>シンジ
事の発端はいつものスーパーの前で起こった。
「ねー、おにいちゃん」
「ん? サキ、どうしたの?」
僕が夕食のメニューを考えていると、サキが僕の服の袖を引っ張った。
「あれ、何?」
そう言って、サキが指差したのはスーパーの前に出ている屋台だった。
えーと、『たこ焼き』か………。
「あれは屋台って言ってね、すぐに食べれる物が売ってるんだよ」
でも、珍しいな。
このスーパーに来るようになってから何ヶ月も経ってるのに、屋台なんて始めて見たよ。
「ホント!? すぐ食べられるのっ!?」
あちゃあ〜………しまった………。
サキ、もう涎を垂らさんばかりの表情で屋台を見てるよ………。
「あのね、サキ………帰ったら夕食なんだから今は………」
「えっ………食べられないの………?」
う゛っ。
そんな、今にも泣きそうな声出さなくても………。
「食べられないの………?(うるうる)」
だ、だから………。
「………(うるうる)」
結局、買ってしまった―――――。
「おにいちゃんおにいちゃん、これなんて言うの!?」
「たこ焼きだよ」
買ってしまったからにはすぐに食べなくては美味しくない、ということでスーパーの前に設置されているベンチに腰掛けて食べる事にした。
サキが嬉しそうに見つめている発砲スチロール製のお皿には、ほこほこと湯気を立てるたこ焼きが8個鎮座していた。
「それで、お箸何処!?」
わたわたと両手を振り回しながら(僕がお皿持っていて良かった)、辺りを見回す。
「サキ、これはお箸じゃなくて……」
「それじゃあ、すぷーん!? ふぉーく!?」
ゴン
「サキ、落ち着かないとぶつよ?」
「もうぶってる………(泣)」
軽く拳骨を落としサキが落ち着いたのを確認して、貰った爪楊枝を取り出す。
「この『爪楊枝』で食べるんだよ」
「『つまよーじ』?」
「そ、こうやってぷすっと刺して………はい、サキあーん」
僕は爪楊枝で刺したたこ焼きをサキの口の前に持っていく。
「あ〜ん♪」
ぱくん
もぐもぐ
ごくん
「どう?」
サキは何故か僕の問いに答えず、身体をふるふると震わせている。
………?
もしかして、このたこ焼き美味しくないのか?
ぷすっ
ぱくん
僕も一つ食べて見たが、かなり美味しかった。
じゃあ、サキはどうしたんだろう?
「お………」
「『お』? ………サキ、もしかしてお腹でも痛い?」
「美味しい〜〜〜〜〜〜♪」
「わあっ!?」
サキの大声にひっくり返りそうになり、危うい所でベンチにしがみつく。
ぱくぱくぱくぱくぱくぱく
は、早い………(汗)
サキは凄い勢いで、たこ焼きを平らげる。
って言うか、素手で掴んで食べるな。
それに僕の分まで………。
「おにいちゃん、おかわり!」
「サ、サキ……ご飯が入らなくなっちゃ……」
「お・か・わ・り」
「………はい」
サキ、目が座ってるよ………(汗)
その後、20皿ほど平らげたサキはこうのたまってくれた。
「おにいちゃん、今日のご飯たこ焼きね♪」
………マジですか?(汗)