン吉君を捨てたくせに!」

 ボクがそう叫ぶと………男の人は今まで浮かべていた気持ち悪い笑顔をあっさりと捨てた。

「なんだ。気付いたのか」

「一度捨てたワン吉君に何のよう!?」

「そいつな、捨ててから知ったんだけど、結構希少種らしいんだよ。で、知り合いが100万出しても買いたいつっててな………」

「っ………ワ、ワン吉君を売る………酷いっ! 酷いよっ!! 一回捨てたくせに……そんなの!!」

「優しくしてる内に返せよ。そいつは俺のものなんだから。なんなら一万円ぐらいだったら、今までの世話賃にあげてもいいぞ」

 男の人はちらっと地面にひっくり返ったたこ焼きに視線を送り、

「一万円ありゃあ、たこ焼きがいっぱい食えるぞ」

「…………………」

 ボクが地面に落ちたたこ焼きを凝視していると、男の人は財布から一万円札を出してボクに差し出す。

「ほらよ。小学生には大金だろ?」

 ボクは手をぎゅっと握って震える。

「…………だ」

「だ?」

「………大嫌いっ!! 最低最低最低だよっ!!」

 

ガツッ

 

「な゛あっ!?」

 ボクが服を掴んで宙に持ち上げると、男の人は驚愕の声を上げ面白いくらいに狼狽する。

「お前なんか………飛んでいっちゃえーーーーーー!!!!」

 

ブンッ

 

「ぎゃあーーーーー!!」

 

ガサガサバキバキバキィ

 

 男の人はボクが力いっぱい投げると、悲鳴を上げながら公園の奥にある林の中に消えていった。

「ひっくひっく、あんな酷い人見たことないよ………」

「ワン……」

 ボクがしゃっくりをしながら涙を流していると、ワン吉君がボクの頬を舐めてくれる。

 

ぎゅぅぅぅ

 

「ワン吉君………ボクは絶対に君を捨てたりなんかしないからね………」

「ワ、ワンッ♪」

 ボクが抱きしめると、ワン吉君は苦しそうだったけど………でも嬉しそうに一声鳴いた。

 

 

 

>公園・林の奥(笑)

「ち、ちくしょう………」

 20代半ばのその男は木の枝に逆さまの体勢で引っかかっていた。

 自慢(?)の金髪も枝やら葉っぱやらがくっ付いて見る影も無い(元から見たくも無い気がするが)。

「あのクソガキ……保護者に慰謝料を………いや、それだけじゃすまさねぇ……仲間集めてぶっ殺してやる………」

 怨念の声を漏らしていると、男は周りに人が寄ってくるのに気がついた。

「誰か来たのか? わ、悪い、助けてくれないか?」

 そう言った男の視界に入ってきたのは14、5の中学生と思われる男女五人組。

 男はどうしてこんな林の中にそんな男女がいるのかも考えず助けを求める。

「ごめんねー。それは出来ないよー♪」

 男の声に答えたのは栗色の髪のショートカットの少女。何故か大きなショットガン(偽物だろう…たぶん)を担いでいる。

「ど、どうしてだ!? 助けてくれよ!」

「まったく嫌よね〜、暖かくなると馬鹿が増えて」

「………日本は一年中熱いわ」

「言葉のアヤよ!」

 赤みがかかった金髪の少女と青銀のアルピノの少女は、男の救助を求める声を無視して漫才を繰り広げる。

 そして―――

「おいっ! 何してるんだ! 早く助けろよ!!」

「ははっ、ごめんなさい。助けませんよ、あなたなんか

 笑顔で―――ただし、周りが凍りつくような冷気をもった笑顔で―――そう言ったのは、五人組の中で唯一の少年。

「シンジ君、こんな男と話しても時間の無駄だからとっととやっちゃおうよ」

 殺気をまったく隠さず、露わにしている黒髪の少女はその少年に話し掛ける。

「うん、そうだね」

 少年は黒髪の少女の言葉に頷くと、ゆっくりと木に近づく。

「お、おいっ! お前ら一体誰だ! 何が目的で……」

「………あなたが言っていたクソガキとワン吉の保護者ですよ」

 少年が笑顔を―――邪悪な笑みに変えながらはっきりと言う。

「マナ」

「は、はい! ………ちょ、ちょっと怖いってばシンジ

 栗色の髪の少女が少年に名前を呼ばれ、持っていたショットガンを木にぶら下がっている男に向かってかまえる。

「じゃあ、逝って下さい。遠慮なく」

「な゛っ!? ま、待て!! 俺に手を出すと仲間が黙ってないぞっ!」

「せいぜい、ネルフ保安部に勝てる位の戦力を集めてから来て下さいね」

 にっこりと笑ってのたまう少年に、やっと男はこの少年達―――さきほどの子供を含めて―――が手を出してはいけない相手だということに気がついた。

 が、時、既に遅し。

 

ドキュゥン

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 とてもモデルガンとは思えない発射音と聞くに堪えない絶叫が公園一帯に響き渡った。

 

 

 

>サキ

ぷすっ

ぱくん

もぐもぐ

はむはむ

 

「美味しいね〜♪」

「ワンッ♪」

 おにいちゃんが今日のおやつに買ってきたたこ焼きを二人で頬張る。

 うんっ! ちょっと嫌な事はあったけど、今日もとっても良い一日だったね♪ ワン吉君♪

「ワンッ♪」

「クワワー」(※訳『隙ありですー』)

 

シャアッ

 

「あーーー!! ペンペンがまた盗ったーーーー!!」

「クワー♪」(※訳『美味しいですー♪』)

 

 

サキ「おまけだよっ♪」



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